第40話、軽い天罰

「ほら、行きますよ!」

 ティアに手を引かれ宿から出る──訂正、ティアに引き摺られ宿から連れ出される。因みに空はまだ日が登ったばかりで赤みを帯びている。


「ちょっ、いくらなんでも早すぎだろ」

 夏で日が登ったばかりの今はまだ四時、日本なら朝市だって開いてはいない。

「こんな朝っぱらから何処に行くつもりなんだよ…」

 ティアはそれには答えず。俺の手を引き、ズンズン進んで行く。


 そして、辿り着いたのは──

「ここです」

 朝日を背に受け神々しささえ醸し出す教会があった。そして、その隣も教会。さらにその隣も…。一際大きな教会を中心に少し小さな6つの教会が並んでいた。教会の尖塔は朝日を反射し輝いている。

「送別会の日に先輩の冒険者の方に言われたんです。王都に行ったら一度はこの景色を見るといいって」

 それっきり、2人とも暫く黙って景色を見ていたが、やがて日は高くなりその神秘的な輝きも失せ、どちらとも無く立ち去ろうとした時、ふと、並んでいる教会の一つが目に留まった。右から2番目の教会だ。


 ナニカが呼んでいる。

 

 そして、何故かは理解できないが行かなくてはならないことだけは分かった。


「なぁティア、あの教会入ってみていいか?」

「水の女神の教会ですか?空いているとは思いますけど…」

「なんか、折角来たんだし少しぐらい見ていかないとなぁ」

 修学旅行に行けてれば京都で寺巡りする筈だったんだけどなぁ。京都の寺を巡る代わりに異世界の森を彷徨ってたわけで…。いや、我ながら全く笑えない。




 ギィィー


 重厚な木の扉を開け中に入る。アニメとかで教会の扉を勢いよく開け放つのを見て彼らは何処からそんな力が湧いてきたのか不思議に思ったものだ。


「朝早くにようこそ」

 中にはシスターが番をしていた。

「今回はいかなる御用で?」

 観光ですと答えて良いものか…。失礼だったりしない?

「お祈りをしておきたくて」

 取り敢えず無難そうな返答を試みる。信徒の証を─とかはなしですからね⁉︎

「そうでしたか。そちらに祭壇があります」

 ありがたいことにシスターはそれっきり手元の分厚い本に没頭している。

 教えられた通りに行くと学校の教室くらいの部屋にでた。

 その奥にある祭壇には優しげな笑みを湛えた女性の像があった。恐らくあれが水の女神だろう。

 祭壇の元へ行き膝をつく。そして胸の前で手を組んで目を瞑る。ついでに祈り方は異世界でも同じでありますようにとも祈る。




───気づいたら何もない真っ白な空間に立っていた。異世界転生とか転移とかの最初で主人公が神からあなたは異世界転生しました。とか言われる時のあの場所だ。

 もっとも、既に転移してから数ヶ月は経っているのだが…。神様もう数ヶ月早くして欲しかったです。


──仕方ないじゃない。今まで貴方色々あったし──


 少し拗ねた様な母性に満ち溢れた声が聞こえた。女神様?いや、それにしてはフランク過ぎる。威厳も何もあったもんじゃない。


──失礼な人ね、ちゃんとした神よ?天罰しちゃおうかしら?──


 神だった。oh神よ!こんなのが神で良いのか?

 今回は口に出していないからセーフ……待てよ?神様なら人の心を読むくらい…


ポカリッ


 頭に軽い衝撃


──当たり前だけど考えてる事は伝わってるわ。本当に天罰しちゃうわよ?──


 今叩いたのは?


──……天罰──


ポカリッポカッ

 

 あぁ、蹴るぞ?って言たのに実際はもう蹴った後だったっていうアレですね?あるあるかな?

 

ポカリッポカッドコドンガン


 神様、痛いです。さっきから芯を捉えた良い打撃音が響いてます。

 途中から威力が上がってきたぞ?

「それより女神様、俺をここに呼んだのはどうしてですか?」


──あ、そうそう。忘れてた──


忘れてたのかよ


 突然、目の前に丸テーブルと2脚の椅子が現れた。ついでに白いワンピースを着た大学生くらいの母性溢れる女性も…。水の女神って母性溢れる人が多いよな…。



「もっかい天罰する?それにしても、ムードが出ないわねぇ」

 現れていきなりそんなことを言うと、えいやっと指を振った。


 気付いたらテーブルはそのままに俺は草原に立っていた。俺をこの場に招いた張本人は足を組んで悠長にティーカップを傾けている。


 もう少しで絶対領域が見え……ないだと。自称神様の絶対領域は絶対不可視らしい。


「ほら、座って?」

 自称神様らしいので逆らわずに椅子に座る。

 どこからともなく目の前に紅茶っぽい何かが入ったティーカップが出て来た。


「信じてくれないみたいだから自己紹介からね。私はアンジェリーナ。水との神よ。アンジェって呼んで」

「俺…じゃなくて私は澤井悠二です。こっちに来る前は学生でした」

 マジで神様っぽいので緊張してきた。


「あ、そんなに固くならなくても良いわよ。気に入らないからって天罰しないし」

 あれ?さっき天罰された様な…イエ、ナンデモナイデス


「で、呼んだ要件なんだけど」

「はい。伺います」

「あなた…ぅーん…ユウ君でいいや。ユウ君は今回の転移についてどのくらい知ってる?」

 確か商人…アナンさん辺りがなんか言っていた様な…

「他にも転移して来た人がいる程度ですね…あ、他の人達は皇国にいるとか」

「ここから話す話はかなり重要なことよ、よく覚えておきなさい」

 いきなり真面目な表情になったアンジェ様は俺のクラスメイトについて話し始めた。

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