第39話、アルテアパンチ?
いつも通り朝食を取った後にあのクソマズい実を食べ、いつもの様に一通り悶絶する。
ティアはまたやっていると呆れた様子でこちらを見ている。うぅ…マズい…。
胃の中のものが込み上げてきそうになるのを我慢する。…ここまではいつも通り。
ただ今日は一つ頼みたいことがあった。
それは…
「ティア、俺に攻撃魔法を教えてくれ」
そう、魔法である。ギルドに入り、俺は学んだ。30歳まで○貞でなくとも魔法を使えると言うことを‼︎…じゃなくて精霊と戦ってみてこのパーティーで俺が魔法が使えないのは致命的だと分かったのだ。
実際この前は無事だったとはいえ、精霊を撤退させただけなのである。未だどこかで息を潜めている筈である。そして、次に戦う時も勝てるか?と思うと…(高確率で負けると思うんだよなぁ…これが)
という訳で、精霊に攻撃する手段が欲しい。そして、精霊相手に接近戦はなるべくしたくない。サラマンダーの時は体表が炎に護られていた訳だし、接近戦をするにも、遠距離から魔法で弱らせてからにしたいというわけだ。
「残念ながら教えられません」
まさかの即答⁈
「な、なんでだ?まさか実は年齢制限とか…」
てっきり30歳から魔法使いに慣れると思っていた。だが、其れは20歳くらいの魔法使いのお兄さんがいたことで否定された。なら…10歳までに何がしなくてはならなかったとか?それなら俺は一生魔法が使えない…。なら、なぜ身体強化は習得できた?と、そこまで考えた時ティアがこちらをみながら笑いを堪えていることに気がついた。
「な、なんだよ攻撃魔法が使えないと落ち込んでいるのがそんなに可笑しいか?」
「私に聞いても無駄なだけです。頑張ればあなたも使える筈ですよ?それとその…表情を…骨を取り上げられた犬みたいなその顔はダメです」
そう言うとティアは笑うのを堪えきれず、テーブルに突っ伏してしまった。
「…なんでティアに聞いても無駄なんだ?確か魔法使ってたよな…」
ティアが落ち着くまで待ってから聞いてみる。
「えぇ、使ってましたけど、実は、一部の例外を除いて私が使う魔法とあなたが使う魔法は根本から違うのです」
「と言うと?」
気になったので尋ねてみると、少し長くなりますよ。とティアが語り出した。
「ユウジ、あなたが魔法を使うにあたって魔力を感じるところから始めませんでしたか?」
「そうだったな…」
あれ?脳がその時のことを思い出すのを拒んでいるぞ?エアカッタタタタタ?
なんだろう?寒気がしてきた。
「私達はそれをする必要がないのです。これは種族的なことなんですが私達は直接魔力に作用できますから」
そこで、一度言葉を切り
「そして、魔法には種類があります。熱を操り攻撃に長けた火属性魔法、水をあなつる攻守のバランスの良い水属性魔法、土、鉱物を操る防御重視の土属性魔法、風を操り、魔法が視認し辛いことが魅力の風属性魔法、呪いの闇属性魔法、対アンデット戦に長けた光属性魔法、に加えて身体強化や結界、回復魔法を含んだ無属性魔法があります。全ての魔法はこの内のどれか或いは複数の属性、ごく稀に固有魔法、のどれかに属します」
そう言いながら一つずつ実演してくれた。
流石に闇魔法の実演はご遠慮願った。毛根が死滅する呪いとかはイヤだからね?
講義は続く。
ティアによると無属性以外の魔法を使うにあたってヒトは魔力を練り、自分が使える形にする必要がある。それに対して他の種族、例えば竜人、エルフなどの魔法が得意な種族、まして使徒ともなればその必要がないため魔力を練るという感覚を教えられないとのことだった。
つまり、たとえティアから魔法の使い方を学んだところで人族である俺には扱えないということだそうだ。
という訳で、作戦名〝魔法使いになろう‼︎〟は見事に頓挫した。先生がいなきゃ授業は始まらないよね…自習?それは睡眠時間の間違いじゃないかね?
「あっ…でも、結界系の魔法は教えられますよ。あれは無属性魔法なので」
「おっ、じゃあ頼む」
「はい!」
花が咲く様な笑みと共に返事が返ってくる。
確か…この笑みを浮かべる時は…
「あ、あ〜でも、スパルタ教育は勘弁してください」
急にイヤな予感がしてきたので一言付け足す。言ってからスパルタ教育って異世界で通じるのか?と思ったが
「む〜、しませんよ。だいたい、私がいつスパルタ教育をしました?」
と、アルテアが膨れっ面をしているところを見るにちゃんと伝わったらしい。
それとアルテアさん?あなたスパルタ教育ならいつもしていたでしょう…。
なんて心配はしていたけれど…。
「結界と言うのは簡単に言えば魔力で出来た壁です。なので、その強度や効率を度外視すれば簡単に習得できます…って聞いてますか?」
考え事をしていたのがバレた様だ。
「お、おぉ悪い…思ったより普通だなって」
「優しく教えて欲しいと言ったのはあなたですよね?今からでも変更できますことよ?」
「け、結構です…普通がイチバンダヨネー」
「ならしっかり話を聞いたほうが良いですよ?」
なんやかんやして数十分後、
「万物より護る盾はここに在りて〝結界〟」
唱えると共に掲げた手の先に僅かに赤みを帯びた透明な魔力の壁が生まれる。
「よく出来ました」
「ところで、これってどれくらいの強度が有るんだ?」
軽く殴っただけで壊れるのだったらあっても無くても変わらない、どころか魔力と詠唱時間の無駄でしか無い。そう思って聞いてみたのだが、聞いてから、しまった。と思った。
何故かって?
「少し攻撃してみますね」
ボコられるフラグが立ってしまっただろうがよ‼︎
「俺に当たらない様にね?頼むよ?」
いや、まじで。異世界に来てからの主なダメージ源がティアな気がするんだよ…。
「では」
そう言うと気負いのない動作で、軽くと言ってもこの前の奴隷商をボコった時くらいの強さの拳が飛んで来た。
ガンッ
割と大きな音がしたが結果にヒビは入っていない。
「ほぅ、これを止めますかて…ならば、アルテアパンチの出番です」
(終わった…)
「動かないでくださいね」
アルテアのパンチが颶風を纏って結界に突き刺さる。
ガラスの割れる様な音がして結界が破れる。
そのまま拳は体に突き刺さる──直前で止まった。
それを見届けるとティアは満足した様に頷き
「しっかり破れました。満足で──…じゃなくてそこそこの防御力はありますね。合格です」
「これで精霊の攻撃も防げるかな」
「範囲攻撃ならもしかしたら──威力重視のは無理ですね」
「やっぱりか…」
正直そうだと思っていた。
(まぁ、範囲攻撃用の盾を手に入れたと思えば良いか)
「それより、明日あたり王都観光しませんか?」
その為に王都まで来たんですよ!と楽しみでたまらないと言う様な顔で言われてしまっては是非もない。
「まず何処から行きましょう。商店から回るのも良いし…でも、教会巡りも…」
明日の予定を考えているティアにブンブン振られている犬の尻尾を幻視しながら宿へと歩いた。
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