第38話、テンプレからの…

「ユウジ」

「あぁ、気づいてる。参ったな俺たち隠密スキル無いんだったな〜」

 う〜む。本当に困った。


 俺たちは今、絶賛追跡中にして、追跡されてもいる。

 どういうことかと言うと、俺たちは依頼されたバイソンを追跡中で、その俺たちを誰とも知れぬ何人かが追跡中って事だ。


「こんなところまでついてきてどうしたんですか?」

 人がいそうな方向にできるだけ穏やかに声を掛ける。


「ゲヘヘへ、確かになぁ、あんたの言う通り上玉だ」

「だろ?」

「少しくらい味見すんのは良いよな?」

「少しくらい楽しんでも良いだろぅ?」

「あぁ良いとも。…おい、それで良いよな?」

「勿論でっせ旦那ぁ」


 何時ぞやのナンパ男達(チャラ男+マッチョ)と小太りの男+仲間達が現れた。しかも囲まれている。


「あんたらどうしたの?」

 一応聞いておく。もしかしたらバイソンの肉を味見したいのかもしれない。その可能性は0.03%くらいあるかもしれない。


「分かってんだろ」

 チャラ男が苛立ちを隠さずにそういう。

「早く女を寄越せよ。少し楽しんだらそこの奴隷商に売るからよぉ」

マッチョの方もそれに続く。

「すぐに買い戻すと良いさ」

「ま、その時にはもう壊れてると思うけどな」

「グフフふ…お高く買い取りまっせ。グフフ、グフ」

 小太りの男はさっきからずっと笑っている。どうしたものか…。


 ふと、殺気を感じて横を見ると、ブチギレているアルテアがいた。今にも男達に飛びかかり文字通り血祭りにあげそうな雰囲気だ。これを止めるのは無駄っぽいので一言。

「死なない程度にね?」


 その瞬間辺りを突風が吹き荒ぶ。


 圧倒的なプレッシャーが辺りを支配する。

 獲物だと思っていた女の豹変に男達は怯む。 

 アルテアは嗜虐的な笑みを浮かべる。

 さっき言ったこと忘れてないよな?

 俺は不安になる。


「や、やっちまえ‼︎」

 チャラ男が叫ぶ。が、もう遅い。

 アルテアがこちらへと突っ込んで来ようとした男の懐に潜り込み腹を殴る。と、ほぼ同じタイミングで二人目を高速足払いで薙ぎ倒す。


 男達の足が止まる。否、止まってしまった。

 ここで一斉に逃げ出せば可能性はかなり低いが、男達の内、何人かは逃げ切れたかもしれない。

 だが、実際は止まってしまったのだ。


 そこからは、アルテアの独壇場だった。男達はあっという間に倒れ伏す。数ヶ月前の、訓練という名の強制フルボッコを受けた後の俺もあんな感じだったのかもしれない。嬉しいことに毎日こんな感じだったが。

 本当に…新しい扉ドMが開かなくてよかったよ…。

 ただ、そろそろ止めたほうが良さそうだ。

 

 イメージは、そう。後ろから爽やかにアルテアの肩に手を置いて、耳元で「もう十分だろ」と囁く。これなら…うーむ、なんかキモい。でも、早く止めないとガチで死人が出そうだ。


サワイユウジ逝っきまーす!


「なぁ、アルテ─グボォっ」


 作戦失敗!

 


 肩に手を置いた瞬間、バキィっと音を立てて顔面に裏拳がめり込んだ。そして情けないことにひっくり返ってしまった。こんなところを誰かに見られでもしたら…。


 

「な…あ、あんた達‼︎何をしているのよ!」

 

 どうやら、誰かに見られてしまった様だ。それにしてもこの声は…


 今朝声をかけてきた人冒険者をしている王女様だった。

「な…あなた、さっきの…。」

 次第に驚きでいっぱいだった王女の声に怒りが混じる。


「嘘を報告するだけじゃ飽き足らず、こんな事をするなんて…」


 ん?誤解がある?


「こんな事ってなんだ?」

 顔をさすり、起き上がりながらそう言うと、


「惚けないで‼︎どうせ貴方がここにいる人達と結託して彼女を襲おうとしたんでしょ‼︎」

「そんな訳ないだろ!俺とアルテアがこいつらに襲われたんだよ‼︎」

 イライラしてしまい口調が荒くなる。本当にどうしたものか…。


「だった、何であなたは殴り飛ばされたのよ‼︎」

「それは…それは…なんでだろうね…。」

 それは俺も知りたい。

 だが、彼女はそれは上手い言い訳が無かったが故の逃げだと思ったらしく、

「ほら見なさいよ‼︎」

 更に勢いづいて俺を糾弾し始めた。

 このままでは埒があかない。そう思ってアルテアの方を見ると、アルテアも同じ考えの様でこくり、と頷き、王女の方へ一歩。

「あら、やっぱりあの男になんかされたのでしょう?」

 更に勢い付いた様に王女が捲し立てるが、それを無視してアルテアが一言。

「あの、彼は何もしてませんよ?」

「ほら、彼女もなんかされたと…えっ?何もされてない?」

 王女の顔がサーッと青くなった。

 が、そこは王女。すぐに何ごとも無かった様に取り繕う。

「そ、そう…な、ならよかったわ…それじゃ」

 そして、そそくさと森の奥へ退散していった。

「ティア、マジで助かった。」

 あのままだったら俺はパーティーメンバーを奴隷商と結託して大人数で襲った挙句当のアルテア一人に全員でのされた間抜けな人ととして捕まるところだった。

「アルテアさん、まじ感謝」


 頭の中でどこからか出てきたスモールな俺が俺の右肩に乗り言う。

『でも実際は、ティアを止めようとしたら間違いで瞬殺されたよなぁ。ケヒヒヒ間抜けだよなぁ。仲間にワンパンされるなんてよぉ』

ニヒルな笑みを浮かべたどこか厨二チックなスモール俺もどこからか湧いてきてこれまた俺の左肩に乗りそんな事を言う。

『でも、誤解は解けた…』

『うるせぇ!奴隷商と結託して襲った挙句瞬殺されたのよかカッコつけて止めようと思ったら瞬間された方がダセェだろうがぁ‼︎』

 うぐぅ…自分の脳内の議論でダメージを負うとは…。

 ホワイト俺の反論に期待…。

『た、確かにカッコつけた挙句ワンパンはダサい…認めたくはないけど奴隷商の方が上かも…』

 ホワイトさぁ〜ん?ホワイト俺は悔しそうな顔をしながら消えていった。ブラック俺も高笑いしながら消えた。

 奴隷商に負けるとは…無念。


「そ…そ、それより…」

「ん、ど、どうした?」

「頭…大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない…心が」

 アルテアが本気で心配そうに聞いてきた。

 純粋に殴ったことで心配だから聞いたのは分かる。

 ただし…言葉は選んで欲しかったぁぁ…。

 その言葉は今の俺には特別刺さる。何せ、さっきまでホワイトな俺とかブラックな俺とかやってたからなぁ‼︎



 その日の我がパーティーの収入は主に、嫌な現実を忘れようと暴れ回る少年のせいで三割り増しになったとか…。

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