第37話、王女サマ

 ギィィ、と音を立てるドアを開け、王都のギルドに入る。

 中は──フューレンと時と違い、受付嬢が若い娘ばかり俺と同じくらいの人もいる。そして、何より冒険者の数が多い。扉を開いたまま立ち止まりあたりを眺めわたしていると冒険者が数人、何だお前、とでも言うかのようにこちらを睨んできた。そして、その中のいかにも軽薄そうな男とガタイの良い金髪の二人組がこちらへ寄ってきて、

「そこの美しい嬢さん、そんな冴えない男は放って置いて僕達と一緒に遊ばないかい?」

「そんなガキといるより楽しいぜ、もしかしたら気持ち良くなるかもな!」

「君という花はボク達の様な素晴らしい人の近くでのみ咲き誇れるのさ」

 うへぇ、痛いヤツが来た。でも、これこそがフューレンでは全く無かったギルドでのテンプレその1、ガラの悪い冒険者に絡まれる。だ。

「ほら、ぼくたちといっしょに──」

「お断りします」

 軽薄そうな男の言葉を遮るようにして放たれた不快感を隠す気も無いアルテアの言葉に男達が眉を顰める。

「お嬢さん?今何と言ったかな?私には良く聞こえなかったのだが」

「貴方達みたいな人といるのは死んでもお断りだと言ったのですよ」

 アルテアと三ヶ月近く一緒に生活したから分かる、これはいつものティアモードじゃ無いガチギレ一歩手前のワニワ◯パニックモードだ。

「テメェ、見た目が良いからって調子に乗りやがって」

「少しお仕置きが必要かな」

 男達も額に青筋を浮かべる。

 あれ?俺、空気じゃね?お〜い、俺もいるんですけど〜?


「お仕置き?貴方が私に?本当に出来ると思いますか?」

「テメェ、後で謝っても許さないからな」

「どんな声で鳴くのか楽しみだよ」

 チラチラッと男達の方を見てみる。全く反応されない。

 ダメだ、俺は完全に空気になってしまったようだ。ならば、(その空気化を)私は拒絶する‼︎


「あのぉ〜、お兄さん方?彼女は私ののパーティーメンバーなんで、そうゆーのはご遠慮願えます?」

「あん?誰だお前?」

「僕達と彼女との会話を邪魔するなんてそんな無礼な君は誰だい?」

 チクショー、居たことすら認識されてなかったよ…。

「悪いけどパーティーは解消してもらうよ」

「そこの女は今日からこっちのもんだ‼︎飽きたら返ってくるかもな」

「さっ、ほら行くよ」

 軽薄そうな、男がアルテアの手を掴もうとして、


バチンッ


 手を弾かれた。


 手を弾かれた男は、信じられないといった様子で自分の手を押さえ、その顔は次第に激昂で赤くなり、

「テメェ許さないからな!」

 いきなり、アルテアに殴りかかった。


 が、当然、ステータスが俺よりオバケなアルテアに当たる筈も無く躱される。


「ふっ、やる様だなだがヨォ、コッチはなぁ二人なんだぜぇ」

「二体一で、どこまで耐えられるかな?」

「ほらョォ」

 と、ガタイのいい男もアルテアに殴りかかる──のを、俺が手を掴み止める。そろそろ言わないといけないと思うんだ。

「俺もいるんですけど」

 さっきから、二体一って、俺のこと忘れてません?

「どけよ、てかお前どこから湧いてきやがった」

 やっぱり忘れられてたよチクショー、さっき話しかけただろうがよ!


 男が俺の手を振り払い、背中に背負っていた棍を構える。

「ギルド内でそれはまずいんじゃないか?」

「はん、怖気付いたのかよ。今なら土下座してもう逆らいませんってなら女と身包みだけで勘弁してやるよ」

「あっそう」

 イライラしてきた。相手もその気なので殺さない程度に気を配りながら殴りかかる。


 ドスッという音とともに俺の拳は腹にめり込み男は倒れた。

 アルテアもアルテアで軽薄そうな男をぶちのめしていた。


 アルテアと顔を見合わせため息を吐く。遅くならない様にギルドに急いだのにかえって遅くなってしまった。

 

 急いで報酬を受け取り宿探しに奔走した結果どうにか宿は取れた。




 翌日、


 俺たちはギルドに来るなり同じくらいの年の少女に睨まれていた。

 というのもどこから聞きつけたのか俺たちが精霊に遭遇したという事について聞きにきたのだ。


「それで?どうやって精霊を撃退しのかしら?見たところその剣は魔道具でもない様だし、そこの彼女は戦闘に参加してなかったと言ったわよね」

「魔力を剣に纏わせて、」

「本当にできる?国中探してもそんな事をできるのはほんの一握りよ?Cランクにすらなっていない貴方にできることじゃ無いわ」

「そんな事言われても」

「貴方、魔力制御のスキルは?50超えてる?」

「いや、超えていないが…」

「だったら、いくら有名になりたいからと言って精霊を撃退したなんてすぐバレる嘘はつかないことね」

 そう言って女は去っていった。言いたいことだけ言って帰りやがって、何だあの女。


「何だったんだろうな」

「さぁ?」

「なんか依頼でも受けるか」

 折角朝早く来たのにさっきので時間を使い過ぎてしまった為か、美味しい依頼は既に無くなってしまっていた。クソが‼︎

 


「はぁ、取り敢えず今日はこれで良いか?」

「バイソンの討伐ですか。良いですよ」


 アルテアさんも承諾したので今日はバイソンの討伐をすることにした。

 バイソンと言っても地球に居るものとは全く異なる。何せマイクロバス並みの巨体を誇る。それだけ聞くとかなりヤバそうだが、性格は極めて臆病で下手に刺激しなければ襲われることもない。が、畑の作物を食い荒らす為こうして討伐依頼が出されている。


「バイソンの討伐ですね。受注を確認しましたそれではお気をつけて」

「……それと、くれぐれも人前ではさっきの女性の悪口を口になさらないでくださいね」

 茶髪のお姉ちゃん肌の受け付け嬢──マリアと胸のネームプレートに…豊かな二つの膨らみが──ゲフンゲフン…彼女が一応念の為という様に付け足した。


「……分かった。だが、どうしてだ?」

「実はあの方」

 シリアルキラーとか?悪口を言った瞬間に後ろからナイフでズブリと──

「この国の王女様です」

「いや、何で王女様が冒険者なんかしてるんですか」

 思わず敬語になってしまった。

「さぁ?ギルドはそこら辺の個人情報は調べませんので」


 何という、王女が冒険者をしているとは、是非とも好感度を上げ、アキラに再会した時自慢しなくては。……あれ?既に好感度マイナスじゃね?

 

 好感度上げは難航しそうだ。


「あぁ、それとどうして彼女は俺が精霊と交戦したことを知っていたんだ?」

 俺たちは一言もそれを喋っていなかった筈だ。

「ツオルクさんが情報提供してくれたんです。ユウジさん達も何があったらギルドに報告してくださいね?」

「俺たち以外に精霊を見たという人は?」

「ん〜、今の所いませんね〜。だから彼女も疑ってたわけですし」

 疑ってたというより嘘だと決めつけてたぞ、あの態度は。

「ま、でも、私はあり得ない話じゃないと考えてますよ。これはまだそんな広まって無いんですが、最近ここら辺には居ないはずの魔物が現れてますから。ですから、気をつけてくださいね?」

 怪我したらダメですよ?付け足し彼女は仕事に戻っていった。

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