第36話、護衛依頼2

 火の下級精霊サラマンダーの元へと走る。


 火の下級精霊サラマンダーもそれを妨げようとサッカーボール大の火球を連続して放つ。


 異世界に来て早々くらいかけた、誰とも知れぬ人の火球をはるかに上回る威力とスピードで迫り来るそれを刹那たりとも逡巡する事なく躱す。


 例え、後ろに護衛対象の馬車があろうとそれは足を止め迎撃する理由にはなり得ない。  

 何故ならアルテアが、任せろと言ったから。


 そして遂にサラマンダーの下へ辿り着く。


 剣を振るう。


 が、まるで霧を裂いたように一切の手応えもなく、振るわれた剣は火の下級精霊を通り過ぎた。


 再び、三度、そしてまた、


 連続で剣を振るうがどれも毛程の手応えすらない。


 ダメージが無くとも何度も斬りつけられ不快に思ったのか火の下級精霊サラマンダーが体に炎を纏う。


 サラマンダーの体がゴォォッと、燃え上がり辺り一体に炎が広がるそれを躱しきれず吹き飛ぶ。


 追撃は──来ない。


 何故なら、追撃の代わりにサラマンダーは大規模な魔法の準備をしていたからだ。体に纏っている炎が膨大な魔力を帯びる、本来見えない筈の魔力がまるで蜃気楼の様に辺りを揺らがせる。


 あたかも、焔の主を護るかの様に燃え盛る焔を見て閃く。


 直感が訴えてくる。形は違えど、アレがティアの言う魔法剣の仕組みの一端であると。


 魔力で剣を保護するイメージをつくる。まだ慣れておらず無駄が多いからかガリガリとMPが削れていくのが分かる。


 そして、絶え間なく魔力が漏れている感覚があるが、遂に剣が魔力を纏った。


 そして前を見て、戦慄。


 サラマンダーの周りを取り巻く数多の火球。そして放たれる。今度は避けられない。回避できる場所が無いのだ。


 だから、


──つっこむしかない。


 とは言え、無抵抗に食らっていたら、間違いなくサラマンダーの元に辿り着く前に力尽きる。


 せめてもの抵抗として火球に斬りつける。


 目論見は半分成功した。


 確かに火球を斬ることはできた。だが、それは必ずしも火球を回避……できたと言うことにはつながらない。

 

 切断された火球はその場で広がり視界を覆う。


 熱さに耐えながら腕で顔を覆ってひた走る。


 そして炎の弾幕を超えた先にいるサラマンダーに斬りつける。


 確かな手応え。


 だが、相手も下級とはいえ精霊。ただではやられない。追撃を回避しようとせず、代わりに、再びの魔法。今度は発動までが早い分、先程よりも火球の数も大きさも小さい。が、至近距離ではなおも脅威で、慌てて距離を取ろうとするが、当然間に合う筈も無く敢えなく馬車の側まで吹き飛ばされる。


 起き上がり、追撃に備えて自分の目を疑う。

 サラマンダーの体がみるみる透き通っていくのだ。

 そして数秒後、火の下級精霊はその場から消えた。


 暫くそのまま警戒していたが何も起こらないので剣をしまう。


「ツオルクさんは?」

 ティアの元に駆け寄る。

 其処には──ひどい火傷の後が未だ身体中に残る冒険者が、横たわっていた。


「治りそうか?」

 ティアに問いかけると、回復魔法は苦手だから時間はかかるが恐らく治せる。と返ってきた。

 

 と、そこへ

「ユウジ‥‥さっきの精霊は‥‥どうした」

 少し苦しそうなツオルクさんの声。

「どこかに消えました」

「そうか‥良くやった」

「‥‥」

「何で‥‥」

「‥?」

「何で庇ったんですか?」

「何でってそりゃ俺はお前に比べてMPがカスみたいな量しか無いからな、俺が残っ出ても勝てる可能性は低かった」

「‥‥‥」

「納得できねって顔だな。納得出来なくてもいいがそう言うことだ。‥‥それと、ステータス‥‥は‥隠蔽しろ‥‥不用心過ぎだ」

 喋り過ぎたのだろう大分苦しそうにしている。だが、まだ依頼の途中。投げ出すわけにはいかない。ツオルクさんをアルテアに任せ再び見張りを始める。


 再び精霊が現れるのではと危惧していたが、幸いにもその後は襲撃は無く王都に着いた。



「助かった。嬢ちゃんありがとよ。それにユウジも」

 ツオルクさんもティアの回復魔法で取り敢えず立てるほどには回復した。


「色々ありましたが依頼ご苦労様でした」

 依頼主のアナンさんが労を労うねぎらう


「ところでアナンさん」

 一つ聞こうと思っていたことがあった。

「何ですかな?」

「突拍子もないことを聞くようですが、最近、何処からか召喚された人とか異世界人のウワサを耳にしませんでしたか?」

「異世界人の噂ですな」

「‥‥」

「‥あくまでも噂ですが、何でもエーゼンハルト皇国が異世界人の集団を保護したと、と言ってもあくまでも噂ですし、更にあの国は黒い噂が絶えないので本当に保護したのかは何とも」

「そうですか。ありがとうございます」

「それと、」

「何ですか?」

「あまり異世界人ととれる言動は慎んだ方が身のためですよ?」

「えっ」

 どうやら異世界人であるとバレていたらしい。

「ど、どうして分かったんですか‥」

「いや、どうしても何も‥」

 アナンさんは少し苦笑し、

「異世界人がきたと言う噂は本当ごく僅かな人しか知らないことで、それを一介の冒険者知っているとなるとあなたも異世界人ではと言う結論になります。と言うのが表向きで実際は生き物や物のステータスより詳しく見ることができるというを私の固有スキルですな」

「固有スキル‥良かったんですか固有スキルの内容を言ってしまって」

 この世界では固有スキルの事は基本信頼できる人にしか明かさない。

「大丈夫ですよ。何せあなたがその情報を漏らした時私があなたの正体を周りに話せば、困るのは貴方ですからな」

「なるほど」

「では、今後ともコシェート商会をご贔屓に」

 そう言ってアナンさんは馬車に乗り去っていった。


「なぁ、ティア」

「えぇ、そうだと思います」

「やっぱりか」

 多分アナンさんはティアの正体も見てしまっている。ティアの方はいくらなんでも誰も信じないとは思うが

 既にやってしまったことは仕方ないとして、


「それにしても王都か〜これで俺も都会の人!」

「‥では無いと思いますよ」

「ですよね〜」

 都会の人は「これで俺も都会の人!」とかやらない。

「それより、早く報酬の受け取りに行きますよ。ゆっくりしてて宿がいっぱいだったから今日は野宿だ、ということになったら目も当てられません」

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