第34話、壮大な誤解と余計なお世話
柔らかな朝の日差しが安物のベッドに降り注ぐ。どこか深い所の中から、意識が引き上げられていく。
目を開くと、目の前に流れるような銀色の髪、長いまつ毛も銀に彩られている。そして、整った顔立ち‥‥そこにはアルテアの顔があった。
宿の同じベッドで泊まっている以上そんな事は日常茶飯事だが、いつもと違うのは俺の腕の中にアルテアが、そしてアルテアの腕の中に俺が‥‥要するに抱き合っていたと言う事だ。
昨日の寝る前の記憶を必死に呼び覚ます。
酔ったと言うアルテアの手を引いて宿に帰り、ベッド寝かせようとして‥‥
はて、昨日の俺はもしかして階段を登ってしまったしらん。とか、大人の階段の〜ぼる〜なんて歌詞のうたがあったなぁ〜とか、現実逃避しているとアルテアが起きた。
「お、おはようございます」
若干、いや、かなりぎこちなさを感じるのは気のせいでは無いだろう。ここは、俺が打開しなくては‥
「ティア」
「へっ?」
口を開こうとした矢先、機先を制するように話しかけられた。
「ティアって呼んでくれませんか?昔、仲の良かった人は皆そう呼んでいたので‥‥」
「分かった。ティア、でいいんだな?」
「はい」
その返事は少し恥ずかしそうにでも、心なしか弾んで聞こえた。
少し寝坊したため食堂で遅めの朝食を摂る。
必然的に向かい合わせになるのだが‥‥
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥」
お互い何も喋らない。
こんな時、どうやって話を切り出したらいいのか、何を話したらいいのか全く分からない。
こんな時の話し方を学んで来なかった自分が、恨めしい。
学校でもこの辺りのことを教えるべきだ‼︎
それよりも、お願い‼︎なんか言って‼︎
そんな心の声が届いたのか
「今日は何か予定ある?」
と、
「何も無いけど‥‥どうしようか‥‥」
「予定が無いなら、取り敢えずギルドに行くとか?」
申し出があったので、準備をしてギルドへと向かうことにした。
「いらっしゃい‥‥今日は何のようで?」
「何となく?」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥っ」
ギルドへ来たのは間違いだったのかもしれない。そう気づいたのは、サリーさんにじっくりと、何かを探るように見つめられた時の事だった。
「‥‥ハァ〜」
サリーさんが頭が痛いというように溜息をつく。
「お前達‥‥登ってしまったのかい‥‥」
何のことだ?
「依頼の前日はやめとけと言われたから前々日にしたとは‥‥」
前日はやめておけ…。あれ?なんか言われた様な…。
…まさか、そう言うことか。と1人納得していると、
「ユウジ…お前さんはもう少し我慢出来る人だと思っていたよ…。私の目は曇っているのかねぇ」
「壮大な誤解⁈」
して無いです‼︎‥‥危ない所までは行きましたケド‥‥ホント、ナニモナカッタデスヨー
「あれ、この様子で‥‥ユウジ」
あれぇ?おかしいなサリーさんの表情が険しくなったぞ?
おもむろに近づいて来たサリーさんに
「ユウジ‥いったいお前はどんな粗相をしたんだい?」と囁かれた。
「どんな粗相も何も、酔ったまま同じベットで寝落ちしただけですよ⁈」と囁き返す。
サリーさんの表情が憐れなものを見るような顔になった。
「アルテアちゃん悪い事は言わない、男選びはもう少しちゃんとした方がいいよ‥‥」
そんな言葉を残してサリーさんは再び仕事に戻っていった。
「何か依頼をこなすか‥」
「そうですね‥‥」
アルテアが登録したばかりで、Eランクまでしか受注できなかったため、少し悩んだ挙句、毎度お馴染みEランクの角兎狩りを受注する。
「さぁ、行くか」
「えぇ!」
初めてのクエストというだけあってかティアもいつもより気合いが入っている。
角兎狩り‥‥角兎を跡形もなく吹き飛ばすとかはやめてくださいね‥‥
十数分後、早速角兎の群れを見つけた。以前は苦戦はしたが今ではステータスも桁違いだ。その為、全く苦戦せず倒してしまった。
そして、目標の十五匹はあっという間に達成されたので、
「森、入ってみませんか?」
「そうするかぁ」
森に入ることにした。
数分後、俺たちは囲まれていた。
誰に?って?
俺たちはゴブリンの群れに包囲されていた。しかもただのゴブリンでは無い。ホブゴブリンにゴブリンマジシャン、ゴブリンナイトと上位種が多い。
「ティアはマジシャンの方を頼む」
頷くのを見て俺はゴブリンナイトの方へと突っ込む。ゴブリンナイトにゴブリンマジシャンを守られると面倒だからだ。
まず、一番近いゴブリンナイトに剣を振り下ろす。
剣を振り下ろされたゴブリンナイトは
グギャャ
と言う声をあげて倒れた。
近くのゴブリンナイトやホブゴブリンが一斉に突っ込んでくる。
それをステータスにものを言わせ捌く。
捌きつつ、一体ずつ減らしていく。
ティアの方は既にほぼ方が付いていた。
程なくして、ゴブリンマジシャンが全滅し、他のゴブリンナイトやホブゴブリンもティアの加勢により瞬く間に討伐された。
「ティア、今日はこれくらいにして、帰ろうぜ」
「明日から護衛クエストだし早く休まなくてはいけないですからね」
果たして、そんな簡単に眠れるかな?同じ部屋には俺がいるんだぜ?勿論、手は出さないけどな‥‥手を出さないだけで出せない訳じゃ無いからな?
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