第33話、送別会(強制)
「飲んでるかぁ〜‼︎ユウジぃ‼︎」
「ちょっ、やめてくださいよ、ハンスさん」
「うるへぇ〜、ハンスって呼べって言ったろぉ‼︎それより、ほら飲め飲め‼︎」
「溢れるっ、ていうか溢れてる‼︎、多すぎ⁈」
どうしてこうなった‥‥
俺は
アルテアのギルド登録を済ませるとみんなにお祝いだと言われ、隣接した酒場に引き摺り込まれてしまった。
ちなみに参加するかは聞かれなかった。俺はどうやら強制参加らしい。
アルテアは丁重なお誘いを受けていたのに‥‥解せぬ
この世界では12歳から飲酒はオールフリーらしくブラッド君達も同席している。
「ユウシぃぃ!」
「分かった、分かった、分かりました。飲みますから!」
ハンスが更に何かを言う前に、ジョッキの中身を飲み干す。
「よぅし、つゅぎ行くきぁぁ‼︎ジョッキをよこしぇぇ!」
「注がせねぇよ?」
すかさず、次の一杯を注ごうとするハンスから逃げ、ブラッド達の方へ行く。
果たしてブラッド君は‥‥
「アニキの門出を祝って歌いまぁぁす」
すっかり出来上がっていた。
おまけに何故か服を脱ごうとしている。
これはそのままにしたらアカンやつだ。
「おい、ブラッドやめろ、頼むから」
慌ててブラッドの肩を揺すり止めにかかると、
「あれ、アニキが三人に⁇」
「ユウヒィ‼︎全然飲んでいれーしゃねぇか‼︎主役なんだからもっと豪快にりこぅじぇぇ‼︎」
と、いつのまにか追いつき、酒を勧めてくる呂律の回っていないハンスをどうにかやり過ごし、酒場に引きずり込まれる際に離れてしまったアルテアの方を見ると、飲めや歌えやの騒ぎになっているこっちとは違い、女性冒険者達に囲まれながら上品にグラスを傾けていた。──俺もそっちに混ざっちゃダメですかという視線を送っていると、アルテアがこっちを見た。
そして‥‥ファイト!とでも言うようにガッツポーズをしていた。
どうやら助けてはくれないようだ。
ふと、そこから少し離れたところを見て、一度目を逸らし、もう一回見る。───どうやら見間違いではないようだ。
そこには、ライルさんと静かに酒を飲むサリーさんがいた。
暫く茫然とその様子を眺めていると、サリーさんと目があった。慌てて視線を逸らそうとするが、サリーさんが手招きしている。行かねばならない様だ。
「サリーさんにライルさん?意外な組み合わせですね」
「意外なものかい」
気になる発言だが、いつもの様子のサリーさんだ。
「ちょうどユウジの話をしていたところだ」
と、ライルさんが続く。
「何の話を?」
「お前さん、ギルドに入ったのはほぼ三ヶ月前、なのにもう既に一年経った気分さねぇ」
「でしょうね、ユウジがいなくなった時、珍しく慌てていましたからね。久しぶり見ましたよあんなに慌てている姿」
ライルさんが面白そうに、そっと言葉を添える。
「お黙り!私はただ、危なっかしかった奴がやらかす前に止められなかったと焦ってだけだよ‥‥」
「確かに、冒険者の中でも少し話題になりましたからねぇ〜ユウジの坊主がいつやらかすのか‥‥」
「当てた奴はいたのかい?」
「‥‥それが一番近い奴の予想でもあと一ヶ月だったんですよね〜」
「‥落ち着きのない奴め‥‥」
「‥‥その節は誠にすいませんでした」
「まぁ、何がともあれ、良く無事に戻って来た。心配をかけないのが一番だが‥‥とにかく、今後もちゃんと無事に戻ってこいよ?」
「はい」
「ところで‥‥ライルさんとサリーさんってどんな関係で?」
さっき、サリーさんの言った事が未だに頭の隅に引っかかっている。意外では無いというのは‥‥
「ん?俺とサリーさんか?‥‥そうだな、不詳の弟子と師匠だ」
「師匠は止めろと言ってるじゃないか。私はただいつ死んでもおかしくないくらい危なっかしかったお前さんを指導しただけさ」
ライルさんが噛み締めるように言った言葉を、サリーさんが面倒臭そうに訂正した。
「師匠と弟子‥‥ですか?」
「あぁ、モンスター相手の立ち回り方や、剥ぎ取り方、薬草の知識、音を立てない歩き方いろんな事を教わった。‥‥お陰で、今こうして酒を飲んでいられる。」
「そんなしんみりした話は、私の葬式の時にでもとっときなさいや」
サリーさんが、少し照れた様子で捲し立てる。
お酒が人を変えるの本当らしい。照れるサリーさんという、これから2度と見ることがあるか分からないくらい珍しい姿が見られた。
「さ、そろそろお開きにしようかねぇ。明日の業務に支障が出る」
「そうですね‥‥」
未だに少し赤い顔をしたサリーさんが呟きライルさんがそれに同意する。
斯くして、俺の護衛クエスト受注&アルテアのギルド登録という名目のどんちゃん騒ぎは幕を下ろした。
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宿への帰り道、俺はアルテアと手を組んで歩いていた。
別に甘々な感じになったわけでは無い。
こんな事になったのはアルテアが「地面が揺れてる〜あれぇユウジがたくさん〜?」と言いながらフラフラしていた為である。
夜の寒さで酔いを覚ましながら歩いていると、あっという間に宿に着いた。
「ほら、着いたぞ」
そう言いながらアルテア手を引く。
そのままベッドに寝かせようとして、ベッドの脚に躓きアルテアの上に倒れ込む。
なんとかベッドに手をつき、アルテアの上に落ちる事だけは回避したが、彼女の顔が目と鼻の先に来る。目の前いっぱいに広がった顔に見惚れているとアルテア目が合う。
「ユウジぃ」
アルテアの声がいつもより甘い雰囲気を伴って理性を崩しにかかる。
そして、暫し見つめ合い‥‥
「ユウジぃ」
再びの甘い声と突然の抱擁。
避けることすら儘ならなずされるが儘になる。‥‥もう、理性が持ちそうに無い。
心臓がバクバクとうるさいくらい音を立てている。‥‥この音は周りに漏れていないだろうか。
「‥‥良いのか?」
せめてもの抵抗として、そう問う。
その返答は‥‥
「‥‥‥スゥスゥ」
‥‥アルテアは寝てしまっていた。
なんか惜しい事をした様な気もするがこれで良いのだろう。
今日はとても疲れた。‥‥非っ常によく眠れそうだ。
(日本語訳、あんな事があって眠れるわけないだろうがぁぁ?)
疲れているのに全く眠れない。
男女で同じ部屋と言うことは流石に無かっただろうが、行けなかった修学旅行はこんな感じだったのだろうか‥‥
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