第23話 河を下って樹海を抜けて

 昨日作るだけで終わってしまった船に乗り込む。そしていざ、出発!‥‥しようとして気づいた。

「あれ?オールと、梶は?」

 そう、作った船にはオールも梶もついていないのだ。つまり出来ることは、ただ流されるだけ!なんと恐ろしい‥‥ガクブル


「オールや梶が無いことにどうしてそんなに怯えているのかは知りませんが、普通に魔法を使えばいいでしょう」

 どうやら魔法でなんとかするらしい。と、なるともう一つ疑問が湧く。


「あの〜アルテアさん?魔力が切れたら俺たち〜」

「説明してませんでしたね。水魔法に限らず魔法を使う時、物を生成せずに近くにある物、今回の場合は川の水を使用すれば圧倒的に魔力の消費量は減るんです」

 だから、大丈夫です。と続ける。


「それじゃあ、不安要素も無くなったところで、出発!」

「飛ばしますので、捕まっていてくださいね?」

「はっ?ちょま、」

 直後、猛烈なスピードで船が進み出した。まるでモーターボートだ。幸い河幅は広く、真っ直ぐなので事故の危険は無さそうだが、スピードもグングン上がっていく。スプ◯ッシュマウンテンみたいに滝があったりはしないといいなぁとこっそり涙目で祈る。でも、


「景色がいいなぁ」

 慣れてきて周りを見渡す余裕が出て来る。昨日までの殺伐とした雰囲気によるダメージが癒やされていくようだ。あ、魚が跳ねた。ただ、魚といってもどれも1メートルかそれ以上の大きさを誇る。透明度も比較的高いので水面近の巨大魚が丸太舟と並走しているのを発見することもしばしば。地球ではそうそう見ることのできない光景だ。もっとも、景色に感動すると同時に舟をひっくり返されないかとヒヤヒヤしたりもするが。後ろを見るとアルテアが髪を風に靡かせながら舟を操っている。悲しいかな、未だ回復魔法と身体強化くらいしか魔法を使えない俺は出発と同時に戦力外通告され、前方の見張り(アルテアが前を見ながら操船しているため実質役目無し)という任務を遂行中なのだ。オールで漕ぐパターンだったら戦力になった筈なのに‥‥いや、アルテアの方が力が強かったんだった。‥‥もしかしなくても俺、お荷物状態?




 

 穏やかで、ともすれば寝てしまいそうな雰囲気の中、それをぶち壊す勢いで爆走する舟の上で、

「風、気持ちいいなぁ」

 再び少年の口から溜息が漏れる。その少年はなんとも呑気そうにゴロリと横になった。

「天気が良いし、絶好の船出日和だ」

「そうですね、雨が降らなくて良かったです」


「ところで昼飯はどーする?」

 魚でも獲るか?

 河の中を覗き込む。

 1メートルをゆうに越える魚が泳いでいる。


「船の上だと火も使えないから一度降りるとか?」

「確かに、船の上じゃ火も起こせないしなぁ〜そうだ、飛ばせば昼過ぎには樹海出れないかな?」

 期待した目でアルテアの方を見る。


「どこかに掴まっててくださいね!」


 そう言うとさらにスピードを上げる。横を見ると景色がどんどん流れていく。時速60キロくらいだろうか‥‥‥つまり風圧はちょうど胸くらいのやわらか‥‥‥全身で体感せねば‥‥‥いやいやそんなのを堪能しているとバレたら殺られる。後ろから視線が刺さってるぅ〜、煩悩退散!たいさぁーん!たいさぁ〜ん!俺はまだ、死にたく無いんだァァァァ!


「そんなに頭を振ってどうしました?」

「ヒィッ」 


 思わずそんな声が漏れる。恐る恐る顔を見るがどうやらお怒りでは無さそうだ。首を傾げ本当に不思議そうにしている。余程首をガクガクしていたのだろう。記憶に無いけど‥‥


「ちょっと一人で壮絶な戦いをしてまして‥‥」

「‥‥?」

「それより、もう少しスピード上げませんか?」

「少し危険な気もするけど‥‥ま、いっか♪」


 さらにスピードを上げる。舟がより一層後ろに傾く。後ろに転がらないように踏ん張る。俺のステータスはこんな傾きごとき(30度くらい)には負けないのだァァァァァ



 スピードを上げた甲斐もあって、昼前には樹海を抜け草原に出た。川幅もさらに広くなり、そのど真ん中を尚も木で作った簡易的な舟で爆走する‥‥地球でやったら通報待った無しだな‥‥


「誰かがこっちを指差してます‼︎」

 アルテアが指摘したその先には‥‥俺の視力じゃ何も見えない。


「‥‥どこ?」


 視力検査は両眼とも毎年Aなんだけどなぁ


「手、出して」


 そう声をかけられたので、言われたまま右手を差し出すと、アルテアがその手に左手を重ねる。そして、右手で前方を指差し、


「あの辺。千里眼と言う魔法をかたから今度は見える筈」


 指さされた方向を見る。さっきより圧倒的にに遠くが見える。


 そして見つけた。



 いつかの時のようにモンスターと戦い、劣勢に陥っているブラッド達を

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