第22話、モーゼ効果?
昨日は
ただ、予想外だったのは‥‥
「クソッ、ここに来てモンスターが多い!」
グシャッ、そんな音を立てながら飛びかかってきた犬型のモンスターの頭を骨棍棒で叩き割る。
歩き始めて二、三時間で既に二十を超える戦闘をすることになったのは一重に、殆ど歩かないかのうちにモンスターにエンカウントするというエンカウント率の高さだ。昨日の運が良かったのかはたまた別の原因があるのか、とにかくモンスターが多く、既に移動を始めてからレベルが2つ程上がってしまうくらいだった。
「でも、個体としては弱いものばかりですね。」
確かに敵は弱く、未だに殆ど傷を負っていない。流石に無傷とはいかないが、どれも回復魔法を使うのはもったいないと思うくらいの傷だ。
それでも鬱陶しさだけはあるので、
「だぁ゛ー、もうめんどくせぇアルテア!俺を担いで飛んでく‥‥それはやめた方が良さそうだから‥‥飛行魔法とか無いのか?」
魔法に頼れないか聞いてみる。
「有るんですけど、この通り私には翼があり覚える必要が無かったので、覚えていないんですよ」
アルテアは、習得しておけば良かったですね、と苦笑いした。
「そう言えば、出て来るモンスターが弱くなったのって河の方でも同じことが言えないか?」
「‥‥‥確かに、実験してみますか?」
「やってみ‥‥はっ、嫌な予感が?」
やってみよう、と言おうとしたところでベヒーモスに向かってぶん投げられた時の様な猛烈に嫌な予感がした。
「あの〜、ちなみにどの様な実験をするおつもりで?」
「もちろんユウジをロープに括り付けて河のな『はい却下ァアアア!』‥‥勿論冗談です。半分だけ」
え〜っと、半分は本気だったんですね‥‥
「その半分って言うのは‥‥」
「‥‥勿論、ロープに括り付けられるのはユウジじゃなくて、わ・た・し♡」
「‥‥‥」
「あれっ?ウケませんね‥今の笑うところですよ?‥‥」
「‥‥‥」
「ふざけたことは謝りますからそんな目で見ないでください!」
半分涙目になりながら謝ってきた。仕方ない今日はここらで勘弁してやろう。
「で?実際は?」
「普通に潜って見てきます」
えっ?
ロープに括り付ける云々の話はなんだったの?
「気を付けて‥‥」
「あれっ?元気がなくなりましたね、どうしました?」
言ながらニヨニヨこちらを見て来る。
「もしかして私のしば‥‥むぐっ」
これ以上しゃべるなと言う意味を込めて、手でアルテアの口を塞ぐ、あとは俺が変なことを言わなければ、
「確かに見たいよ!アルテアのしば‥‥かれる姿を‥‥」
危なかった。危うく変な事を言って台無しにするところだった。今夜は今の危機をのりこえた俺の素晴らしい機転に乾杯だな、アルテアがなんとも言えない表情になっているが誤魔化せた筈だ。(恐らく)暫く、その微妙な表情をキープしていたが、アルテアは、
「じゃ、見てきます」
そう言い、サッと一度右手を横に振ると、そのまま散歩にでもいくかの様に歩き出した。
そして河岸に来ると、そのまま河に入って行った。だが、
「水が!」
そう、水がアルテアを避けるかの様に流れて行くのである。
まるで物理で習ったモーゼ効果だ。とか、アルテアは10テスラ以上の磁力をもっているのか⁈とか考えていると、
「大丈夫そうです」
アルテアが河の中から歩いて出てきた。水がアルテアを避けていた時点で予測はしていたが、案の定服も髪も翼も一切濡れた様子はない。
「大きめの木を切り倒してそれに乗って河を下りましょう」
そう言うとアルテアは剣を抜いて近くに生えていた幹の直径が3メートルくらいの木(地球では巨木の範疇だが、この樹海では割りかしよく見る大きさ)の元へ歩いて行き、
「これでいいですか?」
と聞いて来る。
「良いけど‥‥それ剣で倒せんの?」
普通に考えたら無理だ。その予想は‥‥
「できますよ、危ないので私の後ろにいてください。一応武器も出しておいてください。木にモンスターがついていたという事も十分にあり得ますので」
という言葉で真っ向から否定された。
骨棍棒を抜き、アルテアの後ろへと回り込むと、
「それでは、切ります」
そう言って無造作に、だけど無駄に洗練された無駄のない動きで斬りつけ、そして、
ミシミシ バキッ
ギィィ
木が倒れた。多分今の俺の顔を見たら十人中九人は変顔だと思うだろう。実際、剣をしまいこちらを振り返ったアルテアは俺の間抜けな顔を見て思わずといったかんじで、吹き出してしまっていた。でも、それぐらい衝撃的だったのだ。だって剣の長さより幹の直径の方が長いのに一太刀だぞ?
「さぁ、この木を削りま‥‥ユウジ!」
「分かってる!」
倒れた木の影から蛇型のモンスター、──エルガーバイパーがのそりと出てきた。初めてみる種類だ。ゆっくりと鎌首をもたげたエルガーバイパーはそのまま宙へ跳びこちらへ飛びかかってきた。
半身になって躱す。スピードはここら辺のモンスターにしては早いが、それ程脅威ではない。だが、
「どう見ても毒あるよなアイツ」
大きな2本の牙からは時折り紫色の液体が滴っている。いくら毒耐性を持っているとはいえ、咬まれたくはない。
再びエルガーバイパーがこちらへ飛びかかって来る。今度は、半身になり躱し、骨棍棒で目の前を通り過ぎようとしたエルガーバイパーの頭を打ち上げる。───何故下に叩きつけなかったのかというと仮に蛇が一撃くらってまだ生きていた場合足を噛まれそうだなぁーとか思ったからである。もっともその心配はなく、再びの『グシャリ』という音とともに頭部の潰れたエルガーバイパーが降ってきた。当然、既に息絶えていた。
「終わりましたね。では、作りましょう。ところで船の作り方って分かりますか?」
「‥‥‥」
えっ?
知ってるから提案したと思っていた。
「えっ、まって、本当にどうするんですか〜」
「いや、知らねぇよ⁈」
暫く樹海にはギャースカ騒ぐ声が響いたとか‥‥
その後も、なんやかんやあって結局、船(木をくり抜いただけ)を作るだけで1日が終わってしまった。
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