第19話 邂逅三度、そしてベヒーモス戦

「行くぞ」


 静かにそう呟いて走り出す。アルテアは少し下がった場所で静観の構えを見せている。一方ベヒーモスはこちらに気づき2つの目でこちらを睥睨している。どうやら迎え撃つつもりの様だ。


 剣をベヒーモスの右前脚目掛けて振り下ろす。


 はたして、アルテアから借りた剣の切れ味が良かったのか。それともステータスが劇的に上がったからか、ベヒーモスの前脚に浅くない傷が刻まれた。そして二撃目を放とうとしたその時、


「グォォォ‼︎」


「ヤバっ!」


 左脚による一撃が迫ってきた。だが、踏み込みすぎて後ろに逃げることはできない。かと言って前に行くにはベヒーモスの右脚が邪魔になる。なので、


「ちぃ」


 舌打ちをしつつ、剣の腹を盾のようにして受ける。


ガキンッ


 そんな音を立てつつもベヒーモスの攻撃を防いだ。だが、その代わり十メートルほど後方へ下がってしまう。どうやら力はあちらの方が高い様だ。


 再び剣を構える。そして走り出す前に今度はベヒーモスの方から突っ込んでくる。なんの工夫もないただの突進。だが、それだけが故に受け辛くもある。──そう、相手の体が大きすぎて避けるのは難しく、かと言って受け止めようとする方が良いかと言われれば、いくらステータスを強化したとは言え、吹き飛ばされる未来しか見えない。


 だから、俺は‥‥


「身体強化ぁぁ‼︎」


 身体強化‥‥つい先程覚えたばかりだが、効果はMPを消費してHP、MPを除くステータスを同じ値ずつ上昇させるというものだ。ちなみに消費されるMPはアルテアによると、強化値(全ステータス分)×強化が持続する秒数÷身体強化魔法のレベル(上限は100)である。

 身体強化し、速さも防御力もともに上がった状態で、俺は‥‥

後ろに飛ばずに‥‥前に出た。


 ベヒーモスがなおもこちらを轢き殺さんと走って来る。


 剣を腰だめに構え、



 ベヒーモスの脚が目の前に‥‥



 目の前の逞しい脚へと剣を突き出した。


 剣が肉にささる感触




 直後、衝撃。


 受け身も取れず吹き飛ばされ、気にぶつかって止まる。


 幸い、所々擦り傷などの傷を負ったが、動きに支障を与える様な傷はない。


だが、


「剣が‥‥」


 剣は悠然とこちらへと振り向いたベヒーモスの脚に生えていた。──剣がベヒーモスの脚に刺さったままなのである。


 ベヒーモスは再び突進を始めた。


 一方俺はアイテムボックスからあるものを取り出した。


視界の端で困惑しているアルテアが見える。それもそのはず、


 俺が取り出したのは、ベヒーモスの骨だった。

 そして、大きく振りかぶると、脚に刺さったままの剣目掛けて投げ飛ばした。


ブンッ

 

 そんな音を立てて放たれた骨は、回りながら剣にぶつかり、


「グルォォァァァァ‼︎」


刹那、咆哮。


 ぶつかられた剣はベヒーモスの肉を更に断ち切ると、地に落ちた。


 ベヒーモスの脚が止まる。


 そして一気に畳みかけようとして、ビクリと体が震えた‥‥そのまま睨み合う。


突如、


「避けなさい‼︎」


 思わずといった感じでアルテアが叫ぶ。


 ほぼ条件反射的にそれに従った直後、


ゴォォッ


 つい先程までいた場所を炎が舐めた。否、炎なんて生易しいものではない。


「ありがとう。助かった」


 冷や汗がほおを伝う中アルテアに礼を言う。あの注意が無ければ、先程の破壊光線じみたブレスをくらい、即死まではいかなくとも動けなくなっていただろう。


「さて、どうしたものか」


 再びベヒーモスと睨み合いながら独りごちる。現状、剣はヤツの足元で、流石に無手無策で挑むのは分が悪すぎる。かと言ってこのまま睨み合っていても、勝負がつかないどころか、いずれブレスで丸焦げにされる。


 なので、再びアイテムボックスよりベヒーモスの骨の骨を取り出して、


ブンッ


 投げ飛ばした。そしてその骨に追随するかの様に走り出す。そして野球選手よろしく、スライディング。


 つい先程骨で痛い目を見た(正確には骨が当たった剣によって)ベヒーモスは──猫パンチというには凶悪過ぎる、猫パンチならぬベヒーモスパンチ?で迎撃した。


ヒュッ


 すぐ上をベヒーモスの爪が掠めていく。


だが、確かに


「剣に届いたぁ‼︎」


 剣を掴み真上──ベヒーモスの腹に剣を突き刺す。そして尻尾の方へ走る。


「グルワァァァァ‼︎」


 過去最大級の咆哮は、はたして怒りによるものか其れとも腹を裂かれた痛みによるものか、ベヒーモスは身悶える。──今度は剣を手放さなかった。が、代わりにベヒーモスから離れようとしたところを尻尾で打ち据えられる。


「ぐっ」


 衝撃で肺から強制的に息が吐き出される。


 ほぼ水平に吹き飛ばされ、木を数本へし折りながら停止する。追撃は───来ない。ベヒーモスはというとさっきと同じ場所にいた。どうやらベヒーモスも腹を裂かれた事で看過できない程のダメージを受けたらしい。


 未だ少しフラフラしているが、剣を杖にどうにか立ち上がる。


ベヒーモスもこちらへと振り返る。


 お互い満身創痍だが、どちらの目も死んでいなかった。否むしろ、ギラギラと輝いてすらいる。


 手にした剣を手に走り出す。戦い始めた時よりはだいぶ重い足取りだだが、


「うりぁぁぁ‼︎」

 

 裂帛の気合いが迸る。


「グルゥゥゥ、グルァァァァ‼︎」


 対するベヒーモスもそれに応えるかの様に咆哮を上げる。


あと十歩。


 ベヒーモスが口を開ける。ブレスの予兆を見せる。


 剣をしまい、アイテムボックスから骨を取り出す。そして投擲。


狙いは──逸れて、投擲された骨はベヒーモスの肩に当たる。だが、ベヒーモスの体勢崩すという仕事は果たした。


 果たして──吐かれたブレスは横に逸れる。


あと5歩。


 ブレスでの迎撃に失敗したベヒーモスは右脚を振り上げる。


「身体強化ァァァァ‼︎」


 持てる魔力のほぼ全てを使いわずか数秒だけ、さらにステータスを強化する。


そして、


「カァァァァ‼︎」


剣を突き出す。


と同時に、


グルォォォ‼︎


ベヒーモスが右脚を振り下ろす。


 果たして──俺の剣はベヒーモスの喉に刺さっていた。さっきからレベルアップの音声が聞こえて来る。


 勝った。そう自覚した途端、身体中から力が抜けていき‥‥


意識が暗転した。

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