第18話 今度は身体強化
「今日は身体強化を覚えてもらいます」
そう言ったアルテアは何故か以前の訓練の様に左手の五指を開いて前に出し、右拳を体に引きつけた、所謂パンクラチオン風の構えをした。
「えっと〜、なんで構えてるんです?」
「今からあなたのステータスでは対応できない速さで殴ります。身体強化して、防ぐなり躱すなり、反撃するなりしてください。できたら終了です」
かなりスパルタかつ脳筋な方法だった。あんまりと言えばあんまりな方法に目を白黒させていると、
「ほら始めますよ?」
「へあ?グペッ」
いきなり殴られた。魔力に意識を割く暇すらない。
「ちょっ、タンマ、いきなりそのレベルは無理っぽ‥‥アグッ」
殴られた。
「敵は身体強化をかけるのを待ってくれますか?タンマと言ったら止まってくれますか?」
ごもっとも、もっともな意見だが、
「それは習得する前にやってもダメでしょうがー」
「‥‥確かにそうですね。ではもう少し攻撃頻度を落としましょうか」‥‥どうやら攻撃すること自体はやめないらしい。
回復魔法の時もそうだが、時間をかけ過ぎると、開かなくても良いというか、個人的には開きたくない扉を開いてしまいそうだ。
「身体強化魔法は身体中に魔力を循環させ、動きを補助する魔法です。そして、慣れて派生スキルが出てくれば‥‥」
そんなことを言うとアルテアはいきなりクルッと回転すると近くに立っていた木に回し蹴りを叩き込んだ。それはいつも俺に攻撃するときよりも遥かに威力のある、手加減無しの一撃だった。
しかし、
ガキンッ
そんな木らしからぬ音がした、蹴られた木を見てみるがどこにも傷や凹みが見当たらない。
「このように自分の触れているものにも強化を施せます。といっても強化できるのは頑丈さくらいですがね」そう言いつつ木を指差し叩いてみる?と聞いてきた。
軽く助走をつけ、肩口からのタックルを敢行すると、
ゴッ
殴られたかのような衝撃。攻撃したはずのこちら側がダメージを受けていた。
「はい、次に強化を解いてみると‥」
再び、木を攻撃するよう求められる。はたして今度は、
パァーン
そんな音がして殴ったところが弾け飛んだ。さっきとはえらい違いだ。
「さぁ、少し休憩したところで再開です。あ、その前に回復、しておいてください」
つい昨日習得したばかりの回復魔法が早くも役に立つ時が来るなんて‥‥
回復し終え、再び向き合う。そして再びボコられる。その度にアドバイスをもらい少しつずつそれを形にし、ついに
ガン
そんな音を立てつつ俺の腕はアルテアの拳を防いだ。そして身体強化により更に速くなったスピードでもって反撃の蹴りを‥‥
躱される。
そのタイミングで後ろに飛ぶ。
アルテアは追いかけてこない。
HP、MPともに半分以上消し飛んだが、遂に身体強化を会得した。
「覚えたようですね。今日はここまでにしましょう」
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁ〜疲れたぁぁ」
そんなことをを言いいつつ元ベヒーモスの寝床に帰ろうとすると、
グルォォォ!
そんな咆哮が森中に響いた。この声は、忘れもしない、奴の、ベヒーモスの咆哮だ。
「あっちですね」
とアルテアは進行方向を指さす。どうやらこのまま行けばベヒーモスとぶつかる様だ。
「アルテア」
短くそう呼ぶ。
「別に止めませんよ?危なくなったら別ですけど」
どうやら口にする前からこっちの考えはお見通しらしい。そして金色の長剣を渡してきた。
「壊れないのは分かってますけど、壊さないでくださいね?」
長剣を受け取り前を向く、
「ところで、この長剣、銘はなんていうんだ?」
「その剣の銘は‥‥」
アルテア逡巡し、
「勝ったら教えてあげます」そう言ってきた。
「そりゃ勝たなきゃな」
そう言って前を見るもう後十数秒でヤツは現れるだろう。剣を構えヤツが現れるのを待つ。
そして、
グルォォォ
ビリビリと肌を震わせる咆哮。相変わらず凄まじい圧だが、ステータスが強化されたからか、最初に遭遇した時の様に意識が飛びかけるほどではない。
「行くぞ」
誰に聞かせるわけでもなくそう呟き、ベヒーモスに向かって走り出す。
ラウルトの樹海奥地にて、一人の少年のリベンジマッチが始まった。
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