第16話 サプライズプレゼント

■作者のねらい:シエラ嫁フラグ? 実際は、特に恋愛模様を書こうとは思っておらず、キャラクターが動くままにしようと決めていました。


■登場人物

   シエラ

   シエラ(N)

   ユーリ

   サミュエル

   トワ




 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




〇サミュエルの小屋の前(昼過ぎ)


シエラ「よっと!」


SE 包丁の音


シエラ(N)『サミュエルと小屋に帰ってきたわたしは、包丁を借りてクロムオレンジを切っていた。昨日飲んだ美味しい水を作って、稽古に励んでいるユーリに届けてあげるのだ。半分に切ったクロムオレンジを絞ると、柑橘かんきつの香りがあたりに広がる』


シエラ「ん〜っ、い〜匂い!」


サミュエル「おい」


シエラ「な、なあにサミュエル。怖い顔して」


シエラ(N)『わたしがクロムオレンジの香りを吸い込んでいると、しかめっつらのサミュエルが声をかけてきた。また「だらしない顔をなんとかしろ」とでも言われるのだろうか』


サミュエル「ほら」


シエラ「……ん? どうしたの、この瓶」


サミュエル「塩だ。隠し味に入れると美味くなる」


シエラ「あ、そうなんだ。どうもありがとう!」


シエラ(N)『無愛想で顔は怖いけど、やっぱりサミュエルはいい人のようだ。人は見かけによらない。わたしは満面の笑みを浮かべてサミュエルから瓶を受け取った』


サミュエル「入れすぎるなよ」


シエラ「わかったぁ! ふんふんふん~♪ ……ぐえぇぇぇ、しょっぱい……」


サミュエル「言ったそばから入れすぎだ、バカ。分かるか分からないかくらいで良いんだ」


シエラ「げほげほっ……バカって言う方がバカなんですー」


シエラ(N)『いい人だと思った途端にこれだ。注意事項があるならもっと早く言ってほしい。これではしょっぱすぎてユーリが死んでしまうので、わたしは最初からクロムオレンジ天然水を作り直した。今度は慎重に塩を混ぜていく』


シエラ「あ、美味しいかも! ちょっと味見してみて」


サミュエル「ふむ、いいだろう」


シエラ「よぉし、完成っ!」




SE  場面転換




◯サミュエルの小屋の近く、ユーリ稽古中(昼過ぎ)




シエラ「ユーリ、トワ、お疲れ様。お水持ってきたよ!」


ユーリ「お、シエラ、サンキュー。ゴクゴク……ぷはぁ、美味しいー! これ、昨日飲んだやつだな!」


シエラ「ふふふん。これは今わたしが作ったんだよ!」


ユーリ「シエラがぁ⁉」


トワ「ふふふっ。シエラちゃん、ありがとう。元気そうで良かったわ。さっきは変なこと言ってごめんね?」


シエラ(N)『申し訳なさそうに、トワが目線を合わせるようにわたしの前で身をかがめた。どうやら、わたしが泣いてしまったせいで心配をかけたらしい』


シエラ「全然大丈夫! わたしこそ、驚かせてごめんなさい」


トワ「ねぇ、もし嫌じゃなかったらお詫びに何かあげたいんだけど、ほしいものってある?」


シエラ「ふぇっ! お詫びだなんて……あ、そうだ。実は、一つ教えて欲しいことがあるの!」


トワ「私が知ってることならなんでも良いわよ」


シエラ「実は昨日、サミュエルに人質救出の協力をお願いしたら『俺になんの得があるんだ』って言われたの。だから、なにが望みなのかユーリが聞いたんだけど、今度は『望みなんて持ったことがない』って言われちゃって。なにかサミュエルの得になりそうなものないかなぁ」


トワ「うふふふ! サミュエルらしいわね。んー、そうだなぁ。例えば、シエラちゃんがお嫁さんになるとかはどう?」


シエラ「ヘッ! 嫁⁉︎ 無理無理無理! 昨日会ったばっかりだし、年が離れてるし、サミュエルはわたしと結婚したいなんて思ってないよ!」


トワ「そうかしら。悪くないと思うんだけどなー。うーんと、じゃあそうね。動物へのプレゼントはどう?」


シエラ「動物?」


トワ「そう。サミュエルって動物が好きだから」


ユーリ「なるほど!」


シエラ「そっか! その手があったか!」


ユーリ「なにがいいかな……」


シエラ「あ、いいこと思いついた! シジミちゃんの餌台を作ったらどう⁉︎」


ユーリ「餌台か」


トワが「いいわね、そうしましょう!」



SE 場面転換



トワ「それで、どんな餌台を作るの?」


シエラ「えっとね、お城みたいなやつ! 三階建てにして、餌はここに置いてこっちに休むところも作るの!」


シエラ(N)『わたしは借りてきた工具を広げ、地面に設計図を書きながら説明した。餌を食べるだけじゃなく、雨風をしのいだり休憩できるところも作って、お城みたいにかっこよくしたい』


トワ「ふーん、サミュエルの家より豪邸ね!」


シエラ「うん! この小屋よりずっとすごいやつにするつもり!」


サミュエル「俺がなんだって?」


シエラ「わ! サミュエルはこっちに来ちゃダメ!」


シエラ(N)『わたしは手をバタバタさせて図面を隠した。内緒で作ってびっくりさせたいのだ。サプライズプレゼントだ。サミュエルは怪訝な顔をしたが、特に興味がなさそうですぐに背を向けた』


サミュエル「ふん。そろそろ飯にするぞ」


シエラ・ユーリ・トワ「はーい!」


シエラ「もう少ししたら行くー!」


トワ「私は先に行ってるわね」


シエラ「うん! またあとで!」


シエラ(N)『元気よく返事をしてから、わたしは早速作業にとりかかった。とりあえず、屋根から組み立ててよう。三角になるよう板を組み合わせて釘を打とうとするが、板がズレてなかなか上手くできない』


シエラ「うわ、思ったより難しい……」


ユーリ「ははっ! 見てられないな、俺が押さえてるからシエラは釘を打てよ」


シエラ「うぅ……ありがとう」


SE 金づちを打つ音


シエラ「ぎゃっ! 痛いっ」


ユーリ「うわ、大丈夫か?」


シエラ「ふーふー……大丈夫。だけど……こりゃ、お城は無理だね」


ユーリ「だな。とりあえずここまでにして、飯食いに行こうぜ」


シエラ(N)『いびつながらなんとか屋根と柱をくっつけたが、もう日が暮れ始めてきた。はたしてお城は完成するのだろうか。わたしたちはデコボコした餌台もどきを置いて夕食を食べに向かった。メニューは、今日も大好きなジャウロンのシチューだった』

 




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ライオットオブゲノムのボイスドラマが公開されました。

今回は、ボイスドラマ用に書き下ろしたオリジナルの内容になっています。


本編未読の方にも楽しんでいただけるよう、近況ノートにキャラクター概要を載せました。


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