第14話 仙人の秘密、シエラの秘密

■作者のねらい:ここでは核のエネルギーについて指しているが、何事も欲や利益を優先しすぎて身を滅ぼすことが無いようにという教訓。

龍人のポリシーにも影響している。



■登場人物

   シエラ

   シエラ(N)

   ユーリ

   サミュエル

   トワ



 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



◯サミュエルの小屋 キッチン(昼)


シエラ「ジャウロン美味しいね!」


ユーリ「うん。もぐもぐ。うまいな」


シエラ(N)『美味しそうにあぶりジャウロンを頬張るユーリが食べる手を止めた。そして、同じようにジャウロンにかじりついているトワをじーっと見つめる。ぺろりと口の横を舐めたトワが、ユーリの視線に気がついた』


トワ「ユーリ君どうしたの?」


ユーリ「なぁ、トワって肉食っても大丈夫なのか?」


トワ「あら、どうして?」


ユーリ「昨日サミュエルから仙……肉食わないって聞いたから……」


トワ「うふふふ! そうだったの。ねえ、これから言うこと、他の人には内緒にしてくれる?」


ユーリ「うん」


シエラ(N)『内緒ということは、もしかして仙人の秘密だろうか。ワクワクしながらわたしもトワの言葉を待った』


トワ「実はね。私、他の人みたいにお母さんのお腹から産まれてないの」


ユーリ「ヘッ⁉︎」


シエラ「ど、どういうこと⁉︎」


トワ「うふふふ! 大体一万年くらい前になるんだけど、その時地球は壊滅かいめつしかけたのよ。地球上の99%の人が死んじゃって、寂しくなった私のご主人様が話し相手に私を造ったってワ・ケ」


シエラ「えぇっ? 造られたって、トワって人造人間なの⁉」


トワ「アンドロイドって言ってもらえると嬉しいわ。その方がオシャレでしょ? 結論として、食べ物以外でもエネルギーは作れるけど、人間と体のつくりは一緒だから問題なく肉も食べれるのよ」


ユーリ「そ、そ、そんな大変な話だったなんて。気軽に聞いてごめん!」


トワ「良いのよ、あなた達なら悪用しなさそうだし」


シエラ(N)『サミュエルは相変わらず無表情で食事を続けている。一万年生きているって言ってたけど、トワは人間じゃなかったのか。本当にアンドロイドが実在するなんて、世の中はわたしの知らないことだらけだ』


トワ「それに、あなた達は聞いておいた方が良いかもしれないし……」


ユーリ「……どうして聞いておいた方が良いんだ?」


トワ「さっき、地球が壊滅しかけたって話したでしょ?」


ユーリ「うん」


トワ「大昔、大きな戦争が起きたの。その時の爆弾のせいで、地上のものはほとんどが海底へと沈んでいった。しかも、その爆弾は大地を破壊しただけでなく、生物の遺伝子を破壊する力を持っていたの。運よくわずかな人間が生き残ったけど、汚染された環境では生きていけなかった」


ユーリ「ちょっと待ってくれよ。生きていけなかった……って、人間が滅びたんだとしたら、なんで俺たちがいるんだ?」


トワ「うふふっ。なんでだと思う?」


シエラ「分かった! どこかに隠れてたんだ!」


ユーリ「それか、汚染された環境がきれいになったとか?」


トワ「ブッブー。二人ともざんねん!」


シエラ「ありゃ」


ユーリ「むぁ」


トワ「正解は、進化した、でしたぁぁぁ。そして、副産物として魔力を手に入れたのよ」


ユーリ「進化⁉︎」


シエラ「つまり、爆弾のせいで人間が滅びかけたけど、生き残った人が進化して魔法を使えるようになったってこと……?」


トワ「そう!」


ユーリ「じゃあ、魔法が使えない俺は進化していない人間なのか?」


トワ「ううん、ユーリ君も進化しているわ。じゃなきゃ汚染物質のせいで生きていられないはずだもの。ライオットは魔力を持たないけど、その代わり強い体を手に入れたの」


シエラ「……一万年も前の爆弾なのに、まだ影響が残っているの?」


トワ「まだまだ全然残っているわよ。だって、影響が弱まるまで八千万年かかるって言われているから」


シエラ・ユーリ「八千万年⁉」


トワ「これでもまだ短い方よ」


ユーリ「もし進化できなかったら、この世に誰もいなかったかもしれないのか」


トワ「ユーリ君のいう通り。こうして人間は進化したんだけど、シエラちゃんが魔石を持ってないのは、もしかしたらお母さんのお腹の中にいる時から遺伝子に異常があったからかもしれないって思ってるわ」


シエラ「えっ? お母さんのお腹? でもわたし、生命の樹から産まれたんだよ」


シエラ(N)『わたしは生命の樹から生まれたんだって、だから白いんだって、小さいころから聞いていた。それに、お母さんはわたしのことを「神様が生命の樹を通して授けてくれた宝物だ」って、そう言ってくれていた』


トワ「木から生まれた? 科学的に考えて、木から人は生まれないわよ」


シエラ「本当は生命の樹のせいじゃなく、遺伝子っていうやつが異常だから白いの? やっぱり、わたしは……」


ユーリ「大丈夫だよ、シエラ! 今は元気でピンピンしてるじゃないか。異常なんて無いかもしれないぜ? それに俺よりすばしっこくて、さっきだってものすごい投擲とうてきだったじゃないか、薪が粉々になってさ! 俺、めちゃくちゃびっくりしたんだぞ! だからそんなに心配するなよ」


シエラ(N)『ユーリがニッコリ笑ってわたしを見てる。わたしも笑って返さなきゃ。そう思ったのに、顔がうまく動かない。それどころか、目から涙がこぼれてきた。ユーリもトワもサミュエルも、驚いた顔をしてこっちを見ている。やだな。せっかくみんなで美味しくご飯食べてたのに』


トワ「あらやだっ! ごめんなさいね、何か傷つけちゃったかしら? あーん、私ったら。もし何かあっても、私のご主人様が絶対治してくれるから大丈夫よ!」


シエラ「本当?」


トワ「本当! もし嘘なら、私が責任を持ってお嫁さんに貰ってあげるわ!」


サミュエル「馬鹿……」


シエラ(N)『みんなに心配させてしまって申し訳ない気持ちで、ポロポロとこぼれ落ちる涙を必死でこらえた。アンドロイドを作れちゃうくらいだから、きっとトワのご主人様が治してくれるだろう。わたしは僅かな希望に気持ちを持ち直す』


シエラ「えへへ! 突然泣いてごめんなさい! ちょっとびっくりしちゃって。もう大丈夫! じゃぁお母さんたちを助けたら、その人のところに治してもらいに行かなきゃね!」


シエラ(N)『わたしはみんなを安心させるために明るく振舞った。それに、今はお母さんたちを助けることが一番大切だ。わたしのことなんて気にしている場合じゃない。大丈夫。大丈夫。わたしは大丈夫。多分、大丈夫』

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