第10話 ライオット、レムナント

■作者のねらい:シエラの魔力が開花しきっていない段階。その他、クライマックスあたりの伏線が潜んでいる。

シジミちゃんの名前の由来は、シジミ貝。サミュエルの父が名付けた。


■登場人物

   シエラ

   シエラ(N)

   ユーリ

   サミュエル

   トワ


■トワの特徴

   序盤は話の内容もシエラもサミュエルも暗めなので、コミックリリーフとしてトワを登場させた。いるだけで空気が軽くなるような、明るくて元気で空気を読まない存在。



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◯サミュエルのキッチン(夜)


ユーリ「あ、白い鳥が帰ってきたぞ!」


シエラ(N)『白い鳥がサミュエルの人差し指にちょこんと止まった。頭を撫でられてから、チュンと一声鳴いて飛び去って行く』


シエラ「あの鳥、サミュエルの鳥だったんだね」


ユーリ「かわいいなぁ」


シエラ「ふーふー……ほわぁぁっ、このスープも美味しい! ……あれ、サミュエル? 難しい顔してどうしたの?」


サミュエル「……人質は、どうやら無事らしい」


ユーリ「本当か⁉︎」


シエラ「どうして分かるの?」


サミュエル「……俺は、動物と話ができる」


シエラ「え! 動物と話せるの⁉︎」


ユーリ「強いし魔法使いだし料理もうまい上に、動物とも話せるのか!」


シエラ(N)『サミュエルの言葉で、わたしとユーリの目が輝いた。期待の眼差しで見つめられたサミュエルが、ものすごーく嫌そうな顔をしている。いつも表情が無いのかと思いきや、嫌な顔だけは得意みたいだ』


サミュエル「魔力が多い者は、何かしら力を持ってるのが普通だ。話せると言っても、正確には動物の気持ちを感じたり、見ていた景色をのぞいたりするだけで、人間の言葉で話すことはできない」


シエラ「それでも十分すごいよ!」


ユーリ「いいなぁ〜。俺も動物と話せるようになりたい……」


シエラ「ふふふっ。ユーリ、猫好きだもんね」


サミュエル「まぁ、動物と話をしたいなんて物好きは俺の親父くらいだろうから、俺以外にこんな能力持ってるやつはいないだろうな」


シエラ「どうして?」


サミュエル「力は本人が強く望んだことや、両親からの遺伝が影響する。俺の場合、父親の力を受け継いだだけだ」


ユーリ「強く望んだこと……」


シエラ(N)『わたしはユーリが猫を抱いている姿を想像をしていたのだが、その顔が満面の笑みのサミュエルにすりかわった。実物とのギャップに思わず苦笑にがわらいする』


ユーリ「シエラ、なにニヤニヤしてるんだ?」


サミュエル「大体の奴らは攻撃や防御に特化した能力を望む。例えば、このエルディグタールの王は他人を自由自在に操れるって噂だ。あと、魔力を使えば誰でも体を強化できるんだが、さらに強さを望んで普通以上に体を強化する奴もいる。自分の存在を相手から隠す能力を持つヤツがいたり、様々だ」


シエラ「ほぇぇ、色々あるんだねぇ」


サミュエル「ただ、力を使いすぎると魔力が枯渇して死ぬ」


ユーリ「うえぇ、良いことだけじゃないんだな」


サミュエル「さっきの鳥は、盗賊の住処すみかをのぞいてきたんだ。孤児院長と子どもが四人、小さな窓から見えた。どこかに閉じ込められてはいるが、大きな怪我などはなさそうだ」


シエラ「良かったぁぁ……!」


ユーリ「怪我がないだけでも救いだな。あとはどうやって助けるかだ……」


シエラ「そうだね。んー、どうしようか」


ユーリ「うーん……あっ!」


シエラ「なにか思いついた?」


ユーリ「……もしかして、シエラの投擲とうてきがすごいのって、魔力のせいじゃないか?」


シエラ「えっ? 魔力?」


ユーリ「さっき、盗賊に石を投げただろ? あの時、すごい勢いで石が飛んだ気がするんだ。いくら男に混じって遊んでたからって、あんなに早く投げれるもんじゃないだろ?」


サミュエル「ほう。どれ、そのポケットの石を思いっきりこっちに投げてみろ」


シエラ「げ、気付いてたの⁉︎」


サミュエル「とっくの前にな」


シエラ「うぇ……。こ、こんな近くで投げて大丈夫?」


サミュエル「ふっ。要らぬ心配だ」


シエラ(N)『サミュエルがクイッと顎をあげ、余裕の顔でわたしを見下ろした。なんだか悔しい。お言葉に甘えて遠慮なく振りかぶり、「えいっ」と投げつけた。会心かいしんの投球だ。……にもかかわらず、サミュエルは止まってる虫を捕まえるかのように、あっさり石をキャッチした』


サミュエル「ふむ。まぁまぁか」


シエラ「うわ、簡単に取られちゃったぁ……」


サミュエル「わずかだが、確かに魔力がこもってるようだ。力の弱いレムナントくらいまでなら、これをけるのは難しいかもしれないな」


シエラ「むぅ。ちなみに、サミュエルさんはどのくらい投げれるんですか?」


サミュエル「俺か?」


シエラ(N)『サミュエルは嫌そうに眉毛を寄せつつ、キャッチした石を近くの木に向かって軽く投げた。すると、パンッという破裂音とともに、石が木の幹を貫通かんつうした。パラパラと木屑がこぼれ落ちる』


シエラ「うわぁ!」


ユーリ「うおぉ、す……すげぇ……!」


シエラ(N)『わたしとユーリはびっくりして後ろにのけぞった。驚いている二人を他所よそに、サミュエルは何事もなかったかのようにスープに口をつけている。あまりこの人に逆らわないでおこう。そう思った後、一抹いちまつの不安が脳裏をよぎる』


シエラ「もしかして、あの副賊長って人もこんな力があるのかな……」


サミュエル「あぁ、あの逃げて行ったヤツか? お前と同じくらいの魔力はありそうだったな」


シエラ(N)『魔力が同じくらいなら、わたしの投擲とうてきだけでは対処しきれないだろう。しかし、軽々と木を貫通させられるサミュエルが一緒なら、きっと助けられそうだ。どうにかして仲間になってくれないだろうか。こうなったら、あの必殺技を使うしかない。わたしは勢いよく立ち上がった』


シエラ「サミュエル様、お願いします!」


シエラ(N)『わたしはサミュエルの前で正座した。深ぶかと頭を下げるわたしに、ユーリも続く」


シエラ「わたしたちに協力してください!」


ユーリ「俺からも、お願いします!」


サミュエル「おい……」


シエラ「できることならなんでもしますから!」


シエラ(N)『わたしは胸の前で手を合わせ、潤んだ目で見上げた。サミュエルの眉間のシワが深まっていく』


サミュエル「だ・か・ら! 俺に期待するなと言っただろう! 戻れ」


シエラ「そんなぁ……」


サミュエル「それにトワ! そろそろ出てきたらどうだ?」


シエラ(N)『サミュエルが真っ暗な森に向かって話しかけた。声のかけた方に浮かぶ、長い髪のシルエット』


トワ「うふふ! 残念、気付かれちゃった! こんなに口数が多いサミュエルなんて、なかなか見れないんだもん。面白かった!」


シエラ(N)『薪のあかりで見えてきたのは、全身ピタッとした黒い服のお姉さんだった。肩に白い小鳥を乗せている。高い位置で縛った柔らかくうねる髪は茶色い。あの人もライオットかレムナントだろうか。トワと呼ばれたお姉さんが弾むように歩み寄り、サミュエルにピタッとくっついて腰をかけた。大きな胸をサミュエルに押し付ける』

 

サミュエル「すぐに離れろ」


トワ「あーら、相変わらず冷たいわねぇ。せっかく良い物を持ってきてあげたのに。シジミちゃん、ありがとー」


SE 鳥の羽音


シエラ「……あの鳥、シジミちゃんって言うんだ」


シエラ(N)『トワは飛んで行くシジミちゃんに手を振ると、胸元から一枚の紙を取り出した。わたしとユーリが顔を寄せてのぞきこむ』


トワ「ここに来る前、こんな物を拾ったの」


シエラ「かえしてほしければ白いヤツよこせ……これって……!」


サミュエル「ふむ。脅迫状と言ったところか」


シエラ(N)『脅迫状には、わたしが出ていけばみんなを助けると書かれていた。サミュエルも手伝ってくれそうにないし、このまま盗賊に立ち向かったってうまくいく確率の方が低い。それなら……』


シエラ「わ……わたし……」


ユーリ「ダメだシエラ!」

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