第9話 初めての魔法

■作者のねらい:人種と魔石の説明。


■登場人物

   シエラ

   シエラ(N)

   ユーリ

   サミュエル



 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



◯サミュエルの小屋(夜)



サミュエル「怪我をしてたんだったな。見せてみろ」


シエラ「う……」


シエラ(N)『しかめっつらのサミュエルがわたしの前にひざまずき、不気味な左目でにらんでくる。有無を言わせない雰囲気に負けたわたしは、仕方なくスカートをめくった』


サミュエル「そんなに深くないな」


シエラ(N)『そう言うと、サミュエルの細い指が傷口に触れ、そっと撫でた。触れているところがじんわりと暖かくなり、痛みが引いていく。サミュエルの手が離れた時には、すっかり傷が消えていた』


シエラ「わ……傷が、消えた⁉」


ユーリ「なんだ! どうやったんだ⁉︎」


サミュエル「簡単な回復魔法だ。このくらいなら誰でもできるだろ」


シエラ「え、魔法? 魔法なの⁉ サミュエルって魔法使えるの⁉︎ 魔法使いなの⁉︎」


ユーリ「魔法使いって本当にいるのか⁉ 俺もできるようになるのか⁉」


サミュエル「あー……誰でも、というか、正確にはレムナント以上は大体できるはずだ」


シエラ「レムナント……! そうだ、盗賊の奴らも言ってた! レムナントとかライオットとか、あれってなんなの?」


サミュエル「魔力ごとのヒエラルキーみたいなもんだ。長くなるから、詳しい話は料理をしながらにしよう」




◯サミュエルの小屋の裏側、キッチン(夜)




シエラ(N)『小屋の裏には、大きめの石がゴロゴロ並んだだけの簡素かんそなキッチンがあった。サミュエルはユーリに命令してまきを持ってこさせ、わたしはサミュエルと物置小屋らしき所に入って行った。中には、ズラッと並んだ調理道具と大きい箱がある。わたしは、サミュエルに差し出されたお鍋、食器、調味料を受け取った』


シエラ「その箱は何?」


サミュエル「これは次元固定装置じげんこていそうちと言う保存庫だ。仕組みはよく分からんが、食べ物を長期間保存できる」


シエラ「へぇー。これも魔法?」


サミュエル「確か、科学と言ったか。まぁ、魔法みたいなもんだ」


シエラ「かがく……? 世の中にはわたしの知らないことが沢山あるんだね。うわっと……」


シエラ(N)『サミュエルがわたしにジャウロンのかたまりを押し付けた。お鍋やお皿など、必要なものを抱えて石がゴロゴロ転がっている所に戻ってくると、ユーリがすでに薪を並べ終えていた。その上でサミュエルがパチンと指を鳴らす」


シエラ「おわっ!」


ユーリ「うわっ、指を鳴らすだけで火が起きたぞ! それも魔法か⁉︎」


サミュエル「そうだ。指先で魔力の摩擦を起こすと火が起きる」


シエラ「なにそれ! すごっ!」


シエラ(N)『わたしとユーリに見つめられたサミュエルは、片方の眉毛を上げてもう一度火花を散らして見せた』


シエラ「ほわぁぁぁぁっ!」


ユーリ「かっこいいなぁ!」


サミュエル「ふん」


シエラ(N)『ジャウロンといい魔法といい盗賊といい、もしかしたらこれは夢なのかもしれない。わたしは自分の頬っぺたをつねって確認する』


シエラ「いてっ」


ユーリ「なにやってるんだシエラ?」


シエラ(N)『薪の火で顔を赤く染めたサミュエルは、ジャウロンの肉を手際よく切り分けてきれいに串に刺していった。それを火の上に並べると、余った肉はさらに小さくして鍋に放り込んだ』


サミュエル「お前らが住む村はライオットだけだから、魔法を見たことがないんだろう。魔力がない人種はライオットと呼ばれている。語源は古代語でライオット オブ カラー、色彩豊かという意味から来ているそうだ。名前の通り、髪や目の色が黒や茶色など濃い色をしている。その次、少し魔力があるのがレムナント。レムナントとライオットは見た目では区別がつかない。そして、かなりの魔力を持つシルバー、圧倒的な魔力のガーネットと続く」


ユーリ「えっ! ……ライオットは魔力がないって、じゃあ俺は火を起こせないってことか?」


シエラ「えっ! じゃあ、わたしって魔法使いだったの⁉︎」


SE 指パッチン


シエラ「あれ、つかないや。なんで?」


サミュエル「お前は魔石を持ってないだろ?」


シエラ「魔石?」


サミュエル「魔力を持つものは、母親の腹の中にいるときに魔力が結晶化して石になる。その石と共に生まれるのが普通だが、魔石が無いってことは魔力がないんだろう」


シエラ「サミュエルは魔石があるの?」


サミュエル「……ああ。これだ」


シエラ(N)『サミュエルは襟元に手を伸ばし、ネックレスのチェーンを引っ張り上げた。中央に透き通る深緑色ふかみどりいろの石がぶら下がっている。不思議な力があるのか、わたしとユーリは吸い込まれるように石を見つめた』


ユーリ「これが魔石……」


シエラ「もしかしたらわたしはどこかで無くしたのかも」


サミュエル「それはない。魔石は魔力の心臓みたいなものだから、魔石を無くせば魔力の循環が止まって死ぬ。お前は生まれつき持っていなかったはずだ」


シエラ「そ、そんなぁ……」


サミュエル「ほら、焼けたぞ」


ユーリ「うまっそぉぉ!」


シエラ(N)『気を落としながらも、わたしはユーリに渡されたジャウロンの串焼きにかじりついた。毒見だ』


シエラ「あむっ。もぐもぐ」


ユーリ「あ、こら、シエラ!」


シエラ「おぉぉぉ……おぃひぃいぃぃぃっ」


ユーリ「なんで俺のを食べるんだよ」


シエラ(N)『横目で睨むユーリに「毒見をしたんだ」と言いたかったが、あまりに美味しくて言葉にならない。ユーリも一口食べ、目を輝かせてわたしを見た』


ユーリ「んんーっ!」


シエラ「ね、ね、美味しいでしょ!」


サミュエル「一般的には、魔力量と髪の毛などの色には相関があって、シルバーやガーネットはライオットやレムナントと違って色彩が薄い。ガーネットに至っては、目以外は限りなく白に近い。なぜか石を持たないお前も色彩が薄いがな」


シエラ「え! わたし以外にも白っぽい人がいるってこと⁉ 生命の樹から生まれたの⁉︎」


サミュエル「……いるにはいる。この辺にはいないが。そいつらは……人間から生まれている」


シエラ「そっか、その人たちは人間の両親がいるんだ……」


シエラ(N)『ちょっぴりがっかりしたが、わたし以外にも色が薄い人がいると聞いて嬉しくなった。でも、どういうことだろう。色が薄いのは、かなりの魔力を持つシルバーか、圧倒的な魔力のガーネット。わたしはどちらかに近いということだろうか? でも、魔石を持っていないし火も起こせない。ぐるぐる考えているうちに、先ほどの出来事を思いだした』


シエラ「あっ!」


ユーリ「……ぅわぁっ! いきなり大きい声出すなよシエラ!」


シエラ「そう言えばあの盗賊たち、わたしが怒ったら『体が重い』って言ってた。もしかして、わたしも少しは魔力があるってことじゃない?」


サミュエル「……まぁ、そうかもな」


シエラ「あっははっ! やったぁ!」


シエラ(N)『諦めるのはまだ早そうだ。わたしが指パッチンを練習しようと決意した時、良い匂いと共にジャウロンのスープが出てきて、意識はすっかりスープに奪われた。しかし、それも一瞬のことだった。白い小鳥が戻ってきたのだ』

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