第8話 腹が減っては戦はできぬ
■作者のねらい:サミュエルは、二人をなんとかしてあげたい気持ちはありつつも心を開けない。でもほっとけない。というモヤモヤ。
そうとも知らず、シエラとユーリはぐいぐい距離を詰めにかかる。
外にキッチンがあるのは、小さい頃にサミュエルが家の中で火事を起こしかけたトラウマによる。
この時シエラは、サミュエル特製ドリンク(いろ◯すみかん)でメンタルちょっと回復。
■登場人物
シエラ
シエラ(N)
ユーリ
サミュエル
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◯サミュエルの小屋(夜)
シエラ(N)『小屋は広めの物置くらいの大きさで、ほとんど物が無かった。壁にピッタリくっつけられているダイニングテーブルも、わたしたち三人で座ると小さく感じるくらいの大きさだ。唯一温かみを感じる壁際の灯花が、優しい光で室内を照らしている。不思議そうに中を見渡していると、サミュエルが水を持ってきてくれた』
シエラ「ほわぁぁぁぁ! なにこれ! すっごい美味しい!」
ユーリ「生き返ったぁぁぁぁ……」
サミュエル「近くの木で採れるクロムオレンジの実を絞って、水と混ぜただけだ。それより、そのだらしない顔を何とかできないのか……」
シエラ(N)『呆れ顔のサミュエルがお代わりを
シエラ「それで、あなたは敵なの? 味方なの?」
サミュエル「……敵か味方かも分からないのに、そんなにぐびぐび飲んでるのか? 毒が入ってたらどうするんだ」
ユーリ「ブッ! ゲホッゲホッ」
シエラ「えっえっ! ……毒が入ってるの⁉︎」
サミュエル「入ってない」
シエラ「良かった……!」
ユーリ「びっくりしたぁ……」
サミュエル「会ったばかりで敵も味方もないだろう。少なくとも敵とは言わないが、味方でもない。……むしろ……」
シエラ「そっか。初めて会うんだから、確かにそうだよね。わたしはシエラでこっちがユーリ。わたしは孤児院で育った孤児なんだけど、ユーリは孤児院長の息子なの」
シエラ(N)『自己紹介をしてから、何故ここに来たのか今までの経緯を細かく説明した』
シエラ「……というわけで、お母さんと話す間も無くて、渡された地図の通りここに来るしかなかったの。突然押しかけてごめんなさい」
シエラ(N)『できればもう少し早く助けてくれると良かったんだけど。と思いつつも、お母さんに「誠意は態度から」と教えてもらっているわたしは、深ぶかと頭を下げた。隣のユーリも空気を読んで一緒に頭を下げている。そんなわたしたちにサミュエルはなにか言うでもなく、ゆっくり立ち上がって扉へ向かった』
SE 扉を開ける音
SE 鳥の羽音
シエラ(N)『肩に止まっていた白い小鳥が暗闇へ飛び去ると、何事もなかったかのようにサミュエルが椅子に戻った。わたしとユーリは意図が分からず顔を見合わせた。不思議に思いつつも、とりあえず話を続ける』
シエラ「今話したので全部なんだけど、わたしたちを助けてくれる?」
サミュエル「俺に、何の得があるんだ?」
シエラ「得……?」
サミュエル「さっきは俺の目の前で襲われてたからしょうがなく助けてやっただけだ。盗賊団から人質を取り返すなんて、なんで俺が危険を犯してまでお前らの手助けをしなくちゃいけないんだ?」
シエラ「えっと、それは……」
サミュエル「話は終わりだな」
シエラ「あぁぁ待って……あっ、そうだ!」
SE テーブルを叩く
シエラ「わたしが孤児たちに、サミュエルがヒーローだって伝えてあげる!」
シエラ(N)『ユーリのようなヒーローとして尊敬してもらえるなんて、間違いなく得になる。わたしはいつも、孤児院の子どもたちにお話をしてあげてるので、かっこいい物語を作るのは得意なのだ。子どもたちが自分の足元に群がり、尊敬のまなざしで見上げる姿を想像すると、自然と胸がワクワクしてきた。気分が高揚して妄想に拍車がかかったわたしは、偉そうに人差し指を天井に向けて話を続ける』
シエラ「いつかわたしの命が尽きたとしても、偉大なる大剣士、サミュエルの武勇伝を永久に語り継ぐと約束しましょう。もちろん、尾ひれをつけて!」
サミュエル「おい、やめろ」
シエラ(N)『サミュエルが眉間にシワを寄せ、おでこに手を当てた。どうしたんだろう。尾ひれが気に食わなかったかな。尾ひれなど無くても俺は強い、とか言いそう』
サミュエル「俺は別にヒーローになりたくない。救出作戦はお前らだけでやれ」
シエラ「そう、わたしたちだけ……って、え⁉︎ ヒーローになりたくないの⁉︎ そんな人いる⁉」
ユーリ「待ってくれ、得ってなんだよ。お前にとって何が得かもわかんないのに、条件なんてだせるわけないだろ。せめて何が望みか言ってくれよ!」
サミュエル「……ない。望みなんて持ったことがない」
シエラ「望みが……無い⁉︎ お肉をお腹いっぱい食べたいとか、パンをお腹いっぱい食べたいとか、甘いケーキをお腹いっぱい食べたいとか⁉︎」
ユーリ「……シエラ、食べ物ばっかりじゃないか」
SE お腹の音
シエラ「うひゃっ!」
ユーリ「プッ! すごい腹の音!」
SE お腹の音
ユーリ「あぁ……」
シエラ「プッ! ユーリも人のこと言えないじゃない」
サミュエル「はぁ。ちょうど今朝獲ったジャウロンの肉があるから、とりあえず食わしてやる。助けに行くにも、腹が減っては戦はできんだろうからな。だがそれだけだ。間違っても俺に期待するなよ」
シエラ「ジャウロン⁉︎」
SE 鐘の音
シエラ(N)『ジャウロンという名前が、大聖堂の鐘のように心に響き渡った。ジャウロンとは、全身が硬い
シエラ「わたし、ジャウロンの肉大好き! はぁぁ♪」
サミュエル「それは良かったな。じゃあ料理するから外に行くぞ」
シエラ(N)『良かったとは
シエラ「外にキッチンがあるの?」
サミュエル「……家の中で火は使わないんだ」
ユーリ「そうなんだ。変わってる家だな……あ、ごめん」
シエラ(N)『サミュエルにギロリと睨まれたユーリが肩をすくめた。サミュエルがプイッと顔を背け、不機嫌そうに無言で扉へと向かう。わたしもそれを追って立ち上がろうとすると、急に足に痛みが走った』
シエラ「いたっ!」
ユーリ「おい、どうした?」
シエラ「そういえば、盗賊に太ももを切られてたんだった」
ユーリ「大丈夫か? やっぱり傷が深かったのか」
シエラ「えへへ。ううん、大丈夫だよ」
シエラ(N)『傷を誤魔化そうとユーリに向かって作り笑いを浮かべた時、ふとわたしの視界が暗くなった。怖い顔をしたサミュエルがわたしの前に立ち塞がっていた』
シエラ「うひっ……」
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