第7話 絶体絶命

■作者のねらい:サミュエルが何者なのか謎。シエラとユーリの最初の印象最悪。


■登場人物

   シエラ

   シエラ(N)

   ユーリ

   サミュエル

   盗賊A

   盗賊B

   副賊長


■サミュエルの特徴

素直じゃなく塩対応だが、本当は人見知りの恥ずかしがり屋さん。

トラウマがあって、シエラ&ユーリとは関わりたくない。

小さい頃は元気な可愛い男の子だったが、6歳(エリクソンの発達段階は勤勉性VS劣等感)の時期に両親を失い、罪悪感を抱え殻に閉じこもってしまった。しかし、それまでは両親から愛情を受けて育ったので、ちゃんと優しさや人を大切にする気持ちを持っている。(この出来事はスピンオフ「6年の時を経て〜」に詳細あり)



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◯サミュエルの小屋(夜)


盗賊A「なんだ、お前。俺たちとやろうってのか?」


盗賊B「まさか、副賊長とやりあおうなんて、馬鹿なことは言わないよな」


サミュエル「ふん。盗賊風情が」


SE 剣を振る音


シエラ(N)『空気を切る音と共に一筋の光が走った。サミュエルの外套がいとうが揺れた次の瞬間、下っ端二人があっけなく地面に崩れ落ちた。それを見た副賊長が冷や汗を流し始める』


副賊長「なんだお前は、なぜ邪魔をする! わかった、こいつか。お前も白いレムナントの肉が欲しいんだな! それともアレか、お前も仲間に入りたいんだろう。よし分かった、俺が直々じきじきに賊長に頼んでやる。ぶわははは!」


シエラ(N)『サミュエルが片目で副賊長を睨み、無言でにじり寄る。徐々に距離を詰められた副賊長は、ゴミのようにわたしを投げ捨た』


SE ドサッ


シエラ「きゃ……っ! いたっ」


SE 剣を抜く音


副賊長「おもしれぇ。お前、俺とやろうってんだな。後悔しても知らねえぞ!」


シエラ(N)『サミュエルと副賊長が睨み合った。風が止み、静寂が辺りを包む。わたしの耳に、副賊長の生唾を飲み込む音が鮮明に聞こえた。それを合図に、勢いよく地面を蹴ったサミュエルが、一瞬にして相手のふところに入った。……この人、強い!』


SE 金属音 ヒュンヒュンヒュン


副賊長『ぐわあぁぁっ!』


シエラ(N)『副賊長は一撃で剣を弾き飛ばされてしまった。舞い上がった剣がきれいな放物線を描いて地面に刺さる。自分の剣を目で追った副賊長は、悔しそうに歯をギリギリ言わせながら後ろへ下がった』


副賊長「くそぉ……そいつはお前にやるよ! 畜生!」


SE 走る音


シエラ(N)『一瞬で盗賊を蹴散らしたサミュエルが、剣を握ったまま今度はわたしを見た』


シエラ「ひっ……!」


ユーリ「う……いてて……ん?」


シエラ「ユーリ!」


シエラ(N)『倒れていたユーリが気がついた。お腹を押さえて辛そうな表情をしている。しかし、とりあえず生きていてくれて良かった。そう思ったのも束の間、ユーリの次の行動を見て息が止まった』


ユーリ「お前! シエラに何をしたぁぁぁぁ!」


シエラ「ユーリ、だめ! 危ない!」


シエラ(N)『ユーリは地面に刺さっている副賊長の剣を引き抜き、無謀にもサミュエルに切りかかっていった。ちらりとユーリを見たサミュエルは、静かに自身の剣をさやにおさめると、重さに任せて振り下ろされたユーリの剣をヒョイっとかわした。そして簡単に剣を奪いとり、首根っこを掴んで軽々と自分の目線まで持ち上げた。まるで子猫を持ち上げた親猫の様だ。ユーリがプラ〜ンと揺れている。……あれ? なにがどうなったの?』


サミュエル「俺は何もしてない。お前は随分と元気だな。さすがライオットは体が丈夫だ。これなら心配はいらんな」


ユーリ「なんだよ、ライオットって! 盗賊といいお前といい、訳の分からない呼び方をしやがって。俺たちは食べ物じゃないんだぞ!」


サミュエル「ふん。お前みたいな不味そうなやつ、誰が好き好んで食べるか。それに、俺はお前たちなんか食べなくても十分強い」


ユーリ「食べるつもりが無いならなんなんだよ! さっきは無視したくせに、今度はこうやって出てきたりして。お前、何が狙いだ!」


シエラ(N)『サミュエルが嫌そうな顔で手を離した。解放されたユーリがわたしの隣に並ぶと、それだけで勇気が湧いてくる。わたしは、キッとサミュエルをにらんで言った』


シエラ「ユーリの言う通り! このタイミングで出てくるなんて、何が狙いなの⁉︎ 助けるつもりならもっと早く出てきてよ!」


シエラ(N)『長い沈黙のあと、あきらめたようにサミュエルがため息をつき、くるりと背中を向けた』


サミュエル「………………はぁ。中に入れ」


SE 鳥の羽音


シエラ「あれ、あの鳥」


シエラ(N)『目印となっていた白い鳥が、サミュエルの肩に止まった。そのまま小屋の中に入って行く。サミュエルがいなくなって緊迫感が解けると、ユーリがわたしの肩に手を添えて顔をのぞきこんできた』


ユーリ「足、大丈夫か?」


シエラ「痛いけど、大丈夫。そんなに深くないと思うよ」


ユーリ「そうか……」


シエラ「本当に、大丈夫だよ!」


シエラ(N)『わたしはユーリが心配しないよう、笑顔を作って適当なことを言った。それでも心配そうな顔をしていたので、わたしは傷から意識をそらせるために話をずらした』


シエラ「ユーリ、中に入れって言ってたけど、どうする?」


ユーリ「うーん……シエラを食べるつもりはないみたいだな。よく考えたら、殺すつもりならもう殺されてると思わないか? まだ信用はできないけど、母さんが極悪人を紹介するとも思えないんだよな」


シエラ「そうだね。きっと嫌なヤツだと思うけど……極悪人ってこともなさそうだよね。ここまできたんだもん、行くしかないよね」


ユーリ「そうだな。話だけでもしてみる価値はありそうだ」


シエラ「でも一応、この辺の石は拾っておこう。なんかあったら投げてやるんだ」


ユーリ「ははっ! お前、なんか頼もしいな」


シエラ「だって、……さっきは失敗しちゃったけど、ユーリはわたしが守るって決めたんだもん」


ユーリ「おいおい、それじゃ逆じゃないか。俺がシエラを守るんだ。……さっきは失敗しちゃったけど」


シエラ「ふふふっ」


ユーリ「はははっ」


サミュエル「遅いぞ。何やってる。来るのか? 来ないのか?」


ユーリ・シエラ「今行きます!」

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