第6話 盗賊の追随

■作者のねらい:シエラとユーリだけでは盗賊に力が及ばないことを表している。のちに、この場面のサミュエル視点の話が出てくる(お気に入り)


■登場人物

   シエラ

   シエラ(N)

   ユーリ

   サミュエル(25歳)

   盗賊A

   盗賊B

   副賊長



 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



シエラ(N)『わずかな休憩の後、二人の呼吸と足音を聞きながら暗闇を走り続けた。山が段々と深くなってきたとき、木の上で何かがぼんやりと月明かりを照り返した』


シエラ「あっ! なにあれ! もしかして、あれじゃない?」


ユーリ「わ、ほんとにいた! 白い鳥で良かった。黒かったら見えなかったな」


SE 鳥の羽音


シエラ『白い小鳥がパタパタと飛んできたので、わたしは手を出してみた。すると、人差し指にチョコンと止まり、小さな頭をかわいらしくかしげてから飛び去って行った』


ユーリ「かわいいなぁ」


盗賊A「ほんとにいたな。孤児院のガキが。しかも噂通り白いレムナントときた。もう一匹は……ライオットか?」


シエラ・ユーリ「!!」


シエラ(N)『突然、耳元で気持ち悪い囁き声が聞こえた。盗賊だ。音もなく忍び寄られ、男が声を出すまで全く気が付かなかった。すぐに距離を取ろうとしたが、一瞬だけ反応が遅れたユーリが首根っこを掴まれてしまった。軽々と持ち上げられ、ユーリの足が宙に浮く』


シエラ「ユーリ!」


ユーリ「くそ! 離せよ!」


盗賊B「ほら、いただろ? それにしてもあっちの家畜かちくはレムナントの割に随分と白いな。こりゃぁ高く売れるぞ」


盗賊A「売るなんて勿体ない! 俺たちで喰っちまおうぜ。噂じゃ、白を喰えば力がつくみたいだからな。これを逃したら白の家畜なんて二度と手に入らないぞ。売るならそっちのライオットだけにしとけ」


盗賊B「それもそうだな。ヘッヘッヘ」


シエラ(N)『人間を食べるなんて物騒な内容にも関わらず、男たちは満足そうに笑っている。家畜という言葉からも、きっとわたしたちを同じ人間とは思っていないのだろう。舌なめずりをして近寄ってくる男に、わたしはじりじり後ろに下がった』


ユーリ「シエラ! お前だけでも先に行け!」


シエラ(N)『先に行けと言われたが、わたしはその言葉に従うつもりはなかった。これ以上家族を、ユーリを失うわけにはいかない。それがたとえ、盗賊相手だとしても。覚悟を決めたわたしは、素早く足元の小石をわし掴みにし、渾身こんしんの力を込めて次々と投げつけた』


シエラ「えいっ、えいっ!」


盗賊A「いてぇっ! こいつ!」


盗賊B「ぐゎっ!」


シエラ(N)『盗賊がひるんだすきにユーリがうまく抜け出し、わたしと同時に走り出した。盗賊たちもすぐに追ってきたが、身軽なわたしたちとの距離が離れていく』


ユーリ「石でやっつけるなんて、すごいなシエラは!」


シエラ「ふふふ、なんたってわたしは鉄砲玉だからねっ!」


ユーリ「ははっ、また調子に乗って……」


シエラ(N)『しばらくすると、広場のようにぽっかり開けた場所に、古ぼけた小屋が見えてきた。小さな窓からオレンジ色の明かりが漏れている。ここが母の示した場所だろう。そう思った途端、安心感がわたしたちを包んだ』


シエラ「あったあった! ここだ!」


ユーリ「良かった!」


SE 扉を叩く


シエラ「すいません! どなたかいますか? 開けてください!」


ユーリ「お願いします! 開けてください!」


シエラ(N)『永遠とも思える沈黙のあと、ガチャッと扉が開いた。逆光でゆらりと浮かび上がる男のシルエット。黒くて長い髪が男の顔半分を隠している。冷たく不気味な左目が、ユーリをにらんでからわたしに止まった』


シエラ「うひっ」


ユーリ「突然すいません。俺たち、母さんに言われてここに来たんです。あの……」


サミュエル「悪いが帰ってくれ」


ユーリ「えっ? うわっ」


SE 扉を閉める


シエラ「……なに今の。あの人がサミュエル? 全然助けてくれそうにないけど。お母さんが場所を間違えたってことは無いかな」


ユーリ「……地図に書いているのは……確かにこの場所だ。ここで合ってると思う」


シエラ「どうしよう。ここだけが頼りだったのに」


盗賊A「やっと追いついたな……ハァ、ハァ、畜生が。家畜の分際で生意気な真似しやがって。おい、レムナントだけでも捕まえろ!」


シエラ「あぁぁぁ、やばい! もう追いつかれちゃった!」


盗賊B「手間かけさせやがって。絶対喰ってやるからな……うへへ……」


SE 扉を叩く


ユーリ「お願いします、開けてください! ……くそっ、だめか!」


シエラ(N)『わたしとユーリが男たちとにらみ合った。頼みのつなのサミュエルという人は助けてくれなさそうだ。万事休す。でも、こいつらの狙いはわたしみたいだった。よーし! それなら!』


シエラ「うわぁぁぁぁ!」


シエラ(N)『わたしは注目を集めるように、わざと大声を出しながら盗賊に突っ込んだ。そして、地面を滑って盗賊の間をすり抜ける。盗賊たちの手が空を切り、脱出成功! ……したかに見えのだが』


SE ぶつかる音


シエラ「きゃっ!」

 

副賊長「おぅおぅ! 随分元気の良い嬢ちゃんだな! それにしても、本当に白いレムナントがいるとはな」


シエラ「げぇっ! もう一人いたの⁉」


副賊長「そーれ捕まえたぞー。ぶわっはっは!」


シエラ「きゃぁぁ!」


ユーリ「シエラァ!」


シエラ「やめろ! 降ろせー!」


シエラ(N)『一段と大きな男に軽々と担ぎ上げられたわたしは、ジタバタしながら拳で背中を殴った。しかし全くびくともしない』


副賊長「ぎゃははは! なんだそれは? うるせぇから少し静かにしてろ!」


SE お尻を叩く音


シエラ「うぎゃっ! いったぁー」


ユーリ「このやろう!」


盗賊A「おぉっと、勝手に動くんじゃねぇ」


ユーリ「がはっ!」


シエラ「ユーリィィィ!」


シエラ(N)『盗賊に蹴り上げられたユーリが地面にうつ伏せになって動かなくなった。死んでしまったのだろうか。わたしは恐怖で青くなったが、すぐに煮えくり返るような怒りで支配された。ユーリを傷つけられるのは我慢できない。激しく血が循環して熱くなる体。風が頬をなでてのぼっていく』


シエラ「……あんた達、ユーリに何したの!」


盗賊A「な、なんだ?」


盗賊B「体が……重い……?」


副賊長「はっ! 面白いじゃねぇか。だてに白いわけじゃないんだな⁉︎ それなら、今すぐここで味見してやる。お前は俺に喰われるために生まれてきたんだ。ぎゃはははは!」


シエラ(N)『男が腰の短剣を抜き、わたしの足に当てた』


シエラ「嫌! やめて!」


副賊長「んー? 聞こえねぇなぁ?」


シエラ「きゃぁぁっ!」


SE 扉が開く音


シエラ(N)『太ももを切りつけられて生暖かい感触が広がった時、勢いよく扉が開く音がした。黒いシルエットが暗闇に揺れていた」

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