第32話 スキル辞典リーノ、大出世
金銀、赤青……鮮やかな紙吹雪が穏やかな日差しに輝く。
大勢の大人たちが僕を囲み、口々に賞賛の言葉を掛けてくれる。
「我らの新たなる守護神……”唯一無二のスキル辞典”、リーノ殿ばんざーい!!」
「聞けば皇太子ランドルフ殿下と長年行動を共にされ、目覚ましい成果を上げて来られたとか」
「しかも、世界に存在する全てのスキルを使いこなす人類史始まって以来の天才が、ランドルフ殿下にお仕えいただける……感謝しますぞリーノ殿」
本国に戻るランとエリザちゃんについてアルベルト帝国にやってきて数日……いまだ信じられないふわふわとした気分のまま、僕は豪華な式典に出席していた。
僕の手を握り、歓迎の言葉を掛けてくれるのは新聞の中でしか見たことのないお偉いさんたちだ。
黒を基調とした超カッコいい帝国の軍服……紅白のレイやたくさんの勲章をぶら下げた高官たち。
「ほ、ほえ~」
すっかりお上りさんな僕だが、問題はこの式典の主役が僕だということで。
自分にはとても似合っていないと思われる、超々カッコいい純白の軍服を着せられた僕は、思わず背後を振り返る。
きらびやかに装飾された横断幕には「スキル辞典リーノ殿……帝国スキル総監就任祝賀式典」と書かれてしまっているわけで。
『えへへ、リーノさんもカッコいいですよっ!』
同じく紅白の衣装で着飾ったララ (もふもふワンコmode)もそう言ってくれるのだが……。
「そ、そうかな?」
「おお! リーノ殿、この度はおめでとうございます!」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
せめて余裕のある態度を……そう思って表情を引き締めるが、新たな勲章を持って現れたひげ面のオジサンの迫力に、あっさりと白旗を上げる僕なのだった。
*** ***
「ううっ、疲れたぁ~」
『お疲れ様ですっ!』
長時間の式典と立食パーティを終え、部屋に戻ってきた僕はふかふかのソファーに身体を沈める。
服を脱いで身軽になったララ (念のために言うけど、犬モードです!)も、肉球ポンポンで僕をねぎらってくれる。
ああ、癒されるなぁ……。
「ありがとうララ (なでなで)」
「それにしても、ここが僕の新しい”家”かぁ……」
モフモフな感触を楽しみながら、ぐるりと”自室”を見渡す。
木がふんだんに使われた部屋のの白い壁は、よく見ればすべて大理石。
魔術式暖炉が備え付けられたリビングは奥行き15メートルほどの広さ。
もちろん、バスルームと寝室も別にあり、最新式の調理器具が揃ったキッチンも完備。
なにより、一戸建てのこの家は
……などど、しょうもない冗談を考えてしまうくらい恵まれた環境である。
”帝国スキル総監”という役職はよく分からないけど、この家が公費で賄われていて、ゼロがいくつ並んでいるのか脳が理解を拒否した給料の額から考えると、相当凄い地位なんじゃないだろうか?
「ごくり……」
1年前には考えもしなかった高収入と家持ち帝国公務員という好条件……!
これはもう、お嫁さんを迎える準備は万端という事ではっ!?
ぎゅっ……
『?? えへへ、リーノさん……しゅりしゅり~』
僕は思わずララ (犬モード)をぎゅっと抱きしめる。
……大きな問題は、まだお互い正式に気持ちを確かめ合ってない事と、彼女が「犬モード」でしかこちらに来れないという事だけど……。
ああもう、犬の姿でもいっかぁ……!
僕の胸に頭を擦り付けてくるララの愛らしい姿に、思わずそんな事を考えてしまう。
コンコン……。
危険な領域に突入した僕の妄想を断ち切ったのは、控えめに響くノックの音だった。
「リーノさん、お疲れのところ申し訳ありません」
「来週開校予定の”帝国魔術学院”の件について、打ち合わせがしたいとラン様が」
この声は、エリザちゃんだ。
正式に皇太子となったランの秘書を務めることになり、はたから見てもウキウキなのが微笑ましい。
「”みんなで飯でも食いながら気軽に話そう”とのことですので、ララさんも良ければどうぞ」
「もう夕食の時間か……パーティでは緊張しすぎて何食べたか全然覚えてないし、リベンジと行きますか」
「行こう、ララ」
『はいっ!』
僕はララが着いて来てることを確認すると、家の戸締りをし、エリザちゃんと一緒にランの待つ
『んん? あれあれっ? なんでしょうかこの変な感じ……?』
犬の姿になっているときは、嗅覚聴覚に加え、モフ力の感度も上がっているみたい。
遠くの方からわずかに感じるおかしなモフ力に、思わず立ち止まるララであったが……今夜の夕食がA5ランクの霜降り牛であることを知り、慌ててリーノたちの後を追いかけるのだった。
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