第27話 燃える公都と襲撃者
突然、謎の黒ずくめ集団に襲撃されたノルド公国公都。
僕たちは襲撃者のボスらしき男を追い、夕闇迫る街を駆ける。
「ラン……奴らは僕らの名前を知っていた。 やっぱギルドの追手かな?」
「連中の訓練された動き、ギルドの冒険者や犯罪組織の暗殺者とも違う」
「……”軍隊”かもな」
ランの指摘に、思わず息を飲む。
「そ、そんな……さすがに”王国”から狙われるような心当たりはないよ?」
僕を目の敵にしているのは、父上にガイオ……バルロッツィ家の関係者だけのはず。
襲撃者がマリノ王国の軍隊だとしたら、僕は王国からお尋ね者扱いされているという事に?
「ちっ、思ったより連中……」
マリノ王国の中枢に食い込んでいるのかもしれない。
ガイオを筆頭としたバルロッツィ家の権力はどんどん高まっていると聞く……ガイオが王国の特殊部隊を”私兵”のように扱えるのだとしたら?
ここまで大胆な手段を取ってくるとは予想していなかった。
だが、ノルド公国はれっきとした独立国であり、そこに特殊部隊とはいえ軍隊を送り込む行為はれっきとした侵略である。
連中の尻尾を掴んでやる……ランドルフはギリリ、と奥歯を噛みしめる。
『リーノさんにはララがついてますからっ! モフ法防御はお任せくださいっ!』
気落ちする僕の肩をぷにぷにの肉球で揉んで励ましてくれるララ……とっても癒される。
『……でもでもっ、物理攻撃への対処はお任せしますねっ!』
ひゅんっ、建物の屋根から射かけられた矢を旋風魔術で逸らす。
ファイアブラストなどの攻撃魔術は、ララが吹き散らしてくれるので楽だ。
がきんっ!
狙撃手に対し、氷雪魔術を撃ち込み動きを止める。
「あっ!? ヤツが僕たちの家にっ!」
狙撃手への対処で一瞬注意がそれた。
その隙に黒ずくめのボスは路地を曲がると、僕たちが生活している屋敷へ向かう。
マズい……全部バレている?
僕とランは足を速めるのだが、奴もさすがに速い!
*** ***
「……おっと、余計な事をしないでもらおうか」
「すみません、ランドルフ様……!」
「ちっ……」
屋敷の前に到着した僕たちが見たのは、ナイフを突きつけられ、黒ずくめのボスに捕らえられたエリザちゃんの姿だった。
背後には身体を寄せあって座る女性や子供たちが見える。
どうやら、彼女は避難誘導をしていたようだ。
「動くなよ……用があるのはリーノだけなんだ」
猛毒が塗られていると思わしき刃渡り20センチ以上ある大型の軍用ナイフは、夕日に照らされ紫色に光っている。
「リーノ、お前がおとなしく投降するのなら、この女は見逃してやろう……おい、動くなと言っただろう!」
「ひっ……!」
ヤツが僕と話している間に、隙を突こうと考えたのだろう。
じりっ、と半歩動いたランを目ざとく見つける黒ずくめのボス。
くそっ……さすがに隙が無い。
予備動作なしで放てる攻撃魔術をいくつか思いつくが、この位置からだと背後の人たちを巻き込んでしまう。
”ホールドダウン”も発動まで時間が掛かるので問題外だ。
いったんヤツに捕まるふりをして時間を稼ぐか?
拘束魔術や催眠魔術を使われたとしても、ララがいれば効かないのだ。
僕は肩に乗るララに目配せをする。
僕の意図を汲んでくれたのか、頷いてくれるララ。
よし……勝負だ!
僕が口を開こうとした時、感極まった少女の声が辺りに響いた。
「ああっ……あっさりと捕まってランドルフ様にご迷惑をおかけするなんてっ……このエリザ、一生の不覚っ!
……で、ですが、このシチュエーションはまさにヒロイン!」
「属性満載のエリザちゃんといたしましては、このブ男のナイフが私の喉を切り裂こうとした瞬間、風のようにランドルフ様が私をお助けになる展開が訪れることは必定……!」
涙さえ浮かべ、嘆きの声を上げていたエリザちゃんだが、急に頬を染めるとぐるぐる目で妄想モードに突入する。
「おいっ、この女……黙らないか!」
「そのまま愛のベーゼを……女神さえ二人のベッドインを阻めないっ……ぶはっ!? 思わず鼻血がっ!?」
妄想が限界を突破したとき、彼女の鼻から大量の鼻血が噴出する。
「う、うわっ!?」
ぬるり……吹き出した鼻血に滑り、黒ずくめの拘束がわずかに緩む。
その隙を見逃す僕らじゃないわけで。
「ラン! ”フィジカルブースト”!」
「おう! リーノ!」
ダンッ!
「しまっ……!?」
ドゴオッ!
『エリザさんはララがっ!』
ぴょんっ!
僕の身体強化魔術が発動すると同時に、弾かれるようにジャンプするラン。
全体重を乗せたランの当身は、一撃で黒ずくめの意識を刈り取る。
すかさずララが走り寄り、エリザちゃんの肩を押し黒ずくめから距離を取らせる。
どさっ……
倒れ伏す黒ずくめの男。
「ああっ……ランドルフ様のたくましい両腕が私を……モフモフの体毛が……って、ララちゃんっ!?」
『わんわんっ!』
いまだ妄想に沈むエリザちゃんは、彼女を抱きとめたのが犬モードのララであることに気づき、悲鳴を上げている。
恋の成就はまだ遠そうだ……頑張れよエリザちゃん。
「さて、できれば証拠を探したいが……コイツらが特殊部隊だとしたら望み薄かもしれないな?」
ランが倒れた男に近づく。
確かに、手慣れた様子の襲撃者が身分を証明するものを持っているとは思えない。
僕らがバルロッツィ家に抗議しても、”犯罪組織の襲撃だ。証拠はあるのか?”としらばっくれるに違いない。
「ま、厳しく尋問するだけだがな……くくっ、ランドルフ流尋問術の冴えを見せてやるぜ」
『ふふふん! それだけじゃないですよっ!! こ~言うときはララのモフ法にお任せくださいっ! 何でもお見通しですっ!』
『エリザさんが妄想で週8”もふもふ”してること、さっき触っただけでわかっちゃいましたっ!!』
「ぎゃ、ぎゃ~~~っ!?」
唐突に恥ずかしい秘密をばらされ、絶叫するエリザ。
あ、こちらにはララがいたんだった。
ウキウキと尋問の準備をするランとララに、少し引いた僕なのだった。
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