第28話 スキル辞典リーノ、成人する
「リーノさんっ! お誕生日おめでとうございますっ!」
満面の笑みを浮かべたララが、きれいにラッピングされた包みを手渡してくれる。
「プレゼント……僕に? ありがとうララ!」
自慢じゃないけど女の子から誕生日プレゼントをもらったのは生まれて初めてである。
今日は僕の20歳の誕生日……なにが変わるという事はないけれど、世間的には成人として扱われる。
この記念すべき日に、お祝いをしたいと言ってくれた彼女に誘われ、僕はナ・デナデへ来ていた。
「なんだろう……開けてもいい?」
「もちろんですっ!!」
肉球シールで留められたピンク色のリボンをそっと外す。
「これは……」
中から出てきたのは、白銀の毛で編まれた一対の手袋だった。
ふわっ……
恐ろしいほど手触りが良い……この甘美なる感触はどこかで?
「えへへ……それっ、尻尾の毛で編んだんですよっ!」
「!?!?!?」
これが……ララの尻尾の毛で出来ている!?
「特別なモフ式も込めてますのでっ、手にハメてぱんちしてもらえばっ……攻撃モフ法も怖くありませんっ!」
なるほど、ララのぶっ飛んだ魔術抵抗力が込められているという事か。
……バルロッツィ家に狙われている僕の事を心配してくれたのだろう。
見れば、ララの尻尾の毛が少し短くなっている。
ここまでしてくれるなんて……彼女の心遣いに、心がぽかぽかとあったかくなる。
「本当にありがとう、ララ! 大事に使わせてもらうよ!
このあと、向こうでも誕生日パーティをするんだ。 ララもおいでよ!」
「はいっ! ぜひぜひっ!」
ぽふっ……僕とララは、笑顔で抱き合う。
リーノ20歳、人生最良の日であった。
「マジかにゃん……自分の”毛”を使ったプレゼントとか、重い女にゃん、ララ様」
「キーロたちはなんであまあまシーンを見せつけられているの……これってハラスメントなの」
*** ***
「ということで……おめでとうリーノ!」
「ありがとう、ラン!」
ちんっ!
たっぷりとブランデーが注がれたグラスが合わさり、涼やかな音を立てる。
「おめでとうございます、リーノさん」
「ララさんも……お肉もたっぷりありますので」
『わんわんっ♪』
その日の夜、僕たちの屋敷では誕生日パーティが開かれていた。
エリザちゃんが用意してくれたのか、テーブルの上には色とりどりの料理が並び、ワンちゃんモードのララも楽しんでくれているようだ。
「それにしても、思ったより街に被害がなくて良かったよ」
「連中の目標はお前だったからな、あぶり出すのが目的だったんだろう」
料理とお酒に舌鼓を打ちながら、話題はどうしても先日の襲撃事件の事になる。
燃やされた建物は10軒ばかり……多少のけが人は出たものの、街の人に死者は出なかった。
僕の回復魔術でけが人はすべて回復ずみ。
公都が襲撃されたのは僕のせいなので、被害を受けた街の人にどうやってお詫びをしたらいいのかと悩んでいたんだけど。
「むしろ長年の懸案であったフロストジャイアントが退治され、レグナー公からはお褒めの言葉を頂いたな」
「逆に英雄扱いされちゃって恐縮するよ……家を失った人にはレグナー公から保証金が出たのは良かったけど」
国家元首であるレグナー公からは”襲撃者”の被害を最小限に抑えたこと、フロストジャイアント退治の功を称賛され、褒美までいただいてしまった。
「あとは……ララちゃんのおかげで、”襲撃者”がマリノ王国の特殊部隊であることが分かった」
「証拠も揃えたし……”明日以降”、目にモノを見せてやるぜ!」
明日以降?
何があるというんだろう?
しいて言えば、ランも僕と同じく成人を迎えるのは確かだけど。
『ぱくぱくっ……このステーキ、美味しすぎますっ!!』
片っ端から料理を平らげるララを膝に抱きながら、思わず首をかしげる僕なのだった。
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