第2話 元神童、異世界に召喚される
「さっきの馬車、バルロッツィ家か……世継ぎのガイオは18歳にしてマリノ王国の宮廷魔術師筆頭に内定」
「ガイオは本来Cランクがそこそこの魔術師……当主フランコは相当王室に”積んだ”らしいぜ」
バルロッツィ家の馬車が走り去った先を忌々しげに一瞥するランドルフ。
「ふふ、元”神童”としては複雑か?」
「まさか!」
「”家”を追われて4年も経つんだし、まったく気にしてないよ……ランが一緒に冒険してくれるおかげでちゃんとご飯が食べられてるし」
「ま、そうだよな……お偉方の”お遊び”は奴らに任せときますか」
思い返せば、家を放り出されて呆然としていた僕に手を差し伸べてくれたのも彼だった。
どん底にも救いはあった……初級スキルしか使えない僕だけれど、少しでもコイツの助けになれば……改めてそう思う。
冒険の準備を終え、ランと一緒に街の外へと向かう。
僕は数百のスキルを契約している点を除けば、中肉中背の一般的な体格。
最低限の冒険に耐えられるくらいの体力はある……と思う。
対して、僕の隣を歩くラン……ランドルフは2メートルを超える偉丈夫。
グレートソードを軽々と振り回し、数々の剣技を使いこなす。
僕が所属するギルドでも上位の使い手なんだけど……なぜかずっと僕と組んでくれている。
ランいわく、「修行になるから」らしいけど。
沈みがちな気分を変えようとしたのか、いやらしい笑みを浮かべたランが軽口をたたく。
「そういえば、こんど繁華街に新しい店ができるらしいぜ?」
「色々なタイプの子と楽しめるってよ?」
「リーノ、お前もそろそろ覚悟を決めて……」
「や、やだよ! お店の子もかわいいけど、最初は純愛って決めてるんだ」
「それに、獣人族はいないだろ……?」
ランの悪魔の囁きに、思わず清純派っぽい反論をした僕だが、すれ違う一人の女性に目を奪われる。
ふわりとしたプラチナブランドに、すらりとした美脚……なによりモフモフのケモミミと尻尾が……。
「……なんだ、
胸躍る高揚感が一気に冷めてしまう……見間違えるはずがない。
ケモミミも尻尾も、彼女の頭髪の色と
「……まあ、今や純粋な獣人族は希少だし、期待した僕がバカだったよ」
「ラン、手配モンスターの出現場所へ急ごう」
通り過ぎていく女性に興味を無くした僕は、”仕事”の顔を作るとランに声を掛ける。
人生は有限である……次の機会を探しに行くべきであろう。
「……なんつ~かリーノ、お前さんの獣人好きは世界一だと思うわ」
心底感心した様子でランが後を付いてくる。
こうして僕たちは王都郊外の森へと向かうのだった。
*** ***
ボワアアアァァ!
「ちっ! 幻惑魔術か……やっぱマンドレイクはめんどくせぇな!」
森の奥に到着してほどなく、僕たちは手配モンスターであるマンドレイクの襲撃を受けていた。
依頼と異なり、
まったく……これだからお役所の出す依頼は!
モンスターの数とレベルくらい正確に教えてほしいものである……だけど、ランがボスマンドレイクの注意を引いてくれたから、奴の背後に回り込むことが出来た。
「よしっ! ココが使いどころっ!」
いくらDランクモンスターとはいえ、僕が使える初級爆炎魔術の”ファイアシュート”では満足なダメージを与えることは出来ない。
現時点で使える5つのスキルの中で……唯一格上のモンスターにも通用する秘儀っ!
ババッ!
僕は大きく両手を広げると、背後からボスマンドレイクに飛び掛かった。
ガッ!
クアアアアアアアァッ!?
まさか剣も魔術も使わずに肉弾戦を挑んで来るとは思わなかったのだろう。
あわてた表情 (木なので分かんないけど……)を浮かべるボスマンドレイク。
「逃がさないっ!」
その勢いのまま、両手両足を奴の胴体に絡ませる。
……ううっ、硬い、ザラザラしている、樹液くさい!
モフモフな獣人族の女の子ではなく、こんな枯れ木の化け物と抱き合っているなんて……無情な現実に、おもわず悟りを開いてしまいそうになるが、僕の奥の手はこうしないと使えないのだから仕方がない。
「くらえ! ”ホールドダウン”!」
パアアッっ……どさっ!
僕の両手両足から展開した術式に魔力が込められる。
ガアアアアッ!?
何をされているのか理解できないのだろう、困惑の叫びをあげるボスマンドレイクは僕と共に地面に倒れる。
5,4,3,2,1……ポン!!
バシュウッ!
ゆっくり5秒数えると、術式の発動音が辺りに響く。
「ふう、なんとかなった……あとはよろしく、ラン」
ボスマンドレイクから身体を離すと、奴はぴくぴくと体を震わせたまま倒れている。
厄介な幻惑魔術を使ってくることもない。
「……相変わらず凄いんだか凄くないんだかよく分からないスキルだな……はあっ!」
ザンッ!
ランのグレードソードが一閃し、ボスマンドレイクを両断する。
「これで依頼完了か……それにしても”ポン”ってなんだよ?」
「気合ってヤツ?」
これが現状僕が使える唯一の上位スキル。
相手の動きやスキルなど、一切合切を封じてしまう強力なスキルだが……発動させるには相手に抱きついた状態で5秒押さえ込む必要があるなど、恐ろしいほど使い勝手が悪い。
……そういえば、僕以外に使っている人間を見たことが無いが、この発動条件では仕方ないだろう。
「……ううううっ、おぞましいマンドレイクの感触が残って……早くモフモフちゃんで上書きしないと!」
王都にただ一店だけ存在する獣人耳かきリフレ……!
彼女たちのケモミミと尻尾を触り放題な状態で耳かきをしてくれるという至高の名店である。
少ない貯蓄からどうやって代金をひねり出そうかと頭を悩ませていた時、頭の中に声が聞こえた。
”……ナ・デナデの神よ、ぜひぜひお願いしますっ! 我ら超困ってますんでお助け下さいっ!……”
ぱあああああああああっ!
「わわっ!? なんだこれ!」
荘厳な……というには物足りない、やけに
青白く光る魔法陣が僕を包むように展開する。
「リーノっ!?」
ぱしゅん!
ランの叫びも空しく、
僕の身体と意識は光に飲まれた……。
*** ***
「…………う」
ぽふん……
途切れていた意識がおぼろげに覚醒する。
思わず伸ばした右腕に、なにか柔らかいものが触れる。
これは……なんという極上の手触りだろうか。
まるで獣人耳かきリフレの最高額サービスを頼んだ時経験した、至高のケモミミみたいだ。
僕のお尻にはぺしぺしと柔らかな毛の固まり?が当たり、とっても気持ちがいい。
まるで獣人族耳かきリフレの超最高額サービスを頼んだ時経験した、至高の尻尾みたいだ。
「……って、えええええええっ!?」
一気に意識が覚醒する。
「ふわわわわ……」
目を開いて一番最初に見えたのは、白銀の髪とグレーの犬耳を持ち、エメラルドと見まごう瞳を持ったかわいい女の子。
僕を抱きとめる形になったからか、頬を真っ赤に染めている。
えっあっ? じゅ、獣人族の女の子っ!?
混乱する僕をよそに、彼女の桜色をした形の良い唇が開かれ、更なる驚きのセリフを紡ぐ。
「凄いですっ! そのお姿は……まさに伝説の聖獣様っ!!」
「これで……これで世界は救われますっ……ステキな救世主様、ありがとうございますっ!!」
ぎゅっ!
「……はい?」
感激のあまり僕を抱きしめる少女と、事態について行けず呆然とする僕。
……どうやら”スキル辞典”リーノ、”召喚獣”として別世界に召喚されてしまったみたいです。
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