第3話 元神童、モフモフ理想郷で超レベルアップ(前編)

 

「黄金色に輝く体毛と、蒼穹のごとし瞳!」

「まさにまさに伝説の聖獣様ですっ!」


 初対面の女の子といつまでも抱き合っているわけにいかないので、彼女から身体を離す。


 僕のことを”伝説の聖獣”と呼んだ少女は、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねている。


 あらためて彼女の姿を観察してみよう。


 年齢は15歳くらいだろうか?

 肩まであるふわふわモフモフの髪の毛は見事なプラチナブロンド。

 ピコピコぶんぶんと元気いっぱいに動く犬耳と尻尾にはシルバーのメッシュが入っており、柔らかな日差しにきらりと輝く。


 丈の短い薄青の上着の下からはちらちらとかわいいおへそがのぞく。

 短めの紅色スカートの上からは宝玉が埋め込まれたベルトが伸びており、両脚の太ももに巻き付いている。


 すらりと伸びた健康的な生脚の足元は革靴だ。


 ヤバい……これは、200万点ッッ!!


 超絶好みドストライクな女の子の出現に、思わず心の中でこぶしを握る。


 ……余談になるが、”召喚魔術”を使うと異世界から強力なモンスターを召喚し、一時的に使役することができる。

 当然ほかの世界にも”召喚魔術”は存在するので、僕たちの世界の住人もこうして”召喚”されることがまれにあるのだが……。



 召喚獣として呼ばれたからには、なにか”敵”を倒す必要があるだろうか?



「巫女様! 喜ぶのはイイですがヤツが来ますにゃ! 本土決戦だにゃ!!」

「物凄いオーラを感じるわん! いけるっ!」

「……地獄の底から吹き上がるマグマのごとくねっとりとしたオーラですけどね……あとで調査なの」



 騒がしい声に振り向くと……僕の背後にはピンク色のレンガで埋め尽くされた、やけに可愛らしいお城が建っており、入り口では衛兵らしき格好をした3人の女の子がお城を守るように槍……のような獲物を構えている。


 3人とも獣人族で、赤、黄、緑の頭髪と尻尾が目に鮮やかだ。


 ……ふむ、ここは理想郷だろうか……いやむしろ天界?


 心の中のリミットゲージ (意味深)が急上昇するのを感じていると、巫女様と呼ばれた最初の女の子が、ハッとした様子で左手の方向……丸と三角で構成されたやけにファンシーな木々が生い茂る森を指さす。


「そうでしたそうでしたっ!」

「聖獣様! 我らナ・デナデを滅ぼさんとする悪の魔獣がもうすぐここにやってくるのですっ!」

「こちらの装備では手も足も出ないので……ぜひぜひ助けて頂けないでしょうかっ!!」


 瞳を潤ませ、僕に縋りついてくる。


「おっと……オッケー、僕に任せて!」


 可愛い女の子からのお願いなんて、断れるわけがない……今の僕は召喚獣だし。


 じゃきん


 腰に下げた鞘から魔術の発動体を兼ねたショートソードを抜き放つと、森の方に向き直る。


 ……”世界を滅ぼさんとする悪の魔獣”か……初級魔術は効かないかもしれないけど、”ホールドダウン”さえ当てれば動きを止められるはず……!



 がさがさっ



 息を殺してショートソードを構える。

 森と街道を区切る茂みが大きく揺れ……ヤツが姿を現した。



 がお~

 ぽてっ



「……は?」


 やけに気の抜ける鳴き声を上げながら現れたのは、一抱えほどの大きさの青白い物体だった。


「スライム……?」


 うねうねと左右に動きながらゆっくり近づいてくる青白い物体。

 どこからみてもスライムに見える。


 言わずと知れた最下級のモンスターで、剣を初めて持った冒険者の卵でも苦労せずに倒せるGランクモンスター。

 なにか特殊能力があるんだろうか?


「なんてことなんてこと……言い伝えよりもさらに巨大化してっ……いくら聖獣様でも……マズいですっ!」


「ぎゃ~っ! もう終わりだにゃ! ああ、死ぬ目にもう一度、お腹いっぱいプリンが食べたかったにゃ……」

「ジョン……先立つ私の不幸を許すわん……けど、ただでは死なないわん! 臣民が避難する時間くらいは稼いでみせる!!」

「ナ・デナデ1000年の歴史もこれまで……ふふ、世界の終焉に立ち会えるというのもオツな物なの」


 ……終末感を漂わせる背後の4名。

 どう見てもんだけどなぁ……。


 とりあえず、まずは牽制だ。


「ファイアシュートっ!」


 ボワアアアアアッ!


 ごく簡単な術式で爆炎魔術を発動させる。

 空中に生まれた炎の玉は一直線にスライムに向かい……。



 ぼふっ!



 あっさりとスライムを焼き尽くしたのだった。


「…………」


 どうやら本当にただのスライムだったらしい。

 あっけない幕切れに、ぽけっと立ち尽くす僕だが……彼女たちにとってはそうではなかったようで。


「凄いです凄いですっ!」

「これでナ・デナデは救われましたっ!」


「わっ?」


 だきっ!


 感極まった表情で涙さえ浮かべながら、巫女様と呼ばれた少女が抱きついてくる。

 思わず抱き留めた彼女の頭はふわふわモフモフで……。


「聖獣様……いえっ、救世主様っ!」

「わたしの名前はララィラ・エルエル」

「ぜひララと”契約”して、これからもお助け下さいっ!」


 ちゅっ……


 うわわわっ!?

 ララィラと名乗った少女の柔らかな唇の感触を感じた瞬間……僕の意識は光に飲まれた。

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