レベルアップしない呪い持ち元神童、実は【全スキル契約済み】なんです ~実家を追放されるも呪いが無効な世界に召喚され、爆速レベルアップで無双する~

なっくる@【愛娘配信】書籍化

第1話 元神童、ギルドで最下層扱いです

 

「そんじゃ、行ってきまーす!」

「あ、魔術式かまどの不具合は直しておいたから!」


「リーノ君、いつもありがとね!」

「今日も冒険かい? 気を付けるんだよ」


 きっちりと冒険着を着こみ、戸締りをして下宿を出発する。

 そんな僕に、優しい大家さんが声を掛けてくれる。


 共同キッチンに備え付けられたかまどの調子が悪かったので、昨日のうちに修理しておいたのだ。

 僕はこれでも冒険歴4年になる冒険者……”スキル”と呼ばれる色々な魔術を使えるので、これくらいなら朝飯前だ。


 にゃ~っ


 たまにウチに遊びに来てくれる、子猫ちゃんのネコミミをひとなですると、僕は冒険者ギルドへ急ぐ。


 ま、まあ……爽やかな朝はここまでなんだけどね……。



 ***  ***


「おいっ! ”スキル辞典”のリーノ!」

「今日もてめぇにぴったりな依頼を持ってきてやったぜ!」


 ばさっ


 一枚の羊皮紙が冒険者ギルドのカウンター越しに放り投げられる。


 はぁ……僕はため息をつきながらそいつを拾い上げる。

 そこに書かれていたのは、ありきたりなDランクモンスターの退治依頼。


 モンスターの名はマンドレイク。

 強くはないけれど、幻惑魔術やマヒを使ってくるため、地味に面倒な敵だ。

 極めつけに依頼主はお役所なので報酬も安い。

 典型的な”やりたくない”仕事であるといえた。


「……ありがとうございますギルド長、微力を尽くします」


 感情を消してギルド長であるアント・カリーニに一礼する。


「くくっ……礼には及ばねぇよ、てめぇ自慢の爆炎魔術、”フレア・バースト”を使えばイチコロだろう?」


「ははは、違いないですね、アントさん! おいリーノ! マンドレイクは氷雪魔術も効くから、”フロスト・ストーム”でもいいぞ!」


「いやいや、”スキル辞典の”リーノさんなんだ、”ハヤブサ斬り”で一刀両断だろう!」


「ふん……優秀なギルド構成員を持って幸せだぜ……おいリーノ、どのスキルで仕留めたかちゃんと報告しろよ!」


「「ギャハハハハ!!」」


 朝からギルドに併設された酒場で飲んだくれている冒険者たちの笑い声を聞きながら、僕は外に出る。


 居心地の悪いギルドと対照的に、目の前に広がった青空はどこまでも澄んでいて……僕は大きく深呼吸した。


 ……先ほど連中が言っていた爆炎魔術、氷雪魔術、剣技はすべて上位スキル。

 もし、これを全部を使えるのなら、過去に数多の世界を救ったという伝説の勇者に勝るとも劣らない天才なのだけれど……。


 僕はため息一つ、自分のスキル一覧を確認する。


 ■爆炎魔術

 【ファイアシュート】

 ファイアブラスト

 フレアブラスト

 ……

 フレアバースト

 ■氷雪魔術

 【アイスシュート】

 アイスブラスト

 ……

 フロスト・ストーム

 ■剣技

 【追加斬り】

 魔法剣LV1

 ……

 ハヤブサ斬り

 ■レベル:3


 ずらりと並ぶ数百に及ぶスキル……スキル一覧に現れるという事は、これらのスキルを”契約”出来ているという事だ。

 でも、使用可能な事を示す【】マークは初級スキルにしか付いてなくて……。


 冒険者になって4年、僕は契約したスキルのほとんどを使えないでいた。


 何故なら現在のレベルは僅かに3……僕には”経験値がゼロになる呪い”が掛かっていた。

 いくらモンスターを倒しても、レベルアップ出来なければどうしようもない。


 膨大なスキルを契約しているのに使えない……そんな僕に付けられたのは、”スキル辞典”というありがたくない称号だった。

 レベルさえ……レベルさえ上がれば、一気にトップクラスの冒険者になることも夢ではないのに。



 ……自分の境遇を嘆いていても始まらない。

 今日の糧を得るため、働かないと!


 気を取り直した僕は、パーティを組んでいる親友が待つ飯屋に向かうのだけれど。



 ドドドド……ギイッ



「……うわっ!?」


 大通りを明らかな速度違反で爆走してきた馬車が、僕を轢く直前で急停止する。

 馬車の側面に描かれているのは2匹の竜が絡み合う紋章……これは……。


 息を飲む僕の目の前で、乱暴に馬車の窓が開かれる。


「……まったく誰かと思えば”兄さん”、まだ冒険者なんてしていたんだ」

「とっくに野垂れ死んだと思っていたのに……ゴキブリ並み、いやいやゴキブリに失礼だったね」


 顔を出すなり辛辣な罵声をぶつけてきたのは、さらさらとした金髪にギラリと光る赤い目をした男……僕よりわずかに年下の、たしか今年で18歳になっていたはずだ。


「……おいガイオ、絶縁した浮浪者などにかまうな」

「国王陛下のお呼び出しなのだ。 先を急ぐぞ」


 僕を”兄さん”と呼んだガイオと同じ髪の色、目の色をした壮年の男が、こちらに視線すら寄こさず、不機嫌そうに吐き捨てる。


「すみません父上、懐かしくも忌々しい顔が見えたもので」

「ふふ、兄さん……せいぜいみじめに底辺を這いずり回る事です」

「代々バルロッツィ家が賜って来た”宮廷魔術師”の座はボクが頂きますので……それではごきげんよう」


 侮蔑の言葉だけを残して、馬車は行ってしまった。


「はあああああ~、これから冒険に出るってのに、最悪な気分だよ」


 今日何度目か分からないため息をつき、短く刈り揃えた金髪をかきむしる。

 ああしまった、どこに素敵な出会いが転がっているか分からないんだ……手鏡を取り出し、乱れてしまった髪型を整える。


 手鏡に映った自分の姿……彼らと同じ金髪だが、両目は海のように蒼い。

 そう、彼らは僕の”元”父親と弟。


 否応なしに苦い思い出が脳裏に浮かぶ……発端はいまから4年前。



 ***  ***


「せっかく全スキルを契約できたというのに……なんということだ!」

「やはり下賤な庶民の血のせいか……こんなのに期待したワシが馬鹿だったのだ」


 15歳の誕生日、王家に連なる名家バルロッツィの庶子として、”スキル契約”の儀式を済ませた僕。


 世の中に存在するスキルを”すべて”契約できてしまった僕は、王宮から派遣されてきた魔術師や騎士たちが騒然となる中、あれよあれよと正式な後継者として祭り上げられる。


 だけど、夢見心地は数日も続かなかった。


 僕に”経験値ゼロ”という、とんでもない呪いが掛けられていることが判明したからだ。

 当然のことながら、レベルが上がらないと契約したスキルは使えない……宝の持ち腐れである。


「……リーノ、お前はこの家にふさわしくない」

「さっさと出て行け、役立たずが!」


 バタン!


 バルロッツィ家の地位を守ることを最優先した父上は、そこそこの才能を示していた弟ガイオを跡取りに指名し、僕を絶縁のうえ、家から追放したのだった。


 ……僕が妾の子で、ガイオが本妻の子だったという事情もあったんだろう。



「よ、リーノ。 災難だったな」


 回想にふけっていると、僕の肩が優しくたたかれる。

 振り向いた先にいたのは、笑顔を浮かべた赤毛の男。

 僕の頼れる仲間、ランドルフだ。

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