SS メイド

 私はベルクリンデ王国王家のメイドです。

 仕事内容は数年前からお付きとなりました。


 お付きになる方は王家で生まれたばかりの赤ん坊でした。


 私には務まらないとメイド長に言ったのですが無理でした。


「お付きになるか、去るか。この2択です」


 メイド長、厳し過ぎますよ。

 ここを出たら死ぬしかないです。


 王家のメイドとして一通りのスキルは身につけていますが、就職先はありません。

 と言うよりも情報を漏らさない為に消される可能性が高いです。


 情報とは些細なことから重要なモノまでたくさんありますが、重要なことで言えばお城の詳細な間取りですね。

 王城は許可が下りた者しか入れないので間取りに詳しい者は限られます。

 その為、間取りの情報は高く取引されます。


 何の為に必要なのかは攻める時に必要になるから。

 実にシンプルな理由です。


 こんな些細な情報ですら漏らすことができないのに、厄介な存在を受け入れる場所などありません。

 最悪は身分を隠すことになります。


 そうなれば普通の生活すら危うくなります。


 メイド長の2択は実質はやれってことです。

 それか死ぬか。


 誰でも死ぬことはイヤですからね。

 腹をくくるしかありません。


 そしてしばらく坊ちゃまの世話をしていましたが、とても手がかかりません。


 泣かず、騒がず、大人しい。

 子供とはもっと泣いて、騒いで、活発だとメイド長に言われ、決して目を離すなとも厳命されました。


 そういえば生まれた時も産声を上げなかったとか。

 取り上げの手伝いをしたメイド仲間が一瞬死産を思ったらしく、現場は冷え切ったそうす。

 ですが、すぐにデルセイア様が笑っていると言って安堵が広がったとか。


 生きた心地がしなかったそうです。


 3才になって生誕の儀式を受けました。

 お名前がエルデール様と教えて頂きました。


 そしてこの頃からエルデール様は神童と呼ばれる存在なのだと薄々思い始めました。

 お付きになり言葉を覚えたエルデール様は知識を吸収するスピードがとても速かったのが印象的です。


 生誕の儀式を終えてからはそれが加速したように思えます。

 勉強で習った歴史や法、地理など難しいこともほぼ一晩で覚えてしまいます。


 剣の稽古でも同様でした。

 私も剣のスキルを有していますが、エルデール様の成長速度は変です。

 一晩で前日に指摘された箇所を修正してしまいます。


 奥様は若さなどと言っていましたが、私は怖さを覚えます。


 エルデール様はいったいどのようなスキルを持っているのか……。


 まさかに相当するスキルをお持ちなのではと思ってしまいます。


 スキルの星のランクは王国でも研究されています。

 生誕の儀式や成人の儀式で必ずスキルを得る事ができます。


 それ以外にスキルを得るには修練しかありません。

 代表的なのが剣術のスキルですね。


 剣の修練を一定以上収めた者が獲得することができるスキルです。


 星の数は一つ。

 効果は剣を扱うさいに動作補正がかかるといったモノです。


 ではこの補正とはどのようなモノなのでしょうか?


 検証には剣術スキルを持った者と剣術のスキルをまだ得ていない者を戦わせ、検証したことがあります。

 対象者はスキル保持者10人ともうそろそろスキルを得るであろう者10人を戦わせた結果、スキル保持者が勝ちました。


 力量の差はスキル保持者が優位なのは当たり前なのですが、実験では様々な環境で実践形式で戦ったとありました。

 およそスキル保持者が不利な状況がほとんどでしたが、それを跳ねのけました。


 実験の結果は研究者を悩ませました。

 1対1であれば不利な状況でも覆すほどスキルは有能だと証明されたのです。


 これだけが全てではありませんが、スキルを持っている者と持っていない者の間にはハッキリとした格差が存在してしまいます。


 星1のスキルでこれほどの格差が生まれてします。

 極少数が持つとされている星3のスキルを持っているとすれば多くの者に狙われるでしょう。


 先日のエルデール様が毒によって倒られた事件ですが、食べ物を調べてみると奥様やシャシャターナ様の食べ物にも毒が入っていました。


 毒の種類は即死性の高い猛毒でした。

 エルデール様は毒を飲まずにすぐに吐き出したのが良かったと、お医者様は言ってましたが、あの猛毒は含んだ瞬間に全身に広がるモノです。


 吐き出しても助かった理由にはなりえないと思うのです。


 他の原因で言えばやはりスキルですね。

 エルデール様はもしかしたら複数のスキルを所持してるのではないでしょうか?


 そう考えれたらエルデール様はさらに多くの者に狙われますね。

 何か対策を考えねば。


 護衛を増やしましょう。

 まずは私に勝てる程度の護衛が良いですね。


 そうそう。

 最近、エルデール様が私たちメイドを名前で呼んでくれるのです。

 とても嬉しく思います。


 私はエルデール様のお付きです。

 王様に腕を買われ、王城のメイドとして雇われた者。


 名をエルファス。

 昔、絶剣と呼ばれていたような、呼ばれていなかったような。


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