生まれて、知って、驚いた
俺が毒によって倒れたり、親父が法国と文書のやり取りをしていろいろあったけど、妹が生まれました。
母子ともに健康でなにより。
そして俺は戸惑った。
「エルデール? ほら、抱っこをせがまれてるわよ?」
「あ、えっと、うん。……両手に抱えて更に抱っこできないよ」
現状でも危険な持ち方をしている感じなのに更に抱えられないって。
「お腹にいる時から薄々分かってはいたんだけど、まさか三つ子だったなんてね~」
「いや、言ってよ。助産師さんもテンパってたよ?」
助産師さんの『何人出て来るんだー!!』を思い出すだけで笑いが止まらない。
アレは死ぬまで覚えてる自信があるね。
笑ってたのは俺とエルファスだけだったけどね。
エルファスってのは俺の面倒を良く見てくれるメイドさんだ。
最近は周囲の人と深くかかわろうと思って名前を覚えることにしている。
まぁ覚えられないからポピーに人物リストの作成をお願いした。
だって王城に勤務している人だけで百人はいるんだよ?
覚えられんって~。
「フフフ。面白いことは黙ってることが多いのよ」
「身に覚えがあり過ぎる」
確か生誕の儀式も妹の妊娠もシャシャターナ嬢が来るときも当日とか前日だったな。
お茶目な母さんだぜ。
「そろそろ剣の稽古の時間よ。頑張ってね」
「分かった。行って来るよ」
妹たちの頭を撫でて稽古場に行く。
「来たか」
親父が柔軟をして待っていた。
どうやら親父はこの時間が楽しみなのだそうだ。
息子と戯れる時間だとか。
そう思うと俺も楽しい。
「と、思っていた時期もありましたね!」
「腕を上げたな! まだまだ行くぞ!」
いやいや、親父。
あなた息子を殺そうとしてません?
4才児に本気を出してんだよ!
あ、先日4才になりました。
特に変わったことはありませんが、身長がもっと欲しいと切に願っています。
「魔力の制御が緩んでるぞ!」
「あっぶな!? 俺じゃなきゃ死んでるって!」
「人はあの程度では死なん!」
「いや、子供は死ぬんですよ!」
「はっはっは。面白いことを言うな!」
面白いこと言ったかな!?
くっそ。
全然攻撃が当たらない。
どんだけ強いんだよ!
確かポピーがお親父の強さをゲーム例えて説明してくれたな。
たしか、勇者未満英雄未満人類以上だとか。
意味わからん。
指数が知りたいのに標識を見せられた気分だ。
「そういえばお母さまが言ってましたよ!」
「……子供を抱きに来ないってだろう」
親父の攻撃が止まった。
「何故行かないのですか?」
「子供は苦手だ……」
イジケタ感じで呟いた。
「まぁ無理にとは言いませんが」
「……むぅ」
「そのうち後悔することになっても俺は知りませんからね?」
「どういうことだ?」
「妹が成長して結婚したら嫁に行ってしまいます。そうなってからでは遅いと言ってるんです」
「嫁には出さん!」
いやいや。
王様よ、その発言は問題があるぞ。
「反抗期に入ったら口も聞いてもらえないとか聞きますよ?」
「俺の娘に反抗期などあり得ない!」
「無ければいいですね」
そうなっても知らんよ?
俺は今からお兄ちゃんっ子にする計画を練っているのだから。
「……どうすれば良いのだ」
「え?」
「子供を抱っこするなどしたことがない」
「つまり抱っこの仕方が分からないから抱っこしなかったと?」
「……」
不器用な人だな、本当に。
「僕が教えても良いのですが、お母さまに聞いてください」
「あいつはイジワルだ。素直に教えてくれるかどうか……」
「嬉しさと照れの裏返しと言うやつですよ。多分」
「……あいつは昔からそんな感じだったぞ?」
そうなの?
昔のお母さまとか気になるな。
「冒険者だったと聞きましたが?」
「あぁ。初めて会ったときは男どもに襲われて……」
「お母さまがですか!?」
ヤバいじゃん!?
「あ、逆だったな」
「え?」
「男どもを襲っておった」
状況が理解できない。
「酒を奢る約束でついて来たのに約束が違うじゃないか、とな。金と金品を奪っていた」
「それをどうしたのですか?」
「見てられんのでな。助けてやったよ」
男どもを助けたのか。
漢気があるな。
「そしたら戦いを挑まれてな」
「お母さまにですか?」
「あぁ。何でもメンバーに穴が開いたから代わりを探しているって話で問答無用で斬りかかってきたな」
「やんちゃですね。当時のお母さまは」
「いや、今も変わらないぞ?」
え? ウソでしょ。
いきなり斬りかかるお母さまとか見たことないけど?
「け、結果はどうなったのですか?」
「ふむ。結果は……」
「ガルフォード!!」
聞き覚えのある女性の声がした。
聞き覚えがあるはずなのにその女性がそんな大声を出した記憶がないので、気になって振り向くと見覚えのある女性がいた。
「お母さま……」
「お前……」
お母さまは片手に剣を持ち、長い髪が顔を隠し表情が分からない。
けど怒っている雰囲気を発していた。
「ガルフォード……」
そう呟いた瞬間にお母さまの姿が消えた。
瞬間、突風が俺の横を抜けて金属音と打撃音が混じった爆音と衝撃で俺がぶっ飛んだ。
「エルデール様、大丈夫ですか?」
「エルファス!? え? 向こうに居なかったっけ?」
「こうなると思ったのですぐに動いていました」
なにこのメイド、優秀過ぎるんだけど!?
「それより何が!?」
俺をぶっ飛ばした方を見るとお母さまとお父さまが剣を交えていた。
「何を話していた、ガルフォード。内容によってはただでは済まさんぞ!!」
いつもの母さんじゃない。
目つきが鋭く、声も低い。
え? 同一人物なの!?
「奥様は狂化と呼ばれるスキルを保持しています」
「強化? え、でもあれて……。あ、狂化か」
マジギレしてるってこと!?
「おいおい。何を照れてるんだ」
「いや、照れてねーだろ」
素でツッコミ入れちまったよ。
「私との約束を忘れたのか」
「いや、覚えている。子供たちには過去の話をしないって奴だろう?」
「なら何故話しをしていた!!」
え? アレで照れてるの?
本気で言ってる?
周囲のメイドや執事も心配してる雰囲気を出してないけど、これって通常なの!?
「エルデール様が生まれる前は数日に1回はありましたね」
「俺の心境を察して説明してくれるのありがとう」
「いえいえ、メイドですから」
身のこなしが普通とは思えないけどね。
「今日の稽古は無理そうなで行きましょうか」
「そ、そうだね」
あれ以上、バーサーカー状態のお母さまを見てると俺の中のお母さま像が崩れてしまう。
これほど人は見かけによらないってのを実感したことはないね。
俺はその場を離れ、着替えてエルファスと共に王城を出た。
「本当に護衛なんて必要なのかね」
「必要です」
馬車での移動中メイドのエルファスと話す。
「詳細は知りませんが、エルデール様のスキルのランクは相当高いと推測します」
「黙秘します」
「しかも複数のスキルも所持してるとなると、護衛は必須です」
「え? スキルって複数持ってるが普通じゃないの?」
まぁ複数持ってることを認めてることになるけど、これは聞いておかないとね。
「違います。スキルの報告を黙認する前の申請する時代では複数所持は全体の半分です」
「でも半分はいるんだね」
なら珍しいって程でもなきね?
「星が1つや2つ程度のスキルならそうでしょうが、高ランクの星3となると話は変わります。申請する時代では星3のスキル保持者は全体の0.1%以下です」
「2つで?」
「1つで、です」
わ~お。
俺が星4を6つ持ってるってバレたらシャレにならんな。
しかも星3で高ランクなの?
爺さんやってんな、これ。
「護衛の必要性は理解できしたか?」
「まぁ理解はできたよ。……エルファスって口硬い方?」
「言うなとあれば決して言いません」
「う~ん。できればお母さまやお父さまにも言って欲しくは無いんだよね」
「言いません」
「そうか。なら良いか」
バレても問題は無い程度に教えておこうかな。
「僕のスキルには攻撃系のスキルってないんだよね。だから別に狙われるようなこともないと思うんだけど?」
「なるほど、そのように考えていらったのですね」
エルファスは姿勢を正し、ゴホンと咳をついて口を開いた。
「エルデール様の成長速度は異常です」
「そうなの!?」
「旦那様や奥様は少々甘い判定で若さなどと言っていましたが、今のエルデール様の実力は騎士団に入団できるレベルです」
「ごめん。それがどれだけ凄いが分からない」
騎士とか手合わせしたことないしね。
「なるほど。エルデール様は現在の剣術のスキルレベルはギリギリ4になっていない程度ですが、4才ではあり得ません」
「言ってもいないのにサラッとスキルレベルを当てないで欲しいんだけど、そうなんだね」
「えぇ。本来でしたら10才程度でスキルレベル2が天才と呼べる範囲です」
「天才で2か。たしかに俺の成長速度は異常か」
「はい」
明晰夢で鍛錬してるからそうなるのは当然か。
あの世界って結構便利で体力を消費しないで稽古できるし、時間も現実の2倍まで加速できるから現実世界で8時間の睡眠を取れば向こうで16時間の修練ができる。
まぁ休んだりしてるからぶっ通しでやってはいないけどね。
「これが広まればおそらく10才までには他国に伝わり、今のうちに潰そうと動き出されます」
「それまでに強くなれば問題は無いよね?」
「個の強さには限界があります。それに前回のような方法を取られ、防ぐことができなければ……」
なるほど。
エルファスなりの俺に対する思いやりなのか。
でもそうだな。
俺が全てを背負うのは違うか。
他人任せはダメだけど、頼れる仲間は必ず必要か。
「旦那様からお金は預かっていますのでこの金額内なら問題ないでしょうね」
そう言って出されたのは弁当箱のような豪華な箱だった。
そして中には金貨が入っていた。
「子供のお使いにしては高額過ぎないかな?」
「頑張って毟り取りました」
「お疲れ様」
「ありがとうございます」
何を言ったらこんな大金を得る事ができるのだろうか。
「では行きましょうか。奴隷店に」
さて、どんな人がいるのやら。
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