同じだな

 パパンが俺の部屋に来てくれた。

 結構ラフな格好で来たってことは急いで来てくれたってことだね。


「エルデール。本当に無事でよかった」

「ご心配おかけしました、お父さま」


 泣いて抱きしめてくれるパパン。

 ヤバい、俺も泣きそう。


「お話があります。お父さま」

「……んん。なんだ?」


 すぐに切り替える辺りやっぱり王様だね。


「このままでは法国と王国が引き裂かれます」

「……お前はどう考える」

「その前に毒を仕込ませた者と背後は分かったのですか?」

「……法国の者だ。背後関係はまだだが、法国の内部抗争が理由らしい」


 あら、犯人は法国だったのか。


「他国が背後にいる可能性は?」

「今のところはどうにも言えないが、仮にあったとしても王国は何も言えない」


 内部抗争に王国が口を出しても藪蛇か。


「なるほど。お父さまは今回の狙いは何だと思いますか?」

「法国と王国の関係にヒビを入れ、シャシャターナご息女を亡き者にするって所か?」

「そうですね。僕も話を聞いてそう思います」


 さて、本題に入ろうか。


「先ほどの質問に答えます。僕はこの問題を逆に利用しようと考えます」

「ほう? どのようにだ」


 まぁパパンなら思考した考えの一つだろう。


「シャシャお姉さまも被害者であり、敵は不明。王国と法国が手を取り敵を見つけて成敗するってのはどうでしょう?」

「まぁそうすれば2国の仲は保たれるだろうが、その後は疑心暗鬼になる可能性がある。それをどう見る?」

「これはシャシャお姉さま次第なのですが、僕の許嫁にしてもらえませんか?」


 政略結婚やね。


「……ふむ」

「シャシャお姉さまが法国いれば敵に狙われます。背後に王国がいることでもしもの時は王国で匿うこともできます」

「待てまて。話が飛び過ぎだ」


 おっと、焦っちゃった。

 許嫁とか自分で言っててドキドキしちゃうから思考がズレちゃった。


「つまりお前は法国内部にいる反派閥を王国派閥と王国で潰し、今回のことで息女を貰う魂胆だと言うのだな?」


 言い方に突っかかりを覚えるな。

 

「あくまで匿う口実作りですよ」

「分かってるが、そうなった場合本当に結婚することになるぞ」

「……めんどくさいことになりますかね?」

「ふむ」


 パパンは腕を組んで考え込む。


「……法国側が一方的に許嫁と言えはお前の考えに沿うな」

「ではお願いします」


 これで法国と王国の中は保たれた。


「お前は良いのか?」

「何がですか?」

「お前は殺されかけた。相手は脅しではなく本気で殺しに来たんだ」


 辛い表情をするパパン。

 あえて厳しい言葉を使っているんだな。


「はい」

「お前の対応はハッキリ言って甘い」

「分かっています」


 逃げようと思えば逃げ切れるしね。


「また狙われることがあれば今度は毒など間接的なモノではなくもっと直接的な刺客を送ることもあるかもしれん」

「そうですね」


 今回で分かったことは俺の命には価値があると言うことだ。

 全ての命は平等とかそんな話ではなく、利用するに値る。


「次は……死ぬかもしれんのだぞ」


 泣きそうな表情を浮かべて絞り出すようにして発した言葉は……とても重かった。


「お父さま。の命などどうでも良いのです」

「お前……」


 驚愕するパパン。

 いや、戸惑ってると言った方が正しのか?


「大事なのは俺の命で何が守れるのかです」

「……」

「もちろん命を粗末にはしませんし、僕は臆病な凡人なので何かを成せる者ではありません。こんな自分でも守りたいモノはたしかにあるんです」

「……覚悟はあるんだな」

「今にも折れそうですが」


 パパンがニカッと笑った。


「俺と同じだな」


 ヤバい。

 泣きそう。


「ぞ、ぞうでずね」

「気負わなくともよい。お前がを背負うには早すぎる。ゆっくりで良いのだ。自分のペースでな」

「はい」


 気がついたら泣いていた。


 やっぱりあれこれ考えて楽観視しても命とか重すぎる。

 前世でも一般人だったし戦争もない平和な日本に生まれて、生きて来たけど命の危険が常にあるとか考えられないよな。


 自分でも分かっていた。

 分不相応な生まれなのは。


 それでも爺さんが楽しめと言ってくれて、ママンやパパンやメイドたちがいた。

 俺を認めてくれて愛してくれたみんなを守りたい。


 だから剣を持って魔法を学んだ。

 明晰夢の中でも剣を振るった。


 頑張るしか俺には出来ないから。


 でも俺だけじゃなかった。

 パパンも、いや親父も同じだったんだ。


 そして親父が一緒に頑張ろうと言ってくれた。


 俺はこの世界をどこか画面越しで見ているようだった。

 どこかフワフワしているような、輪郭がボヤけているようなそんな感じがしていた。

 自分のことでもどこか他人事のように思えた。


 でも今。

 俺はこの世界に入ることができた。


 ここが現実なのだと感覚的に理解した。

 視界がクリアになって五感が鮮明になった。


 俺は守りたい。

 俺に愛をくれた人たちを。


 親父はその後、一言二言話して部屋を後にした。

 俺も何だか疲れて気がついたら寝ていた。


 早朝メイドに起こされ、母さんと会った。


 母さんは泣いて抱き着いて来たがメイドに取り押さえられた。

 お腹に響くとのことだ。


 なのでゆっくりと抱きしめてくれた。

 徐々に力が強くなって苦しくなったのも気のせいだろう。


 メイドが必死に助けてくれた。


 表情が明るくなったことで母さんは部屋を出た。

 朝食を食べるそうだ。


 食欲が出てよかった。


 母さんの後に部屋に訪れたのは親父だった。


 昨晩のことをまとめて文書にしたのを持って来てくれた。

 そして稽古を厳しくする宣言をして去って行った。


 俺には拒否権などなかった。


 最後にシャシャ姉さまが部屋に来てくれた。


 どうやら親父からこれからのことを聞いたらしい。

 その話の提案をしたのが俺だとも聞いたらしい。


 涙ながらに謝ったりお礼を言われたりと結構大変だった。

 最終的に許嫁の話は喜んで引き受けてくれるそうだ。


 まぁ最終的な判断は法国だからまだ分からないけどね。


 と、そんなこんな大変な数日だった





  【 異世界転生したけど俺が思ってたのと違う!!  序章『エルデール』完 】


――――――――――――


  【 異世界転生したけど俺が思ってたのと違う!!  次回 一章『成長』 】


 数話のSSをはさんでから一章を始めます。


《登場人物》序章終了時点


・エルデール  ベルクリンデ王国の長子。

・年齢 3才

・性別 男

・スキル

 【★★★★】健康体(四)

 【★★★★】回復力増加(六)

 【★★★★】魔力増加(四)

 【★★★★】明晰夢(五)

 【★★★★】体感覚延長(四)

 【★★★★】魔力増加(コピー)(四)

 【★】剣術(一)

 【★】毒耐性(三)



・ポピー     明晰夢内の人格

・年齢 半年

・性別 女

・スキル

  不明


・デルセイア    ベルクリンデ王国 妻

・年齢 28歳

・性別 女

・スキル

  不明


・ベルクリンデ国王  名前不明

・年齢 31歳

・性別 男

・スキル

  不明


・シャシャターナ  ピタングリンデ法国 6女

・年齢 7才

・性別 女

・スキル

  不明



 《作者から読者へ》

 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 とりあえず序章ですので世界感は少々抑え、エルデールとその周辺に絞って話を進めました。

 彼が努力する理由が明かされ、覚悟が決まりました。

 登場人物も少なく、展開としては少々退屈な場面もあったかと思いますが、1章は少々広く展開します。

 

 フォローやいいね、星やレビュー・コメントをしてくださると私がむせび泣きながら喜び、創作意欲が出ますので応援して下さる方はよろしくお願いします。


 キャラが多くなる予定ですので推しのキャラを伝えてもらえればSSを書きます。(たぶん……(*´▽`*))


 魅力的なキャラが出せればと思っています。


 

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