お菓子戦争

 シャシャネータンはどうやらピタングリンデ法国とベルクリンデ王国の和平の為に来たそうだ。

 子供を送ることで王国に対しての信頼を他国に知らしめると共に王国は法国の要人を安全に送り返すことで仲の良さと関係性を他国に分からせるってことらしい。


 法国と王国の関係性は対等な関係ではなく王国が法国の後ろ盾になっている関係である。

 やや王国優位の条例を結んでいるらしい。


 今回にしても法国側は子供を送り、王国が受け入れたのが関係性を現している。


 まぁ今の他国間の緊張状態は平和というよりも探り合ってる感じだから平和をアピールすることで緊張を上げずに行くって意味合いがあるそうだ。


 そんな難しい話を二人がしている。


 シャシャネータンって7才だよね?

 普通に頭良くね?

 天才って実在するんな~。


 俺は意味が分からないとあれこれ質問してるから凡人の域をやっぱり出ないね。

 一般人に王族の話は高度過ぎるな。


 でも面白くはある。


 王国と法国の背景が結構見えて来た。


 王国は他国にはない広大な平地があり、農作物や放牧をかなり広くやっているし側には魔物が住む森がる。

 魔物は一見すると厄介で農作物や放牧に被害を与えるが、魔物には希少な魔石や素材をもたらしてくれると共に冒険者たちの仕事にも貢献してくれている。


 国が管理しているダンジョンは各国で数あるが、側のシャンマリンデ帝国が一番多く管理している。

 ダンジョンの中で魔物を倒すと魔石は得られるのだが、素材は全く手に入らないらしい。

 消えてしまうとか。

 代わりにというかダンジョン産のアイテムが手に入るらしい。


 ダンジョンか。

 一度は行ってみたいな。


 法国には名前の由来になった聖法教会が在籍し、ギルドのように他国にも拠点や支部が数多くある。

 聖法教会は戦うギルドとは逆で癒すことを重視している。


 癒しの魔法を使う者を保護し、働くことができない者たちを集めて軽い仕事をさせて食事などを提供する。

 他国は癒す力を貸してもらう代わりに金品と拠点や支部の設置を許可している。

 もちろん癒しの魔法を施してもらうにはお金が必要である。


 そして法国は海に面しており、海産物を輸出している。

 そして塩も他国に輸出している。


 まぁ塩が取れないのは王国だけなんだけどね。

 他の国は海があったり岩塩が取れたりするらしい。


 こう考えると王国と法国の関係はやや王国不利だね。

 法国的には王国が他国の壁になってくれることを期待してるって感じだ。

 だから王国をヨイショして王国にやや有利な条約を結ばせる。


 報告が王国だけ安く塩を送ってるのは『もしもの時はよろしくね』ってことなんだろうね。


 これが法国と王国の関係性か。


「えっと……。エルデール様は今までのお話をご理解できたのでしょうか?」

「え? まぁ大体は。分からないことは質問してたから理解できたかな」

「本当に3才なのですか?」


 そんな恐ろしい者を見る目で見ないでよ。

 別にそんな驚くことでもないでしょ。


「フフフ。エルデールは本当に優秀ね。これが若さなのかしら」

「お母さま。僕はそれほど優秀ではありませんよ? 本当に優秀なのはシャシャお姉さまのような方です」

「い、いえ。そのようなことは無いと思いますが、ありがとうございます」


 あれ?

 褒めたのに疑わしい目で見られてしまった。


 何かしたかな?


「もうこんな時間ね。お昼にしましょうか」


 太陽の位置は真上ありかな?

 時間が分かりづらいのが面倒がところだ。


 長時間難しい話しをしたのでお腹が減った。


 昼食はいつもより豪華だった。

 やっぱり他国の要人が来るとなると食事がグレードアップするんだね。

 とても美味しいかったです。


 そしてデザートはシャシャネータンがお土産で持って来てくれた法国で有名なお菓子だった。

 黒くテカテカしていて甘い匂いと少し香ばしい香り……。


「チョコレート!?」


 ビックリまんまチョコレートだった。


「チョコレート? このお菓子の名前はシャンマーデと言うのですが、ご存知だったですか?」


 シャンマーデ?

 法国の名前のシャンマリンデから取って付けたのかな?


「いえ、失礼しました。似たモノを知っていたので」

「そうでしたか。お口に合えばよろしいのですが、どうぞ」


 我先に口に運ぶ。


「……?」


 え?

 金属の味がする。


「エルデール?」


 ママンが心配そうな顔をしている。

 いや、シャシャネータマも同じ顔をしている。


 長く咀嚼しているが、一向に喉に進まない。


「うぅ!?」


 少し飲み込んだ瞬間、食べた物が全部逆流して吐いてしまった。


「エルデール!?」

「坊ちゃま!?」

「エルデール様!?」


 普段は声を発しないメイドさえ声を荒げ、ママンやシャシャオータマは真っ青な表情を浮かべている。


 いや、マジで勿体ない。

 全部吐き出してしまった。


「も、申し訳ありません……うぅ!?」


 もう胃の中は空っぽなのに何が出るというのだろうか。

 胃酸しか出ねーぞ。


 そう思った矢先、口から大量の血を吐き出してしまった。


 あれ?

 この身体はチョコレートアレルギーだと思ったけど、アレルギー反応強すぎない?  


 てか眩暈が……。

 あれ?

 天井ってどっち?

 床ってどこ?


 視界が霞んで真っ暗に……。


「お休みなさいませ。マスター」

「あれ? 何があったの?」


 気がついたら明晰夢の中にいた。


「どうやら先ほどのチョコレートには毒が入っていたようですね」

「毒!?」


 え?

 あの金属の味みたいのが毒だったの?


「気分悪いわ~」


 気持ち悪い……。


「ですが、すぐに吐き出して正解でしたね。すぐに飲み込まなかったのも正しい判断だったかと」

「今ってどんな状況なの?」

「そうですね。……大慌てでマスターの容態を調べています」


 まぁでしょうね。

 いきなり吐血したら大慌てだわ。


「お母さまの取り乱し方が酷いですね。シャシャターナ様に魔法を放ちかねません」

「いや、交際問題」


 毒を仕込んだのも彼女ではないでしょ。


「メイドに取り押さえられています。お母さまが」

「メイドが冷静で良かったよ」


 俺の介抱に人員はいるのだろうか。


「毒は私の方でもどうにかしてみるつもりです」

「ポピーの優秀さには俺も付いていけないな」

「私の力などあまり必要はありませんけどね」

「どういうこと?」

「マスターには星4の健康体のスキルがありますので即死の毒でもまぁ問題は無いかと」


 たしか『病気になり難く、なっても重症化し難く、回復しやすい』って効果だったはずだ。

 これって毒とかにも効果があったんだね。


「なんか動く気にはなれないから魔力操作とかして過ごすよ」

「かしこまりました」


 そうして明晰夢時間で10日が経過した。


「長くない? さすがに長いよね。俺、死ぬんじゃないの?」

「……毒が抜けきらないようですね。容態は安定しています」


 容態は安定って。


「いつも間にか毒耐性があるからおかしいなって思ってたけど、ポピーなにかしてないよね?」


【★毒耐性】

・毒に対して抵抗力が増す。


「なにか、と申しますと……まぁ」

「やっぱり何かしてるじゃん!」

「毒など早々に口に出来ませんからね。この機会に耐性を得られれば幸いかと」

「いや、嬉しいけどね! でも一言声をかけようか! 報連相は重要だよ!?」

「怒られると思って……」


 そんなシュンとするなよ。

 怒り辛いじゃないか。


「はぁ……。分かった。怒らないからこれからは言うようにしてよ?」

「ちょろ……」

「あ”ぁ?」


 なんか言ったか?

 コイツ。


「おっと、失言でした。お忘れを」

「いや、忘れてとか無理だろ。ちょろって言ったよね?」

「いえ、気のせいです」

「気のせいか」


 何だ。

 気のせいか。


「フッ……」

「一回泣かしてやる!」

「かかって来なさい!」


 何故か木剣を互いに持って本気のバトルに発展した。

 まぁ互いに暇のだ。


 そうこうしているうちにようやく目が覚めることが出来た。


「深夜やないかい」


 目を覚ますと真っ暗な部屋。

 たしか光を灯す魔道具があったはず……。


「坊ちゃま!?」

「うわぁい!?」


 暗闇からいきなり声が聞こえてビックリした。


「驚かしてすいません。坊ちゃま、お身体に異常はありませんか?」

「大丈夫だよ。てか光付けて。どこに居るか分からないよ」

「今すぐに」


 フワッと明かりがついてメイドの顔をみることが出来た。


「坊ちゃま……よがっだ」


 メイドも俺の顔が見れて緊張の糸が切れたのか泣き出してしまった。


 仕方ないので頭をポンポンして慰めた。


「状況はどうなってるの?」

「は、はい」


 泣き止んだメイドは鼻をすすりながら答えた。


「現在、シャシャターナ様は屋敷にて軟禁状態です。そして法国に対し文書を送り、返信を待っている状態です」

「シャシャターナ様の様子は?」

「あまり元気はありません。食事などは召し上がっていますが、表情が優れません」


 まぁそうだろうな。

 自分が持ってきたお菓子で王国の長子を殺しかけたんだ。


 最悪は戦争。

 自分の命で手打ちに出来れば御の字って感じかな?


 嫌だいやだ。

 子供の首をもらっても罪悪感で寿命が縮むよ。


「お母さまは?」

「食事も喉を通らない日々も多く、このままではお腹の子にも影響が出かねません」


 ママンの取り乱し方は酷いって言ってたしな。

 かなり精神的にも参ってるのだろう。


「お父さま。というかお父さまの対応は?」

「現状、エルデール様の容態次第では厳しい決断をせざるを得ないかと」

「ふむ」


 俺がもし死んだ場合にはおそらく抗議文だけでなく、死人の伴う小競り合いが起こるだろう。

 そしてそれを止めるには娘を差し出すのが早いと法国が決めればシャシャネータンの命はないだろう。


 そうなれば法国と王国の間に亀裂が入り、他国に付け入るスキを作ってしまう結果になる。

 王国は塩を法国に依存しているから止められると他の国から買わざるを得ない。


 他国はこれ幸いと高額を吹っかけてくるだろう。

 いや、最初は法国と同じ金額かそれ以下で売って依存させてから値段を徐々に上げていくかもしれない。


 そうなれば各国間のパワーバランスが崩れる。


 う~ん。


「エルデール様、私はどうすれば」

「まずはお父さまに合えるか聞いてもらえるかな?」

「すぐに」


 深夜だけど仕方ないね。


 あ~めんどくさい。

 

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