ギフト

 目を覚ますとそこはベットだった。

 ママンが俺を運んでくれたらしい。


「坊ちゃま。お食事はいかがなさいますか?」


 メイドが俺に聞いて来た。


「ごはんは……」


 そこまで言うとお腹がクゥ~と音がなった。


「では行きましょうか」


 クスクスと微笑むメイドさん。


 いや、これは……。

 うん。

 お腹減ったわ。


「あら坊や」


 部屋を出るとママンとちょうど会った。


「ママ!」


 走ってママンに突撃!

 まだ甘えたいざかりなのだ。


「あ」


 だが、俺は止まった。


「あらどうしたの?」


 爺さんが言っていた妹が生まれるって言ってたよな?

 なら母さんに無理をさせてはいけないと思う。


「妹が生まれるのですか?」

「え!? どうしてそれを?」


 メイドも『本当なのですか!?』と驚いてるってことは誰も知らなかったのか。


「ゆ、夢を見ました! 妹と遊ぶ夢を!」

「まぁ! ギフトの恩恵かしら?」


 微笑むママン。


「あ、えっと。言えません!」


 便利だなこれ。


「あらそうなの? 残念ね」


 フフフと微笑むママン。

 微笑ましいのだろう。


「あ、名前は分かりましたよ!」

「あら、何てお名前だったのかしら?」

「僕の名前はエルデールです!」

「まぁ良い名前ね。エルデール」


 そう言って頭を撫でてくれるママン。


 相変わらず若々しいママン。

 推せる。


「でも娘のことがバレるとは思わなかったわ」

「兄として妹は任せてください!」

「あら、生まれてもいないのにもうお兄ちゃんなの? でもお願いね」

「はい!」


 こんな会話をしながらご飯を食べる部屋に到着した。


 ドラマとかアニメで見た長テーブルがあり、そこに座って食事をする。

 やっぱり偉い人だとこんな感じに食事するんだね。


「エルデール。何かギフトで質問はない? 何でも答えるわよ」

「質問ですか?」

「えぇ」


 ニッコニッコにママン。

 俺のスキルが気になるよだな。


 子供だから疑問に思うしそれを聞けばどんなスキルを持つか大体分かるか。


「えっと、ギフトは儀式でしか得られないのですか?」

「あら意外な質問ね」


 もっと直接的な質問を予想していたんだろうが甘いぜママン。


「一つ目が成人の儀式でもらえるわ。そして2つ目が訓練などをして得られることもあるのよ。3つ目が多きな偉業や行いをすると得られたりするって聞いたことがあるけど、これは噂の域を出ないわね」

「なるほど」


 つまり、確実に得られるのが生誕の儀と成人の儀の2つで後は修行か。


「魔力とは何ですか?」

「フフフ。魔力って言うのは魔法などを使うさいに必要になるエネルギーよ」

「魔法って何ですか?」

「あら? 魔法っていうのは炎・水・風・土などの自然を使うことができるのよ」

「人には魔力があるのですか?」

「そうよ。人に限らずこの世界のすべてに魔力が宿っているわ」


 凄いなママン。

 淀みなくスラスラ話せるなんて。


「魔力を使ったら無くなっちゃわないですか?」

「無くなるけど休めば回復するわ」

「限界まで使うとどうなるんですか?」

「最悪は気を失うわね」

「怖いですね」

「でも限界まで魔力を使って回復するのを繰り返すと魔力が増えるそうよ」

「魔力が増えると魔法がたくさん使えるのですか?」

「そうね。でも魔力が多ければ大きな魔法も使えるわ」

「おぉ!」


 なるほど、限界まで使わんといかんのか。


「ありがとございます。また質問しても良いですか?」

「良いわよ、エルデール」


 ちょうどご飯も来たし、食べてママンと遊ぼう。


 食事もそこそこになった時、ママンが真剣な表情を浮かべた。


「エルデール。あなたは生誕の儀を行いました。つまり王国の長男としての自覚を持つ必要があります」

「ママ?」

「私のことはお母さまと呼びなさい」

「お母さま……」


 何だろう。

 急に距離を感じる。


 ママンが遠くに行ってしまう。

 そんな気がする。


 これが母離れかな。


「これからはちゃんと自分で起きて自分で身支度しなさい」

「はい」


 これは良いね。

 今まで着せ替え人形みたいだったし。


「そして明日からお勉強を始めます。しっかり勉学に励むんですよ」

「はい」


 お?

 マジでか。


 暇だったからむしろ喜んで!


「身体を動かすことも始めます。剣と魔法の稽古です」

「剣ですか?」

「そうです。他にも数多くの習い事をやってもらいます」


 まぁ王族だしね。

 ピアノとかダンスとか礼儀作法とかあるんだろうな~。


 面白そうだから良いけど。


「私と遊ぶ時間はあなたの努力次第です。頑張りなさい」

「頑張ります。お母さま」


 ママンが部屋を出て行ってしまった。


 え?

 そんな辛い勉強なの?!


 怖いんだけど!


 そんなこんなで翌日。


「勉強を始めるわよ」


 俺の部屋にやってきたのはまさかのママンだった。


「最初にこの国の法、地理、歴史などを教えます」

「はい」

「次に算術と化学を教えます」

「はい」

「午後は外に出て剣術と魔法の練習をします」

「はい」

「質問は?」

「剣術と魔法の練習の先生は誰ですか?」

「私です」


 マジかよ、ママン。

 ハイスペック過ぎん?


「他に質問は?」

「ありません」

「では始めますよ」

「はい」


 ママンの勤勉キャラは何なんだろう?

 まぁ可愛いから良いか。


 この国の法はまさに王様に有利なモノばかりだった。

 対等そうな法も裏があり、絶対に王族・貴族の地位は揺るがないような法の数々。


 でも地位を守るには過剰な法だが一方で市民に対して必要以上の要求はしてはいけないようだった。

 市民が王族に立ち向かうのはダメだが市民が市民として自由に暮らす権利は最低限守られているように思えた。


 市民が王族に助けを乞えば王族は動くこともあるそうだ。

 まぁ一国を動かすとなると相応な事態でもなければ動けないらしいけど。


 地理では俺の住む国がベルクリンデ王国。


 国の側には秘境の大森林。

 国の西側にはルデルリンデ共和国。

 国の側にはピタングリンデ法国。

 国の側にはシャンマリンデ帝国。


 が、ある。


 歴史は……。

 王国の自慢話だらけだった。


 失敗談とかは全くない。

 いついつに攻めて勝ったとか防衛に成功したとか。


 とてもつまらなかった。


 これで前半の勉強は終了だ。

 あとは数学と化学か。


「少し休憩しましょうか」

「そうですね」


 メイドにお菓子を持って来てもらいティータイムだ。


「何か分からないことはあったかしら?」

「いえ、分かりやすかったです」

「なら良いのだけど……」


 質問が無いのも逆に困るか。


「秘境の大森林には何かあるのですか?」

「えぇ魔物がいるわ」

「魔物!?」


 やっぱりいるんだね。


「国にはそれぞれ管理しているダンジョンがあるんだけど、大森林には管理もされていないダンジョンがたくさんあると思われるの」

「なぜ分かるのですか?」

「ダンジョンからしか魔物は生まれないからよ」


 そんな法則があるのか。


「魔物は強いのですか?」

「うーん。私は人の中で強い方に入るから大体の魔物には勝てるとは思うけど、やっぱり上には上がいるわね」

「お母さまはお強いのですね」


 さすがはハイスペックなママンだぜ。


「エルデールは冒険者って知ってるわよね?」

「はい。お母さまが以前に読んでくれは物語で主人公たちの職業ですよね?」

「えぇ。私も冒険者だったのよ?」

「えぇ!?」


 ママンって冒険者だったの!?


「懐かしいわね。あの頃はパーティーを組んでダンジョンに入って楽しかったわ」

「パーティーですか?」

「えぇ。目的を同じとする者たちで集まった仲間のことよ」

「もしかしてお父さんもパーティーにいたのですか?」

「そうね。いたわよ」


 マジよ。

 パパンって主人公してたんだな〜。


 あれ?

 パパンを見たことがないな。


「お母さま。お父様を僕は知りません。もしかして死んでしまったのですか?」

「え? フフフ。アハハハ!」


 大爆笑してる。

 この反応ってことは生きてはいるのか。


「お父さんはあなたとどう接して良いか分からないのよ。あなたが生まれた時に抱くよう言ったのだけど、『俺が触れると怪我をさせてしまう』って言って抱かなかったわ」


 お母さまは『本当におバカよね~』と辛らつなことを言う。


「お父様に合うのはダメですか?」

「まぁ! そうね。夕方にでも行ってみましょうか」


 待ってろよ! パパン!


「ゴホン。では勉強を始めます」

「はい!」


 勤勉モードのママンに突入。

 推せる。


 数学と化学は地球の上を行くことはなかったな。

 まぁ化学だけは地球にはない魔力があるけど地球とあまり変わっていたりしない。大まかな物理法則は地球同様だ。


 ただ魔力が問題だ。

 水はH2Oなのは学校で習うが、この世界の水もおそらくは同様にH2Oなのだと思う。

 けど魔力があるせいで変に混乱させてる節がある。

 魔力があり魔法があるこの世界では水は魔力の塊だと一部の科学者たちが言っているそうだ。

 確かに魔力は水になったり土になったりと万能なヘンテコなモノなのだが、その性質は不可逆的なモノなのではないだろうか?


 つまり魔力は水になるけど、水は魔力に変換されない。


 いや、でもすべての物に魔力が宿るとママンが言っていたし、どうなのだろう?

 夏休みの自由研究のテーマにでもしてみるか。


 まぁこんな感じで午前中の勉強が終了した。


 お昼ご飯を食べ、お昼寝をして午後の勉強だ。


「それじゃ身体を動かすわよ」


 珍しいことにママンがドレスではなくて動きやすい服装をしている。

 ズボンだ。


 俺も汚れても良いような服を着ている。

 いつもの着飾ってる服とは比べ物にならないくらい楽だ。


「それじゃ走るわよ」

「はい!」


 俺はママンの後を一生懸命に追う。

 ママンはキレイなフォームで一定のリズムで走っている。


 息も切らさず、後ろの俺をチラチラと確認してスピードを調整してくれている。

 流石だわママン。


 本当に軽いスピードで10分程度走る。

 そして柔軟をする。


 ママンの身体は柔らかかった。

 いや、柔軟性が高いって言った方が良いか。


 身体が柔らかいって何だか卑猥に聞こえるし。


 俺は年相応に硬かった。

 念入りにママンが柔軟させてくれた。


 そして木剣を渡された。


「よく見てるのよ?」

「はい!」


 ママンは木剣を右に左に上に下に振り回した。

 綺麗な軌道を描きながらヒュンヒュン音を立てる。


「ふぅ。ちゃんと見てた?」

「はい!」

「それじゃ、やってみましょう」

「えぇ!?」


 俺がやるの!?


「何を驚いてるの? 身体の使い方を教えるから真剣にやるのよ?」

「は、はい」


 3才児にあの動きは出来ないと思うんだが?


 以外にもママンはスパルタだった。


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