生誕の儀式

 生まれて半年が経過した。


 未だに首が座っていない。

 暇だぜ。


 この半年で分かったことは俺の家族は富裕層だということだ。

 何故かというとメイドがたくさんいるし、家がデカい。


 宮殿とか屋敷とかそんな感じがする。

 お散歩で庭に出た時には綺麗な庭と手入れされた木々を見ることができた。


 庭師までいるとは流石に引いた。


 そんな感じの半年である。

 身体を動かそうにもプニプニな手足ではジタバタするしかできないし、部屋にはメイドが常時張り付いてるからおかしなこともできない。


 まぁする気もないけどね。


 体力もあまりないのですぐに眠くなる。

 本当に赤ん坊とは無力なものだ。


 暇つぶしもあると言えばある。


「*******」

「*******」


 未だにこの世界の言葉である。

 そのうち理解できるかな?


 そんなことを考えているとドアが開いた。

 現れたのはママンだった。


「********」


 俺に向けて笑顔を向けてくれるママン。

 手足をバタつかせて抱っこをせがむ。


「*****」


 なんか『しょうがない子ね』的な感じに聞こえたな。


 ママンは俺を抱き、満面の笑みでゆすってくれた。


「*******」


 ドアからもう一人現れた。

 男だ。


「******」

「******」

「******」

「******」


 会話が早すぎてまったく理解できない。

 ママンが男に怒られてる?


「******」


 ママンが男に俺を渡す。


「******」


 男はそれを拒否して部屋を後にした。


 何だあの男。

 俺、あいつ嫌いだな~。


 高圧的と言うか心に余裕がないというか。

 俺のママンを悲しませんな!


 大丈夫だぜ! ママン!

 俺が居るぜ! ママン!

 笑顔を頼むぜ! ママン!


「********」


 ママンは泣きながら俺を強く抱きしてた。

 まったく意味は理解できないが、何もできない自分に少し腹立った。


 あの男との会話とか関係性とかまったく知らないけど、俺のママンを泣かすなや!


 よしよし。

 大丈夫だぞ、ママン。


 俺はぎこちなくではあるが、ママンの頭を撫でた。


「******」


 おい、どういうことだ!

 余計に泣いてしまったぞ!


 俺も泣くぞ!

 ウエ~ン。


 まぁ泣かないけどね。


 さて、どうしたものか。


――――――――


 3歳になりました。


 子供成長って早いって言うだろう?

 行間が空けば数年は経過するモノなのだよ。


 時代に取り残されてはいけないよ。


「本日は生誕の儀式に出てもらうわよ」


 そう言うのはママン。

 言葉を覚えることができました。


「わかった~」


 俺はまだうまく呂律が回らないのでどうも舌ったらずになってしまう。


 生誕の儀式。

 生まれて3年が経過した子供は教会へ行き、儀式に参加することになる。


 そして世界から名を与えられ、ギフトを送られる。


 ギフトとはスキルのことで様々な恩恵を与えてくれる代物である。


 これはママンが言っていたことだ。


 っていうかそういえば俺って名前無いんだね。

 メイドは『坊ちゃん』って呼ばれるし、ママンは『坊や』って呼んでたからな。


 どんな名前になるのだろう?


 そして儀式会場へ向かい、服に着られながらもテコテコとママンについて行く。


「これはこれは。お初にお目にかかります。私は教会で働く大神官のデムと申します」

「わざわざありがとうございます」

「いえいえ、これもお役目ですから」


 大神官?

 偉い人じゃね。


「では始めましょう」


 雑談もそこそこに儀式を始めるそうだ。


 ママンは俺と大神官の傍を離れ、片膝を地面に付けてお祈りを始めた。


「では君はあのイスに座ってください」

「はい」


 部屋の最奥に祭壇があり、中央にはチンチクリンな文様が書かれていた。

 そして文様の中心にイスがあった。


 俺、生贄とかにされるのかな?


 とか思ったけど、素直に従った。


 大司教は祭壇へ、僕はイスに座った。


 大司教は長い挨拶をして儀式が始まった。


 地面の文様が青く輝き始めた。

 そして天井からフワフワと黄色い光の粒が降ってくる。


 とても幻想的な光景で鳥肌がした。

 地面の光と天井から落ちる光が交わり、光の帯が形成された。


 まるでオーロラのような光の帯は部屋全体を覆いつくした。

 オーロラはユラユラと揺れ、光のコントラストをコロコロと変えた。


 近くの光に触れると微かに温かい。

 けど、霧を掴もうとしたように霧散してしまった。


 そして光はゆっくりと俺に近づき、俺の身体に入ってきた。


 ……あぁ。

 温泉に入ってるような心地よさだ。


「終わりました」


 呆けた顔をしていた俺にそう言う大神官。

 おっと人に見せられない顔をしていたな。


「これであなたは世界に認められ、世界の恩恵を受けられます」

「ありがとうございます」


 背後からママンがお礼を言った。


 ママンいつの間に俺の背後に居たんだい?

 殺気がなくて気が付かなかったぜ。


「では私はこれで」

「はい。ほら坊やもお礼を言いなさい」

「ありがとうございました」

「どういたしまして」


 大神官は部屋を後にした。


「坊や。これであなたは世界に認められたわ」

「はい」

「まず、世界に認められるとステータスが見れるわ」


 おぉ!

 ステータス!


「そしてギフトを神様からもらえるの」

「ギフト?」


 スキルだっけか?


「神様からの贈り物だからギフトよ。スキルと命名されてはいるけどね」


 そういえば爺さんから6個のスキルもらったわ。

 忘れてた。


「そしてスキルは誰にも言ってはダメなのよ?」

「ママにも?」

「ママにもよ」


 マジで?


「世界には悪い人がいるの。その人たちに知られちゃうと坊やが怖い目に合うかもしれないのよ?」

「それはイヤだな~」

「そうね。だから誰にも言っちゃダメなの。分かった?」

「わかった!」


 了解だぜ! ママン。


「自分のステータスは『ステータス表示』って言えば見れるわ。でもそれは一人になって確認するの。周囲の人にも見えてしまうから」

「はい!」


 ママンは俺の頭を優しく撫でる。


「ステータスに名前が載っているわ。それがあなたの名前。後で教えてね」

「分かり……ました……」


 あ、やばい。

 眠い。


「ふふふ。お昼寝の時間ね」

「ねむ……い」

「寝ちゃって良いわよ。ベットに連れて行ってあげるから」

「は……い」


 この身体の活動時間は短いな。

 まぁ子供だしね。


《スキル【明晰夢】を使用になりますか?》


 不意に頭に響く声。

 え? 何これ。


 あ、爺さんからもらったスキルにこんなのがあったっけ。


《スキル【明晰夢】を使用になりますか?》


 あ、使います。


《スキル【明晰夢】を発動します》


 明晰夢って自分で夢を操るヤツだっけ?

 面白いスキルだな~。


「元気にしておるかい?」


 そして気が付くと白い空間にいた。


「爺さん! 何でここに? あ、俺が作ったのか?」

「いや、ワシがお主のスキルに介入したのじゃ。あっちの世界でワシは手出しできんかなのう」

「そうだったのか」


 びっくりした。


「それにしても王国の長男に転生するとは運が良いのか悪いのか」

「あぁ~やっぱり偉い家に転生したんですね。薄々は分かっていたんですけどね」

「楽しむことじゃ」

「はい!」


 いや~王国の長男か。

 将来は王様かな?

 いや、柄じゃないな。


「ワシが来たのはお主に助言を言う為じゃ」

「助言?」

「うむ。まぁ神官にも伝えるのついでにお主にも伝えようと思っての」


 あの大神官かな?


「お主に妹ができるじゃろう」

「妹ですか」

「うむ。お主の妹は類稀なる才を有するのじゃ」

「俺のどうしろと?」

「いや、気を悪くしないでくれ。どうもせんよ」

「え?」

「その妹をどうするかはお主が決めればよい」

「つまり才能豊かな妹を突き放すのも愛でても構わないと」

「そうじゃ」


 なら大切に育てよう。

 家族だしね。


「うむ。ではさらばだ」

「ありがとうございます」


 爺さんは煙の如く消えてしまった。


「あぁそうか。明晰夢の中だから俺はこのままなのか」


 明晰夢って何ができるんだ?

 色々試してみるか。


「ステータス表示」


 眼前にスタータスボードが表示された。


【ステータス】

名前:《空白》

スキル

・【★★★★】健康体(四)

・【★★★★】回復力増加(六)

・【★★★★】魔力増加(四)

・【★★★★】明晰夢(四)

・【★★★★】体感覚延長(四)

・【★★★★】スキルコピー(四)


 あぁやっぱりスキルはこれだったか。

 今まではスキルの恩恵を受けてなかったのかな?


 分からないか。


「名前がない」


 空白だった。

 試しに空白の部分的をタップしてみた。


《名前を決めてください》


 おぉ!

 自分で決められるのか。


 何にしようかな?

 前世の名前とかこの世界だと浮くしな。

 覚えてないけど。


 そうだ!

 この前、ママンに読んでもらったおとぎ話の主人公のサポートキャラの名前をもじろう。


 主人公の名前とか恥ずかしいしね。

 それに主人公のサポートキャラは推せるほどのキャラなのだ。


 何で主人公と同じ性別なのだろう?

 女性にしたら間違いなくヒロインポジなのに。


「エルデール」


 これにしよう!


《名前が決まりました》


 これで良し。


 名前がタップできるってことはスキルもタップすることができるのでは?

 と、試してみると軽い説明が出てきた。


【健康体】(Lv 四)

 ・病気になり難く、なっても重症化し難く、回復しやすい。


【回復力増加】(Lv 六)

 ・全ての回復力が増加する。


【魔力増加】(Lv四)

 ・魔力の上昇が発生したさいに+の補正がかかる。


【明晰夢】(Lv四)

 ・睡眠をしたさいに自分の意思で夢を構成することが出来る。


【体感覚延長】(Lv四)

 ・一秒を数秒に引き延ばす。


【スキルコピー】(Lv四)

 ・自身のスキルをどれでもコピーして使用することが出来る。


 いや~大当たりのスキルだったわ。

 流石は星4のスキルたちだわ。


 色々試してみた結果、健康体と回復力増加と魔力増加は常時発動型パッシブで明晰夢と体感覚延長は任意発動型アクティブスキルだった。


 この世界は何もないから体感覚延長を使っても意味はなかったけど、発動はしたと思う。


 現実世界でやってみよう。


 そして扱いに困ったのがスキルコピーだ。

 自分のスキルをコピーできるって代物だけど、一度コピーしたら終わりだったりするのかな?


《どのスキルをコピーしますか?》


 一度しか使えないならどれが良いだろう?

 俺に攻撃的なスキルは所持していないからそれをコピーすることはできないしな~。


「これにしようか」


《魔力増加に変更されました》


 一番に思ったのは回復力増加だけど、遠い目で見ればこれが良いのではないかと思った。

 魔力があればできることが増えるはずだ。


 そしてこれが俺のステータスとなった。


【ステータス】

名前:エルデール・ルーファス・ベルクリンデ

スキル

・【★★★★】健康体(四)

・【★★★★】回復力増加(六)

・【★★★★】魔力増加(四)

・【★★★★】明晰夢(四)

・【★★★★】体感覚延長(四)

・【★★★★】魔力増加(コピー)(四)


 てか今何時だ?


《13:23》


 おぉ!

 時間が表示された。


 俺っていつ寝たのか知らないんだけど。


 俺が寝てからどのくらい経ったか分かる?


《00:23》


 そこまで時間が経ってないな。

 時間経過は現実と同じなのかな?


 明晰夢でできることは自分で模索しないとな。


 起きるにはどうすれば良いんだろう?


《起床されますか?》


 あ、こんな感じなのね。


「まだいいや」


 表示が消えた。


 てか今俺って寝てるんだよな?

 回復してんのかな?


 夢の中で寝たら起きられなくなるって言うけど本当なのかな?

 ここで寝れるのか?


《睡眠に切り替えますか?》


 ほうほう。

 明晰夢から普通の睡眠に切り替えは可能っと。


 これは可能だろうか?


「明晰夢を発動したまま寝ることは可能か?」

《可能です》


 おぉ!

 返答があった。


「現実時間よりこの空間の時間を遅くすることは可能か?」

《可能です》

「どのぐらいだ?」

《現実世界の1秒を最大で5秒にできます》


 おお!!

 凄いぞ!!


 ……ん?

 遅くって言ったよね、俺。


「その場合、この世界で1時間を過ごすと現実だとどのくらいの時間が経過するんだ?」

《5時間です》


 いや、逆だよ!

 あっぶね!


「この世界の時間を加速させる倍率はどのぐらいだ?」

《2倍です》


 遅くするのは5倍なのに対し、加速は2倍が限界か。


「とりあえず2倍にしてくれるか?」

《かしこまりました》


 ……?


「早くなった?」

《なりました》


 あ、こっちじゃ分かんないのか。


「暇だな~。何しような」

《マスター。お暇でしたら私の身体を作ってはいただけませんか?》


 いや、意思あるんかい!


「君ってそういえば何なの?」

《マスターがお創りなった人格です》

「え? 俺が作ったの!?」

《はい》


 なんてこった、パンテコッタ。

 3歳にして娘を創ってしまった。


《なにを言っているが意味が分かりませんが、とりあえず肯定しておきます。さすがはマスターです》

「ナチュラルに思考を読んでるよね」

《私なので》

「そうですか」


 そういうってことにしておこうか。


「身体に希望はある?」

《マスターの想像した身体に文句はありません》

「了解!」


 頭の中でロボット姿を思浮かべる。

 ん~こんな感じかな?


 ペッ〇ー君とドラ〇もんを合わせたフォルムを思い浮かべた。


 すると目の前にモヤが集まり、メイド姿の可愛い女の子が現れた。


「マスター。お身体ありがとうございます」

「俺のイメージ全無視じゃねーか!」

「文句はありませんでしたが、私にも希望がありましたので」

「つまり文句ありまくりで自分で身体を作ったってことね」

「そうとも言えます」


 何なのこの


「明晰夢ってこんなことできるんだね」

「固定概念はいけません、マスター。夢は無限に等しいのです」

「壮大過ぎてついていけないよ」


 まさか夢の中に娘を住まわせることになるとは。


「安心してください、マスター! マスターが女性を創造した時には私がその女性の中に入って完璧に演じて見せますのでどんな如何わしい事でも対応可能です!」

「何をどう思ってそんなことを言ってるのか理解できないけど、とりあえずそんなことはしないとだけ言っておこうかな!」


 なんなのこの

 

 

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