英雄のすゝめ

イナロ

異世界……転生?

 目が覚めるとそこは地平線まで真っ白な空間だった。


「なんだ? ここ……」


 周囲を見渡すが、なにもない。


「*****君じゃな?」


 不意に自分の名前が呼ばれた気がしたので反射的にそちらを振り向くと白髭の爺さんが立っていた。


「えっと。こんにちは」

「こんにちは。*****君」


 俺の名前と思われる個所が聞き取れない。

 音が無くなって聞くことができないし、爺さんの口も止まってるようだ。


 そういえば自分の名前を思い出せない。

 俺? 私?は誰だっけ?

 どこでなにをしていたのだろうか?


「ここは死後の世界じゃ。生前の記憶は曖昧じゃろうな」

「どうしてそんな場所に私は要るのでしょう?」

「そなたは死んでしまったのだよ。そしてこれから2つの道を選ばなければならない」

「死んだ? 選択?」

「うむ。普通ならあの世に行くじゃが、君の最期はあまりにも報われないモノじゃった。そんなわけで選択を与えることにしたのだ」


 そう言えば俺って電車に跳ねられたんだった。


 自分から身を投げたのだったっけ?

 空が青くて太陽の日差しがギラギラと照ってたのを思い出した。


 会社? 学校?

 行かないといけない場所に向かってる最中に……押された?


「うっ……」


 やべ、気持ち悪い。


「死の記憶はやはり強いな。少し待て」


 爺さんは持ってる杖を俺に向けてなにかを唱えると杖が灯った。

 灯った光はとても優しい色味をしていてほんのり温かみも感じることができる。


 その光が俺を包み、心の中の恐怖を和らげてくれた。


「これで幾分か楽になったじゃろ」

「あ、本当だ。ありがとうございます」

「うむ。それで選択なのだが、異世界へ行ってみんか?」

「行きます!」

「うむ。お主ならそう言うと思っておったよ」


 異世界? マジで?

 ヒャホウ~!


「では、これを投げんさい」

「はい。え? サイコロ?」


 手に渡されたのはサイコロ。

 しかも六面すべてが無地だった。


「それは変わったサイコロでな。つまりこのサイコロがお主じゃ」


 えっと?


「投げることで六面すべてに何かしらのスキルが書き込まれる。それがそのままお主のスキルとなる」

「おぉ~」

「気合を込めて投げるのじゃ!」

「はい!」


 爺さん分かってるな~。

 こういうのを待っていた!


「チートよ来い! せ~らら~い!!」


 前の人生と後の人生すべてを賭けたダイスロール!

 運命や如何に!


「ふむ。おぉ……何ということだ。確認してみんさい」

「えっと~」


 1、快便。

 2、次の日の天気が分かる。

 3、相手の喜怒哀楽がビミョ~に分かる。

 4、卵をキレイに割れる。

 5、水きり(石で水面を跳ねるヤツ)が上手になる。

 6、快便。


「クソじゃねーか!」


 一個もまともなのないじゃん!


 こんなゴミスキルあるってことは滅茶苦茶たくさんあるんだろ?

 何で快便が重なってんだよ!


 来世の俺はどんだけ快便したいんだよ!

 快便過ぎてもはやお腹を下してんじゃね!?


 さっき爺さんが微妙そうな顔をした理由が分かったよ。


「えっと。振り直しって駄目ですよね……」

「本来はダメなんじゃが……。う~む」


 ガチで悩んでる。


「よし、このさいじゃ来世では楽しく過ごして欲しいからの。星1~2のスキルを排除して

星3~5のスキルのみが出るようにしてもう一度挑戦じゃ!」

「はい!」


 今度はそっと投げてみた。


「ふむ。……極端じゃのう」

「えっと……」

「ほれ、見てみんさい


 1、【★★★★】健康体(四)

 2、【★★★★】回復力増加(六)

 3、【★★★★】魔力増加(四)

 4、【★★★★】明晰夢(四)

 5、【★★★★】体感覚延長(四)

 6、【★★★★】スキルコピー(四)


 おぉ!

 さっきに比べたらまったく違う!


 スキルっぽい!


「でも星3が無いのは良いけど、星5もないか」

「いやいや、十分だとおもうぞ。星5は規模はデカいのだが、扱いにくく厄介なのじゃ」

「なるほど。生活するうえではこのくらいが丁度いい感じなんですね?」

「うむ。まぁ丁度よいと言うには些かランクは高いのじゃか気にしたら負けじゃ」


 異世界か~。

 どんな感じなんだろうな~。


「ではさらばじゃ」

「ありがとうございました!」

「うむ。達者でな」


 ジイさんがそう言うと意識が徐々に薄れ、眠るように意識が沈んでいくのだった。



――――――


 あれ?

 ここどこ?


 爺さんが達者でなって言って……それから。


 何か狭いな。

 出たい。


 そう思って身体を動かすと不意に明るくなった。


 急な光で目をすぼめ、光に馴れて周囲を見渡すと巨人が俺を抱えているではないか!

 きょっ巨人だ!


 まさか俺を食べる気か!?


「*******!!」

「*******」

「*******」


 数人が何かを喋ってるけど何を話してるか全く分からない。


 とにかく逃げないと!

 じたばたと動くがまったく身体が思い通りに動かん!


 そんな中、俺は水の中に入れられてタオルで拭かれて女性に抱かれた。


 ……あれ?

 俺が縮んだんじゃね?


 子供になっちゃたんじゃね?


 赤ちゃんになっちゃったんじゃね!?


 え?

 もしかして一生懸命笑顔を向けているあなたが俺のママン!?


 若くね!?

 てか日本人じゃない!


 あぁそうか。

 異世界に来たんだった。


 おぉまさかの転生だったか。

 転移だとばっかり思ってたよ。


「********」


 ママンが俺に話しかけてくれている。

 まったく意味は理解できないが、心配そうな表情をしているから笑顔でも見せてあげよう。


 ニコニコ~。


「*******」


 おぉ!

 ママンが喜んでる。


 周囲の人たちにも何やら声をかけてるし、『見て! この子が笑ったわ!』的なことを言ってるんだろ。


 ふぁ~。

 何か眠い……。


 ここで俺は生をやり直すのか。

 生前……いや、前世か。

 前の世界では後悔と憎しみばかりの人生だった俺はこの世界では後悔のない人生を送れるかな……。

 

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