我が家の間取り
俺の住むアパートは、敷地面積二十六平米、鉄筋コンクリート、築四十年。間取りは風呂トイレ別、IHの小さいコンロ付きキッチンあり、そしてリビングは六畳のワンルームだった。
恐らく地元であれば今の三分の一くらいの家賃で借りることが出来るのだろうが、ここは都心。家賃は結構値段が張って、母と奨学金には本当に頭が上がらなかった。
「ゴミ捨てたら意外と汚れてないよね、というか、物が少ない気がする」
感心げに渚に言われた。
物欲はあまり強い方ではなかった。買った物を壊れるまで大事にするたちというか、新しい物に強い魅力を感じることが少なかった。スマホだとかが特にそうだ。年に二回も新機種を出して、目を見張るようなスペックアップはさしてない。開発研究費を無駄に費やすだけなのではないかといつも疑問だった。
そう言うわけで、俺の部屋の中にある物はたかが知れていた。生活必需品であるものは置いておいて、娯楽ものはテレビとゲームとノートパソコンくらいだった。だから、強いて何かをしなければならないとしたら、ベランダにいつまでもかけられたままになっている衣服な気がした。
「あれ、いつから干してるの?」
「昨日」
この時期は寒さも相まって衣類の乾くスピードが遅かった。だからつい、極々稀にああいう不潔な光景が出来上がるのだ。
「じゃあ、取り込んで畳んで置くね」
渚は少しだけ呆れたように言った。頭が上がらなかった。
「クローゼットの中に入れればいいのかな?」
「うん。衣装箱があるから、そこに適当に詰めて」
「わかった。ちゃんと区別して詰める」
本当によく出来た人である。微笑みながら、俺はトイレと風呂の掃除に向かった。こっちの掃除は、マメに行っていた。汚いところと体を清潔にするところだからだ。寝る場所、普段着は適当でいいのかい、とは突っ込まないで欲しかった。
一時間もしない内に部屋の掃除は完了した。マメな渚に掃除機をかけてもらい、俺は居た堪れなくなりながら部屋の隅で彼女の頑張りを称えていた。
「なんだか拍子抜け」
掃除が終わると渚に言われた。
「もっと汚いと思ってたのに」
「掃除を楽しみにしてたんか?」
「というか……あたしの出来るってところ、もっとちゃんと宗太に見せたかった」
「……今度からちゃんと掃除します」
「えー、なんでー?」
理由は言えなかった。ゴミ捨てをさせることを断固として拒んだように、やはり美しい彼女に汚い物に触れて欲しくなかった。そうすることの根底はマメな掃除。それはあまりにも明白だった。
「まあ、掃除するならそれにこしたことはないんだろうね」
「うん。そうだろう」
「三日坊主だけは駄目だよ?」
「……はい」
寝起きで少し体を動かしたおかげか、いつにもまして体のキレを感じていた。日頃不健康な生活をしていたことを実感させられた気がした。
ただ今はそんなことはどうでも良かった。多分そろそろ昼飯時だろうと思った。奮発して買った三十二インチのテレビの脇に置かれた時計の時刻は、丁度十二時を回った頃だった。
「お昼、食べたいものある?」
「宗太は?」
聞き返されることは織り込み済みだった。彼女と付き合ってからというもの、どうすれば彼女を喜ばせられるか、そんなことをよく考えるようになった。
その結果、こじゃれたレストランを見つけては一人で試食に行った回数は指が一本折れる程度にはあった。そう、つまり一回だ。仕方ない、たった一月なのだから、よく見つけたものだと褒めて欲しいくらいである。
「良い雰囲気のレストランあるんだけど、どう?」
「えー、嫌」
「え」
まさかの拒否に、目を丸めた。
「な、なんで?」
「だって、宗太絶対背伸びしているでしょ。あたし別に、宗太に背伸びさせたいわけじゃないもの」
「じゃあ、何が食べたいの?」
「宗太はいつも何を食べてるの?」
「学食」
「それもそうだ。じゃあ夕飯は?」
「コンビニ弁当か……もしくは牛丼、ラーメン」
「定番だね。そんなんじゃ栄養偏るよって言うのも、多分定番だね」
「うん。そうだね」
「致し方ない。今日、明日の夕飯はあたしが作ってあげるよ」
今回の我が部屋への訪問、渚は二泊三日する予定になっていた。三日も一緒にいれることをとても嬉しく思っていた。
「で、今日の昼だ」
「うーん。牛丼ラーメンは重いなあ。定食屋とかないの?」
「あるよ。でもちと店内が汚い」
「何言ってるの。そういう素朴なのがいいんじゃない」
「結構量、多めだよ?」
「食べきれなかったら、宗太に食べさせてあげる」
それならいつもの数倍でもご飯を食べれそうだ。
「じゃあ、そこにしよう」
「……ちなみに、そこへはいつも誰と行くの? 大学の友達とは大体学食なんだよね、その感じ」
「ああ、大友だよ」
渚が悲しそうに俯いた。何か悲しいことでもあったのだろうか。であれば、なんとしても慰めたい限りだ。
「本当、宗太は大友と仲が良い」
「昨日も渚の後に電話した。色々忙しなくて、ストレスを溜めているみたいなので」
「……うー」
唸る渚に、俺は首を傾げた。そうして、彼女の身支度が整ったのを確認して家を出た。
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