対等な彼等の恋路
同級生になんて言おう
すっかり気分も晴れ渡り、御朱印集めも順調に俺達はこなしていった。
結局、渚は気分爽快となった俺に押されるがまま、御朱印集めを始めてくれることになった。彼女は俺の御朱印帳と自分の御朱印帳の最初の頁の神社が異なることを酷く気に入られてなかったが、最終的には神社前の出店に出されていたご当地アイスクリームを奢ってあげたら現金にも気を良くしてくれた。
ご当地アイスクリームにかけられた餡蜜とバニラアイスが奏でるハーモニーに舌鼓を打ちながら、昼ご飯を食べて、次の神社へ。
運転はずっと彼女にしてもらった。姉の荒い運転を目の当たりにしてから、女性の運転に対して警戒をしていたのだが、渚の運転は実に丁寧で、そんな心配はまったく無用だった。多分、免許取りたてで東京ではまったく運転しない俺の方がへたくそな運転だっただろう。
ちなみに荒い運転をする姉は、先日縁石に思い切り車をぶつけて、前輪を繋ぐ支柱を折り曲げ、実に五年近く乗った十年落ちの軽自動車を廃車にした。ざまあみろ。
閑話休題。
渚とこなす御朱印集めの旅は、結構楽しかった。
これまでの俺の旅は、基本的に一人旅だった。東海道線に乗り込めば熱海までは二時間もあれば到着する。熱海までにある神社をしらみつぶしに、日帰りで巡るというのが俺の御朱印集めのやり方だった。つまり大抵が一人での行動になるのだ。
その点渚がいる場合、運転してくれる人がいて、かつその人は俺のくだらない話相手にもなってくれると来たもんだ。これからもずっと一緒に巡りたいものである、と心の底から思っていた。
「ねえ、宗太?」
「何?」
盆地の冬は寒く、そして冬故にお天道様を拝める時間は短い。丁度辺りが暗くなってきた頃、ハンドルを握る渚が疲労が溜まり始めて口数の減った俺に声をかけてきた。
「そろそろ小学校に行った方が良い時間だよ」
「もうそんな時間か」
時計を見ると、確かに結構良い時間だった。
「好きな人と一緒にいる時間はすぐ過ぎるな」
対等な存在である渚に余計な遠慮は不要と思って、俺は率直な気持ちを告げた。
「へっ!?」
渚の顔が唐突に赤く染まった。ハンドルを握る手が強張ったのを見て、やりすぎたと反省した。せめて運転中は止めようと思った。
そんな一幕を経て、車は小学校へ向かっていた。
休日の最終日という状況が影響してか否か、道路はたくさんの車で混み入っていた。車社会の田舎では珍しくもない光景だった。
「……そう言えば、今日は競馬あったなあ」
渚が運転への集中力が切れだしたのか、ハンドルにもたれながら言った。
丁度この位置は、競馬場から帰宅する客が通る道。この渋滞がそれが原因だとしたら、途端に待ちぼうけになるのが腹立たしくなってくるのは気のせいだろうか。
二人共疲労が溜まってきたのか、口数も少ない車内にスマホのバイブレーションの音が響いた。
ジーンズのポケットに入れていた俺のスマホの振動だった。慌ててスマホを取り出すと、
「女か!?」
渚が敏感に反応した。彼女はとても嫉妬深い。
「違う。大友だ」
「ああ、どうしたんだろうね」
「出ていい?」
「うん」
運転手の了解を得て、スマホを耳に当てた。
「もしもーし」
『おう、宗太か。今どこにいんの』
「バイパス」
『なんだよ、出掛けてたのか?』
スピーカーにはしていないが、受話器から意外と大きめの大友の声が漏れていたのか、渚がクスクスと微笑みだした。俺もそれに釣られて微笑んだ。
「まあ、そんなとこ」
『この後小学校行く?』
「うん。行く行く」
『おー、……一緒に行こうと思ったけど、その様子だと直接来る感じか?』
「はい。そういう感じです」
『わかった。じゃあいいわ。現地でな』
「おう、よろしく」
『おう、じゃあな』
電話を切ると、渚がようやく動き出した道路をちらちら見ながら、俺に目配せしていた。
「どうしたの?」
「そう言えばさ、どうする?」
言葉足らずの質問だった。
「何を?」
「……皆に言う?」
何を、とは野暮なので聞かなかった。つまり、交際を始めたことを言うかどうか、ということだろう。
「別にそこまで仲良い人がいるわけでもないし、交友が深い人にだけ別に言えばいいんじゃないかなー。あんまりたくさんの人に茶化されるのも辛い」
「そう? わかった」
渚はあっさり了解してくれた。
「実はもう、絵里とかとのグループラインでは言ってあるんだけど、皆とは仲良いから良いよね?」
「あー、そういう意味で聞いたのね」
あっさりと聞き入れてくれたのであれば、どうしてそんな質問をしてきたのか、少し疑問に思っていたところで事情を説明してくれた。
ちなみに、絵里とは渚が地元でよく遊んでいるらしい女子友達だった。昨日の成人式直前で渚に会った時、背後にいた人達の一人である。
「いいんじゃないかな」
仲が良い友人相手にも隠せと言うほど、俺は無粋な男ではなかった。というか、既に言っているのであれば断る必要もない。
「宗太は?」
「ん?」
俺は首を傾げた。
「大友とかに、言うの?」
「……あー」
大友に言うか、か。
渚同様、彼は俺の0歳からの友人である。保育園が俺や渚と一緒だったのだ。
正直大友とは、渚以上の縁を持っている。保育園、小学校、中学校と同じ学校だった。高校は別だったが土日はしょっちゅう遊んでいたし、あいつは専門学校が東京だからそこでも交友がある。つまり、腐れ縁というやつだった。
渚に対してはまだ遠慮とかはあるが……同性ということも相まって、大友に対しては一切の遠慮は既にない。かつて高校の時、俺の家であいつと遊ぶ約束をした時、あいつにまったく話しかけずゲームをし、あいつには俺の母親と延々と会話させたという過去もある。それくらい、一切の遠慮をしていない。最低な男である。
そんな大友に……他にも仲の良い友達もいるが、一先ずは大友に、渚との関係を言うかどうか、か。
「……現地に着くまでに考えておくよ」
「そうして」
大友に対して、俺は遠慮もしないし配慮もしない。でも信頼はしているし信用もしている。そんな彼に、渚との関係を話すか否か。
仮に話したとしたら……彼はどんな反応をするのだろうか?
一番の親友でありながら、彼がどんな反応をするのか、まるで見当もつかなかった。
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