第33話 佳子

9月9日11時。


勝又紫織と一緒にショッピングに来ていた時、ポケットの中で電話が鳴った。

見知らぬ番号だ。


「どうしたの?電話出なくていいの?」


そう聞いてきたのは、勝又紫織だった。


「いいの!こんな番号は知らないしーー」


咄嗟に佳子の手から、携帯を奪うようにして取り上げると、紫織は通話状態にした。


「ちょっとアンターーいい加減にしな...」


そこまで言いかけて、紫織は黙ってしまった。紫織の様子が変わった事に気づき、佳子も通話状態にしたままの携帯に耳を当てる。


「ーーツバメ」


受話器の向こう側の相手が、たった一言を話す。


「ーー何これ?」


不思議そうに先程まで佳子がいところを見てみると、呆然とした表情を浮かべ、佳子は歩いていた。


「ーーちょっと、佳子、どこ行くの?」


呼び掛けにも応じない。

まるで人が変わってしまったかのように、佳子から笑顔すらもなくなってしまった。


「ちょっと待って!ーーちょっと待ってよ!佳子」


佳子に声をかけ続けるがこちらを振り向く事もない。どうやら紫織の声は宙を舞ってしまっている様だ。


駅に入る。

階段を上り紫織は駆け足で後をついていく。


「次に3番線に参ります電車はーー」


構内アナウンスが告げる。

その途端、ホームに佳子は飛び込んだ。



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