第34話 田中宏美(回想)

9月9日11時。


学校に向かうため、宏美は駅で電車の到着を待っていた。

構内アナウンスが流れる。


「ーー次に2番線から参りますのはーー」


そこまでは良くある光景だった。

背後から声がする。


「ーーカラス」


その声の主を探そうと、宏美が振り返ったその瞬間、声の主に突き落とされ、宏美はホームの上に落ちていく。


電車が通過していく。


声もでない。

あっという間の出来事だった。


ーーグシャ。


鈍い音がして、電車は急ブレーキをかけて止まる。

あわてふためいた駅員の声が、アナウンスされた。


「現在人身事故が発生したため、この電車は緊急停止しております。御乗車のお客様には電車が遅れ、ご迷惑をおかけしますが、いましばらくお待ちください」


構内アナウンスが繰り返し放送され、駅には数台のパトカー、消防車が訪れ、騒然とした様子だ。


多くの人に迷惑をかけた上で死ぬ事を選んだ彼女の魂は今、何を思っているのだろうか。


そして今日もまた電車は走り続ける。

多くの人の命を乗せてーー。

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