おさけ。

鈴ノ木 鈴ノ子

おさけ

かんぱ〜い!


なんてした飲み会はいつだったかな。

カウンターやバー、飲み屋の座敷でわいわいと過ごした日々は消えちゃった。


あれから世界はバタバタで、私の仕事もバタバタ。


ネットスーパーで買い物済ませて、通販サイトをさすらっていると、造り酒屋のホームページにたどり着いた。


それは地元の酒屋さん。懐かしの銘柄に思わず一本買いました。届いたお酒を冷蔵庫に入れて、その日を一日頑張って、疲れて帰ってシャワーを浴びて、冷蔵庫から小瓶を取り出した。


小さなガラスの素敵なお猪口を用意して、ゆっくり蓋を捻って開ける。小瓶を傾け注がれる清流はお猪口をなみなみと満たして、小さな湖を作ります。


ゆっくり唇をお猪口につけて、ゆっくり傾けて口へと含む。


まろやかな味わいが、ゆっくりと広がって、そしてアルコール特有の風味と混ざって、喉元を過ぎで落ちていく。


ソファにもたれ掛かりながら、私はお猪口を持ったまま、天井を見上げてふぅと一息つく。


嫌なこと、良いこと、その日のことが、走馬灯のように過ぎてゆく。


今日のことをゆっくり考えながら、それを肴に二杯目を頂くと、再び、同じ姿勢で考える。


あの時はああすべきだった。この時の対応は良かった。ああ、あの資料も目を通してみなきゃ。


三杯目を頂いて、それを纏めて考え締めて、音楽プレーヤーのスイッチを入れて、小さな音量で聴きながら、部屋の電気を消して、ソファへとゆっくりしっかりもたれ掛かかる。


スマホは見ない。テレビもつけない。


今はただ、この空間を味わっていたいから。


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おさけ。 鈴ノ木 鈴ノ子 @suzunokisuzunoki

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