第6話

「ふうかさんかな?」


 その声の主は社長だった。社長も今来たところらしく、2人で部屋に入った。


「昨日のパフォーマンス、オーディションの時よりも良くなってたね。思ってたより頑張ってくれてて嬉しかったよ。」


その社長の言葉を素直に受け取りたいのに、受け取ることができなかった。昨日のことが思い出されて何となく複雑な気持ちになってしまった。


 上手く返事を返せない私に気づいたのか、社長が顔を覗いてきた。なぜかその目に吸い寄せられるように、少しだけ話をしてしまった。


「私ってどれくらいダメなんでしょうか。歌もダンスも、韓国語も何もできない。どうしても、できないことが多いです。どうすれば、ダメじゃなくなりますかね。」


 社長は少し考え込んだ後、日本語で話してくれた。


「確かに、君は周りの子達よりできないことがたくさんある。歌もダンスも実力不足だ。韓国語だってまだまだ難しい部分の方が多いだろう。けれど、今君はオーディションに合格してこの場に練習生として座っている。オーディションに合格することだって簡単なことじゃないんだ。なぜ僕が君をこうやって選んだと思う?君自身は気づいていないのかもしれないけど、君にはたくさんの魅力がある。必死に練習すれば実力だってついてくる。韓国語だってこれからたくさん勉強して身につけていけばいい。今は、ダメなことが多いように思えるかもしれないけど、いつか必死に練習して時間が経った時、君はまた一つ上にいけると思うよ。」


 その社長の言葉が、透き通ったその声が、優しい日本語が、私の心の中にスッと入ってきた。


 まるで日本人なのかと思うほどスラスラと話している社長に最初は気を取られていた。けれど、聞いているうちにその優しく透き通った声とそこから紡がれる言葉にいつの間にか涙が溢れていた。


 確かに、できないことがたくさんある。でもそれが全てじゃない。悪いところは努力して良くしていけばいい。自分の魅力を忘れないで。君にはそれができるだけのものが必ずあるから。


 そう言ってくれた社長が私はとてもありがたかった。私の中で崩れかけていた明るさを取り戻してくれた社長が今は救世主のように思えた。


 泣き出してしまった私に驚いたようだったけど、すぐにハンカチを差し出し背中をさすってくれた。


「ジアのお気に入りの子だったし、私もすぐにオーディションを受けさせてここまできてしまったから大変なことも多かったよね。今ならまだ、引き返せるよ?」


社長のその言葉に思わず反応した。


「いえ、やらせてください。やりたいんです。これから私がどこまで上に行けるのか頑張りたいんです。こんな私だけど、少しでも応援してくれている人に期待している以上のことを返してあげたいんです。」


早口で話す私に、社長は、ここまで言う子はびっくりだよ、この調子じゃ大丈夫かなと笑いながら続けてこう言ってくれた。


「君ならきっと大丈夫。僕が見込んだ子なんだから。」




 それから少しして私が泣き止んだタイミングを見計らって社長が咳払いをする。


「それじゃあ、これからの話をしようか」


社長が話し始めたのは、これから住む場所、私の基本情報、そしてこれから通う予定の高校についてだった。


 住む場所については人が増えたら寮で生活するようにするとも考えているらしいが今は地方に家がある子はいないらしく、今はジアさんのところに一緒に住まわせてもらうことになったのでそこは解決した。


 そして次に私の基本情報について聞いてきた。基本的な家族構成や年齢などは話していたし、オーディションなどで必要な情報は全部話していたので何かダメなところがあったのかと思った。


 すると、社長が驚くことを聞いてきた。


「ふうかさん、ダンスは初心者だと思うけど、君のダンスを見ていたらただそれだけじゃない気がしたんだけど、もしかして何か隠していることでもある?」


 あまりに突然の質問にしばらく返事をすることができなかった。私自身そこを言われるとは思わなかったのだ。ただダンスができない人くらいでスルーされると思っていたのに、やはりこの社長は気づいてしまったようだった。


「これ、ジアさんにも話していないんです。実は私、、」

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