ですゲーム 【さあ、ゲー無の時間だ】

「クックックッ…… ようこそ諸君」


 その妙に甲高い声が反響したのは、四方がコンクリートの壁で囲まれた密室だった。

 続いて、壁に掛けられたモニターにピエロの仮面を付けた人物が映し出される。


 ── 間違いない。


 これは、デスゲーム。 

僕のように金に飢えた者が集められ、その命を賭ける…… 勝者は大金を手にし、敗者は無慈悲な死が待っているのだろう。

 

 僕は辺りを見渡し、人数を確認すると13名の男女が集まっている様だった。


「なんだテメェ?! 妙な被り物しやがって!」

 そう隣で叫んだのは、髪の毛を金色に染めて、耳や口にピアスを付けた若い男だった。


 ── 間違いない。

彼は初めの被害者となり、この場を恐怖で染め上げる駒になるのだろう。

 これは、デスゲームのセオリー通りの展開なのだ。


『クックックッ… 威勢の良い参加者もいますね。楽しくなって来ましたよ』

 ピエロの仮面を付けた人物は愉快そうに肩を震わせる中、僕の後ろにいた女性の呟きが耳に届く。

「ウフフ、楽しそう…… パーティの始まりって訳ね」


 ── 間違いない。


 ゴスロリ衣装に身を包んだ彼女はヤンデレ裏切り枠、ゲームが進む中で心を開くと見せかけて、最後に裏切る役回りだろう。要注意人物として覚えておこう。


『皆様、早速ですがゲーム開始です』

ピエロの仮面を付けた人物はそう告げると、画面いっぱいに【1枚ババ抜き】というタイトルが現れる。

 遂に、恐るべきゲームが始まってしまったのだ。


『ルールを説明します。皆様のポケットにはトランプのカードが1枚入ってます。 おっと、他の人に見られてはいけませんよ? 自分の手の内を知られては勝ち残れませんからね』


 僕は胸のポケットに手を入れると、確かにカードが1枚入っていた。誰にも覗かれないようにカードを見ると、スペードのジャックJだという事がわかった。


『つまり、皆さんにはそれでババ抜きをして貰います。勿論、1枚では上がれないので知恵を絞ってこのゲームをクリアして貰いたいと思います』


 そこで僕は気づく。

ここに居るのは13人。つまり、トランプのカードも奇数であるという事……。


『そうそう、実は参加者の中に我々運営の手のものが紛れています。 そして…… その者の手札は【ジョーカー】。つまり、あなた方にとっての裏切り者になります』


 ── やっぱりだ。

このジョーカーを持つ者こそ、運営の悪意。それを見破ることが、ゲーム攻略の鍵になる筈である。

 そんな中、ピエロの仮面を付けた人物は嬉しそうに肩を震わせると、ルールの説明を続けた。


 要約すると、

•制限時間は1時間

•脱出成功者には1500万円の賞金が支払われる。

•ワンペアを成立させた者は追加ボーナス500万円が与えられるが、手札を渡して上がった者は2000万円のペナルティが課せられる。

つまり、賞金差引きで1000万円の負債を負うのである。

•制限時間が過ぎて手元にカードが残っている者は脱落し、2000万円の負債を負うことになる。

•その上、ジョーカーを持っていた場合、ペナルティは1億円である。

•カードの受け渡しは『ルーム』という個室で2名のみで行う。


 一通りの説明のあと、ピエロは『最後に』と言葉を続けた。

『皆様に交渉の手段を用意しています。後ろをご覧ください。ATMがありますね? そこでは無制限に借入が可能です。ただ、利息は10日で1割になりますが、このゲームに勝てば賞金は最大1500万円、要は勝てばいいのです。クックックッ』


 この説明で、僕は確信した。

参加者の圧倒的不利という状況が。


 仮に全員がペアを成立させれば運営の利益は無いが、ジョーカーが存在する以上、協調は不可能である。

 その上、ここに集まっているのは金の亡者達。このルールで騙し合いが起こらない訳がない。

 更にはATMによる高利貸しときたもんだ。

終盤にかけてカードの売買が始まり、値は釣り上がっていく事だろう。


「ふっ、馬鹿ばかりで助かるよ。見落としている事の重大さに気付かないなんてね」

 そう呟いたのは黒いロングコートを着た精悍な顔立ちの青年だった。


 ──間違いない。


 彼はこのデスゲームを勝ち抜く頭脳派キャラ。いわば主人公役だ。彼に着いていけばクリアできる!


「そんな事出来るの? ……いいえ、みんなが信頼しあえば、きっと全員で助かるわ!」


 ──間違いない。


 清楚な見た目の彼女はヒロイン役だ!

この先、何度も参加者に騙されるが先程の男性に助けられ恋に落ちる役。

 これでデスゲームのピースは揃った。


 僕は意を決して、黒いコートの青年に語りかけた。

「今、見落としがあると言いましたね? 気付いたんですか?このゲームの攻略法が」


 青年は『ふっ』っと、鼻で笑うと頬を一筋の汗が伝う。

「ああ、この部屋には…… トイレがない。そして俺は、もうすぐ社会的に死んでしまう」


 ……は? デスゲームってそういう意味?


 主催者も想定外の事だったのだろう。ピエロの男は焦り始めた。


「ちょ、そんな密室で漏らされたら、参加者全員困っちゃうよ! そこの扉開けるから、早くトイレに行ってください!」


 その後、『ガチャ』っと電子錠が解除され、男は青い顔で出ていった。

 開け放たれた扉からは外が見える。

つまり、出口だった。


 そこに、先程の清楚な女性が「あの人が帰って来るまで、信じて待ちましょう!」と、胸元でガッツポーズし、皆に呼びかける。


 …… いや、出口が見えてますが。


「うふふふ。みなさん?今がチャンスですわ」

 そう言ったのはゴスロリ衣装の女性。

そう!今なら脱出できる!

「部屋の換気がされたので、今のうちに頭を働かせてゲーム攻略を考えましょう?」


 …… 馬鹿だった。


「おいおいテメーら。根本的な事を見落としてやがるぜ?」


 ……おっ! ヤンキー枠! 言ってやれ!


「この部屋には時計がねぇ。ペットのロドリゲスに餌をやる時間がわからねぇだろーがッ!」


 ── 何の話?! ロドリゲスって何?!


「…… おほん、参加者の皆様。一旦落ち着いて下さい」

 そういうピエロもソワソワと落ち着きがない。なんだか同情してしまう。


 僕は、場の雰囲気を落ち着かせるべく、ピエロに語りかけた。

「あのぉ、この部屋から脱出すれば賞金が貰えるんですよね?」


「ええ、そうです。我々、運営は嘘をつきません」


「その……出口って……」


「………あ。  だ、誰か、そこの扉閉めて貰えます?」


「すいません、僕は脱出します。賞金は指定の口座にお願いしますね。 皆さんも早く出た方がいいですよ?」


 僕はそう言い残し、出口を出た。


── 運営が1番馬鹿だったのかも知れない。

デスゲームを企画する方は、トイレの設置をオススメしたいものデス。






 

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