第1位 里瀬 操(いつもの)

『ぷにぷに師匠』( ´∀`)σ)Д`)

 ある日、琥珀が操の家に入り浸っている日の出来事。特に恋人らしいことをしない琥珀についに操が業を煮やしたのかある要求をする。


「Amber君。私の家に来ておいて、私になにもしないとは何事だ?」


「え? なんで俺、そんな意味不明な怒られ方しないといけないんですか?」


 確かに琥珀からしたら理不尽な怒られ方かもしれない。しかし、女性の不満というものはリセットされずに溜まり続けるものである。男性にとっては、過ぎたことでも、女性にとっては進行形。操はもっと琥珀からイチャイチャして欲しいと思っているのに、してくれないことに不満を抱いていてそれが急にショコラのように爆発したのだ。


「ほら、もっと、こうあるだろ! キミぐらいの年頃なら、彼女にこんなことしたいとか!」


「えっと……普通に楽しくお話しているだけではダメなんですか?」


 幾多の罪なき者を切り捨てた言の刃ことのはが出るところと同じ場所から出てくるまさかのピュアな一言。ピュア通り越してヘタレと言われかねないほどである。


「そのこう、あるだろ! 異性の体に触れてみたいとか!」


「え? 触って欲しいんですか?」


「いや、別に私が触って欲しいとか言ってないだろ」


 めんどくさ……その言葉が琥珀の脳裏に流れる。しかし、お世話になっている師匠に流石にそんなことは言えないと思う琥珀。寸前のところで踏みとどまったその刃を納めて、仕方なく琥珀は手を伸ばした。


 ぷにぷにっと操のやわらかいところを触る。


「なぜ、ほっぺなんだ」


 琥珀に頬をつつかれながら操は膨れ面になる。


「いや、俺、そういうのよくわからないんで、ここつつけばいいのかなって」


 操のほっぺをツンツンとつつき続ける琥珀。操は内心やめて欲しいと思っているも、自分から言い出したことだけにやめろとも言えなくなった。


「Amber君。私、23歳」


「はい」


「キミの師匠」


「そうですね」


「Amber君は16歳、高校生、私の弟子」


「はい、それはわかります」


「師匠に対してその行いは失礼だとは思わないのか?」


「いや、本当は思っているんですけど、師匠が触れってうるさいから」


 そう言いながらも、まだ操のほっぺをつついている琥珀。しまいには人差し指と親指をつかって、つまんで引っ張り始める。


「やめんか!」


 ぺしっと操が琥珀の手を叩いて、流石に琥珀は手を引っ込めた。


「全く、キミは本当に失礼なやつだな!」


「はい、よく言われます」


 主にコメント欄で。


「私に対して申し訳ない気持ちはあるか?」


「はい、そりゃあ、もうありますとも」


「だったら、お詫びとしてAmber君の体を好き放題しても構わないな?」


 師匠がにやりと笑う。


「いや、流石に好き放題しすぎると師匠が捕まるのでやめた方がいいと思います」


 正論。23歳が16歳の体を好き放題したら、それはもうお巡りさんと密室でお話できる権利が発生するのである。


「大丈夫。その……法律に抵触しない程度に触るから!」


 わけのわからないことを言って琥珀の頬に手を伸ばす操。そして、彼の両の頬をつまんで仕返しと言わんばかりにうにうにと動かす。


「ほらほら、参ったか。Amber君。師匠をないがしろにするからこうなるんだ」


「し、しひょー。や、やめふぇくらふぁい」


 数秒間の仕返しが済んだ操は満足そうな顔をして機嫌が元に戻った。琥珀はなぜ、操の機嫌が元に戻ったのかわからないまま、背後に宇宙を創造した。


 でも、なぜかここで琥珀の心に火がついた。いくら相手が尊敬する師匠でもやられっぱなしではいられないと。この得意気な顔に一泡吹かせてやりたいと思って、操に物理的に迫った。


「ひっ、あ、あんばー君?」


 物理的に顔面の距離が近くなって操は焦ってしまう。今まで、全然手を出す気配すら見せなかった琥珀のまさかの逆襲。正直、操は琥珀を舐めていたところはあった。関係性的には師匠の操の方が優位。そう思い込んでいたが、男子高校生の力を持ってすれば、自分など簡単に組み伏せられてしまう。そんな物理的な力関係を考慮していなかった。


「師匠。仕返しには仕返しで返してあげないといけませんね」


「あ、いや。その……」


 琥珀に迫られて内心ドキドキしてしまう操。なんだかんだ言いつつもこういう展開を期待しないでもなかった。今日こそは一線を越えてしまうのではないか。いや、大人としてそれは止めないといけないのかもしれない。でも、このまま身を任せたいという衝動には逆らえずに操はすっと目を閉じて成り行きに任せることにした。


 心臓の鼓動が高鳴り、それが琥珀に聞こえるんじゃないかと思う操。そんな彼女に与えられたものは。


 ぺちっ


「いだ」


 額に走る痛み。そこには笑っている琥珀の姿があった。


「こら! Amber君! 師匠に向かってデコピンするな!」


「いいじゃないですか。弟子のほっぺをつねったお返しですよ」


「それは……キミが先に私のほっぺをだな!」


「師匠がやれって言ったんじゃないですか」


「ぐぬぬ」


 自分から体を触れと言ってしまった手間、それを持ち出されたら何も反論できなくなってしまった操。やはり、レスバでは琥珀に勝てない。これが絶対的な真理なのである。



「リゼー。リゼー。構えー」


 真鈴が操のほっぺをツンツンとつつく。


「やめろ」


 ぺしっと操が真鈴の頬にチョップを入れた。


「あう!」


 琥珀にはある程度許した弄りも、人によっては全く弄ることすら許されない。これが「セクハラは何をしたのかが重要ではなくて、誰がしたかが重要」ということの証明である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る