カミィの強豪たちへの挑戦

 マサオカート大会の予選終了後、準決勝のメンバーが出そろった。強豪ひしめく中、マサカ界隈では全くの無名だったカミーリアが勝ち残っていた。


 カミィが配属されたのは、Aブロック。第1グループでカミィを下したスイカはBブロックに配属されている。2位に甘んじた雪辱を果たすのは決勝になりそうだとカミィは自信たっぷりに思った。


 自分は兄の勇海の指導を受けて強くなったからそう簡単には負けない。付きっきりで指導してくれた兄のためにもがんばると心に刻む。Aブロックで有名な走者はナナコ。イェソド、エディ、ダアトがショコラに爆発四散された今、彼女が優勝の最有力候補と言っても過言ではない。


「よし……眷属のみんな。あーしの応援頼むね」


『がんばえー』

『準決勝まで来たのも快挙だけど、このまま決勝まで行って欲しい』

『強豪揃いだけど応援している』

『初見です。可愛いのでチャンネル登録しました』


「お、初見さんが来た。早速首筋にがぶがぶしちゃうぞ! 可愛いって言ってくれてありがとー」


 莉愛はカミィのガワを褒められるのが何よりも嬉しかった。自分が褒められている気がするし、何よりもこのガワを描いてくれた兄が評価されているのが嬉しいのだ。


 少しずつ世間に兄の凄さが認められてはいるものの、それでもまだまだイラストレーターとしてもチャンネル主としても知名度はまだまだ成長途中である。1人でも多く兄の凄さを知って欲しい。自分が有名になってガワの露出が増えれば、それだけイラストレーターにも注目が集まる。それがカミィが活動を続けられているモチベの1つになっているのだ。


 画面が切り替わり、コースの選択画面に移った。参加者がコースを選択して、その中からランダムにコースが選ばれる。緊張の瞬間だ。苦手なコースが来ないことを祈り、それが天に届く。


「っしゃあ! あーしの得意なコースきちゃあああああ。これはもろたで!」


『せやろうか』

『このコースは腕の差が出にくいからね。アイテム運がカギになるかな?』


 コメントで指摘されている通り、このコースはシンプルな構成で他のコースと比べて技術的に難しいことは要求されない。そのため、技術で差をつけるのが難しく、いかに凡ミスを少なくするか、取得したアイテムを効果的に使えるかがカギになってくる。


「ふー……緊張してきた。絶対にスタートダッシュ成功させよう」


 技術的なことで順位が上下しにくい分、スタートダッシュもかなり重要である。熟練者同士の戦いともなるとここの成否で勝負の半分が決まると言っても過言ではない。


 3、2、1……スタート! カミィがスタートダッシュを決める。当然、ここまで勝ち上がってきたもの、シードを獲得したもの、それぞれが猛者ぞろいのため全員が成功した。誰1人スタート地点に取り残されたノロマはいなかった。


 カミィの位置は3位。まずまずの順位は。1位は狙われやすいから、これくらいの位置が最も安牌とも言える。また、1位と離される程にランダムで取得するアイテムの性能が上がる。アイテム運に左右されるこのコースでは、あえて良アイテム狙いをする戦略もなくはない。そうした最初の順位のポジション取りの駆け引きが発生するのも熟練者だらけの証左である。


 順調に走るカミィ。誰かを抜いてもいないし、抜かれてもいない。焦ることはない。このレースは12人中6位になれば決勝に進めるルールだ。3位をキープさえしていれば次へと進める。実際、1位狙いではなくて安定して2位から6位を目指す走りをしている者もいる。1位と6位も受ける扱いが変わらないからこそ発生する戦術がこのレースにはある。


「3位……この順位をキープしたいね」


 まだアイテムボックスがないからこそ、ミスをしなければ順位をキープできる状況。カミィは深呼吸をして心を落ち着かせた。


 緩やかなカーブを越えた先にある最初のアイテムボックス。良いアイテムがでることを祈るカミィ。2位の人と取るアイテムボックスが被らないようにカミィは位置をずらした。アイテムボックスは誰かが取ると消える。すぐに復活するものの、復活するまで数秒かかる。その数秒の間にアイテムボックスがあった地点を通過するとアイテムが取れないまま通過するという悪い結果を招きかねない。団子状態になっている時に気を付けないことだ。


 無事に最初のアイテムを取得したカミィ。アイテムがルーレットみたいに次々に変わり、自動的に止まる。カミィが取得したアイテムはコイン。コインは集めると素のスピードが上がるアイテムだ。アイテムボックスとは別にコース中に点在している。それらを集めて元々のスピードを上げるのは割と重要なことである。しかし、アイテムとして出てきて嬉しいかどうかと言われると別である。悪くはないけど、テンションは上がらない。特にコインがマックス10枚の時にこれを引いたらなんとも言えない気持ちになる。


「コインかー。うーん、まあ序盤で引けたら悪くはないね」


 事実、このお陰で2位にじわりじわりと近づけている……が、4位が瞬間的な加速アイテムのキノコを引いたことで一気に抜かされてカミィが4位になる。


「うーん、コインよりキノコの方が欲しかった」


 アイテムのせいで順位にかなりの変動が発生した。カミィはその後も他プレイヤーのアイテムの影響で7位にまで転落。6位圏外になり、このまま順位が上がらなければ決勝にいけない状況になった。


「7位になっちゃった。でも、まだまだ。諦めない。勝負は最後まで何があるかわからないっしょ」


 前向きなギャル吸血鬼を演じるカミィ。莉愛の心には、内心焦りはあるものの、もう1人の自分。カミィのロープレに救われて心が軽くなった。7位以下に転落することはなく、次のアイテムを拾い、それを駆使して次は5位に上昇。最初の3位と比べたら悪い数値ではあるが、絶望的ではない。


 その後も順調な走りを見せて3周目の中盤に差し掛かった時に、カミィは6位。中々上位には上がれないものの、十分健闘をしている順位だ。


『やっぱり予選よりも相手が強くなってるね。厳しい戦いだ』

『俺はカミィを信じてる。がんばえー』


「応援ありがとー。みんなのために負けられない!」


 3周目と言うより、このコース最後のアイテム。莉愛は甲羅を手に入れた。それを持って行き防御に使おうとする。甲羅は攻撃にも防御にも使える万能アイテムだ。大切に使おうと心に決めた。この甲羅の使い方1つで勝敗は大きく変わりかねない。


 5位の相手に近づいていくカミィ。序盤のコインが効いているのか素のスピードはカミィの方が速い。近づいてから甲羅で確実に落そう。そう思って甲羅を放とうとした瞬間! カミィは甲羅を失った。


 7位が放った甲羅がカミィの甲羅とぶつかり、お互いが消滅した。甲羅がぶつかってスピンという最悪の状況を避けられたものの、攻撃手段を失ったのは痛い。


「あーもう! 折角、甲羅を当てようと思ったのに……じゃなかった。甲羅を投げる前で良かった。投げた後に甲羅が飛んで来たらあーしがやられてたね」


 これを前向きに捉えてカミィは進む。その後は5位、6位、7位が抜きつ抜かれつの攻防を繰り広げて……カミィは5位でゴールした。


「5位!? 5位だ! やったー! あーしが決勝に行けた! 嬉しすぎる!」


『ないすぅー!』

『¥1200』


 ちなみに決勝Aブロックの優勝候補のナナコは8位でゴールという結末になり、まさかの決勝に行けずに終わった。運の要素が絡む対人戦は何が起こるかわからない。こうした大会の場では必ず潜んでいる魔物。それに牙を剥かれた哀れなVtuberもいるのだった。

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