サキュバスメイドとクマのゆっくりしない茶番劇

「9997……! 9998……! 9999……! 10000!!」


 山に籠っていたショコラが日課である1日1万回感謝の正拳突きを終えると、どこからともなく森のクマさんがやってきた。


「クマー!」


「アカシア。どうしたんですか?」


 観測所では初登場のアカシアが鋭い爪をキラリと光らせてショコラに近づく。


「最近、ショコラが山籠もりしすぎてお屋敷の家事が疎かになってるクマー。誰もセサミを洗ってないから、アイツから洗ってない犬の臭いがするクマー」


「そりゃ、犬なんだから洗わなければそういう臭いはするでしょう。というか、あの犬は自力で温泉入れる癖に人に体を洗ってもらおうだなんて魂胆がゲスいんですよ」


 サキュバスメイドの洗体サービス。全ショコラブ垂涎ものの甘美なサービスを日常的に受けていた犬がいるらしい。


「そろそろ、お屋敷の方に戻ってきて欲しいクマー」


「そうですね。私も修行してかなり強くなりましたし……アカシアで腕試しをしたら下山しますよ」


「えぇー!?」


 まさかの提案に驚愕するアカシア。しかし、ショコラには尤もらしい言い分があるのだった。


「いいですか? 大抵の格闘作品においては、クマなんてものは格闘家の咬ませになる運命なんですよ。修行の成果を見せる丁度良い機会ですし、私の正拳突きを1発受けて下さいよ」


「いやクマー。これを見て欲しいクマー」


 野生動物は降参の意を表する時は、腹を見せると言う。しかし、このアカシア。見せたのは腹にあらず、背中である。その背中にはチャックがついていたのだった。


「ああ、あなたは本物のクマではなくて、中にオッサンが入ってるタイプの方でしたか」


 お屋敷近くの山に生息していて、たまにお屋敷に降りてくるクマのアカシア。その生態は謎に包まれている。背中にチャックがある個体とそうでない個体。チャックがある方が中にオッサンが入ってる着ぐるみ。チャックがなければ本物の熊である。見分ける方法がそれだけで、アカシアの生態の殆どは未解明なのだ。


「流石にオッサン相手に本気のパンチをしたら泣かせちゃうかもしれませんから、今日のところは勘弁してあげます」


「た、助かったクマー」


 もし、この場に現れたアカシアにチャックが付いてなければ、今頃は戦闘が始まっていた。カンフー映画を観て強くなった気でいる中学生並に、漢女ゲームに触れた直後のショコラは好戦的なのだ。


「まあ、漢女ゲームの方は一旦のところは区切りがつきましたし、また人気投票のエピソードに戻りましょうか」


「エピソード貰えた人は羨ましいクマー」


「セサミは前回もらえたけれど、アカシアは選ばれませんでしたからね。くすくす。それでは、人気投票の特典エピソードの続きを次話から見ていきましょう。第3位は、椿 勇海様ですね」


「楽しみクマー」

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