こいつら誰?
ディアナ:はっはっは。何それ。努力でどうにもならない才能? 壁?
モニカの必死の想いをあざ笑うディアナ。
ディアナ:あなたのその筋肉は何のためについているの? 骨を支えるため? 違うでしょ? 壁を壊すためにあるんでしょ?
モニカ:!!
ディアナ:貴女が私に負けたのは、私が強かったからじゃない。貴女が自分の筋肉を信じられない弱さを持っていたから。才能の差なんて筋肉の差に比べたら微々たるもの。それがわからない限り、私には勝てない
モニカ:う……う……
ディアナ:モニカ。私たちは漢女。1度かわした約束は守らなければならない。貴女は学院から追放される。けれど、それは終わりなんかじゃない。貴女が本当の意味での強さを手に入れたのならまた戦いましょう?
モニカ:い、いいんですの? だって、わたくしは貴女を……
ディアナ:漢女は1度かわした約束は守る。もう1度言わせないで
ディアナ:(こうして、私とモニカの対決は終わった。1年前より始まった因縁に決着がついて、私は平穏な学院生活を手に入れたのだった)
「良い話……なんですかねえこれ」
拳で語る熱い青春話とは無縁の琥珀には、漢女同士の熱い友情というものが理解できなかった。非行や暴力など経験してこなかった模範的な現代っ子は、昭和のヤンキー漫画を読んでもピンと来ないのかもしれない。
『これが漢女同士の友情なんだよなあ……』
『拳で語り合ったからこそわかりあえることもある』
『いい話だなー』
「私はメイドなので拳で殴り合うようなことはしないのです。だから、拳で語り合う概念は持ち合わせていません」
元々の目的は師匠のために女心を勉強するために乙女ゲームをプレイすることになった琥珀。しかし、一般的な女子は拳で語るようなことをしない。全くもって参考にならないゲームを選んでしまった自らの不運さを呪うばかりだった。
場面が切り替わって、ムキムキマッチョウーマンと化したディアナが壇上にあがって筋肉を魅せるポージングを取っていた。
ディアナ:フン!
観客:いよ! 冷蔵庫! 洗濯機!
ディアナ:ハア!
観客:肩にフタコブラクダを乗せてるのかい!
ディアナ:ふぉおぉおおお!!
観客:筋肉で時空を歪ませてるのかい!
ディアナ:(私は学院を卒業後、己の筋肉を極めるためにひたすらトレーニングに励んだ。学院にはハイスペックな男子がたくさんいたけれど、私は彼らに見向きもしなかった。なぜならば……恋は筋肉を鈍らせる。私に必要なのは生涯の伴侶ではない。生涯衰えない筋肉なのだ)
ディアナ:どっせい!!
司会:出ましたー! ディアナ選手最高評価! 本大会初の快挙です!
マッチョEND
「なにこのエンディング……」
どこの世界に主人公の女の子がマッチョになって大会を制覇する乙女ゲームがあるのだろうかという当然の疑問。それを解決するのがこのゲーム。従来の乙女ゲームの常識を180度筋肉で捻じ曲げた正に怪作。そのエンディングまで辿り着いた結果、得られたのはわけのわからない喪失感なのであった。
ゲームクリアの後に必ず流れるもの。それはスタッフロールである。神ゲーならば、英雄たちの名前が表示され、クソゲーならば戦犯リストと化す通例の儀式。特に戦犯リストで「AND YOU」と表示されようものなら、「俺らを巻き込むんじゃねえ」と言った怒りの声があげる者もいると言う。
爽やかなBGMと共に学院の背景が表示される。そして、1人の少年が表示された。彼の立ち絵の下には【打撃の鬼 ケン・ジール】と刻まれている。
「誰?」
エンディングなのに知らない人がいる。低予算のマルチエンディングゲームにありがちな、スタッフロールの分岐を作れなかった弊害である。このゲームは元々、漢女が漢と恋愛するゲーム。その攻略対象に出会うことなくゲームをクリアしたショコラには、彼らとの思い出は存在しないし、思い入れも全く感じられない。
見知った顔という観点では、自分の住んでいるマンションの隣の部屋の人以下である。なぜならば、1度も会ってないから。正にそんな隣の部屋がずっと空室な状況がこれからしばらく続くのである。
【柔術家 ヨシツグ・ミナモト】
「なんか急に日本人っぽいのが出てきたんですけど、どなたですか?」
【関節・絞め技の名手 ビル・パイソン】
「パイソン……蛇……え? もしかして、蛇だから絞め技ってそんな理由で名付けられたんですか?」
「誰?」を連発させるのも芸がないからと必死で知らない人の情報に触れるショコラ。そこそこ積んだ配信経験から磨かれたツッコミトークスキルのお陰で、撮れ高とまではいかないまでも、場を繋ぐことに成功した。
【急所突き ロディ・ブラスト】
「もはや称号なのか技名なのかわからないですね」
そう、奇跡の場繋ぎが連続で成功するはずもなく、微妙なツッコミをするショコラ。やはり。クリエイティブな面に才能を振っているせいか本職のツッコミ系Vtuberにはその辺がどうしても劣ってしまう。
【鋼の肉体 ダリオ・ディーブ】
「最早攻撃手段ですらありませんね。ただ、体が硬い人じゃないですか」
『実はこのダリオが1番有能な技くれるよ』
「ええ……体がかっちかちの人から何を教わるんですか」
【悪役令嬢 モニカ・アルスター】
「お、ラスボスが出ましたね。まあ、ラスボスというか……ずっと突っかかってきた人ですけど」
【主人公 ディアナ・ユリバー】
「満を持して主人公紹介ですか。あれ? この流れだと……」
【THE END】
「終わりましたよ! 学院長とか、温泉掘りしていたハルって人はどうしたんですか?」
『奴らは所詮サブキャラ。メインで紹介されるには厚かましい存在よ』
「ええ……今、紹介されたイケメンたちよりも、温泉という有能な施設を掘り当ててくれたハルの方に愛着が沸いてるんですけど。あれでサブキャラ扱いなんですか?」
『わくのは愛着じゃなくて温泉の間違いでは?』
「わくのは温泉……なにちょっと上手いこと言おうとしてるんですか!」
ショコラブの才能の一端に嫉妬を見せながらも、場を盛り上げたことに感謝するショコラ。配信者特有の複雑な感情である。
「まあ、ゲームも終わりましたし、最後にちょろっと雑談して今日の配信はシメましょうかね。まずはこのゲームの感想ですけど、まあまあ楽しめました。この手のシミュレーションゲームは育成方法を間違えると詰んでしまうことも考えられますが……このゲームは救済措置として無敵のマッチョになれるのが良かったですね」
女性にもヘヴィゲーマーはもちろんいるものの、やはりメインとなるターゲット層はライトゲーマーが多い。そうしたライト層でも詰まないようにする救済措置がまさにこのマッチョの概念だった。ただ、当のメイン層からは主人公がマッチョ化するのは受け付けないという声があり、自主的に封印されているのだとか。
「戦闘も駆け引きの要素があって、楽しめました。こうしたシステムのゲームはまたいつかやってみたいですね。恋愛面に関しては……よくわからなかったです」
恋愛を学ぶために始めたゲームで、よくわからないという結果を残したショコラ。ただ、ショコラブからはこの配信が好評だったため、得るものは決して少なくはなかった。ただ、本来の目的のものは何1つ得ることは出来なかった。やはり、賀藤 琥珀という人間に恋愛は向いていない。ゲームにおいてもそれは健在だった。
「みな様は気に入ったイケメンはいましたか? エンディングでちょろっと映りましたが、気になる男性がいましたらぜひご自分の手で攻略してあげてください。それでは本日の配信はここまで。さよならーさよならー」
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