漢女ゲーム

💪('ω'💪)マッチョルート完結編

ラストバトル

「みな様おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。本日も漢女ゲームの続きをやっていきましょう」


 ゲームを起動させる琥珀。前回は温泉にサルが発生するサブイベントをこなしたところだった。メインイベントではないにしろ、戦闘があるイベントだったので、実に漢女ゲームらしい展開と言える。


 漢女を鍛え上げるのが目的とはいえ、元は恋愛ゲームのこのゲーム。メインの筋よりもむしろ男性キャラクターを個別に攻略するサブイベントの方が充実しているのではあるが……恋愛弱者の琥珀はものの見事にそれをスルー。乙女心を理解するという本来の目的など最初からなかったかのようなプレイスタイルである。正にこの色に染まらない人生は彼の生き方そのもの。実に琥珀らしい歩みと言える。


 図らずともRTA染みた最短ルートを辿ってしまった琥珀。そして、ゲームの終焉は刻一刻と近づいてきた。


「お、イベントが始まりましたね」


ディアナ:(そろそろこの学園に入学して1年。色々なことがあったなあ)


「色々なことですか……悪役令嬢であるモニカを締め上げたり、温泉を発掘したり、温泉に浸かっているサルを締め上げたり……まあ、色々なことがありましたね」


『サブイベントが豊富で自由度が高いからこそ、メインのイベントは薄味なんだよね』

『恋愛とは無縁のサキュバスとは一体……』

『メイドが恋愛するわけないだろ』


 「ザッザッ」と足音のSEが挿入されると次の瞬間、ディアナの目前に仮面で顔の上半分を隠した生徒が5人現れた。その生徒たちは学園の制服を身に纏ってはいるものの、男女混合の集団でディアナに近づくとニヤリと笑った。


「お、敵襲ですか!? 良いですよ。この筋肉で受けて立ちます」


『ショコラちゃんの思考が完全にマッスルに染まってて草』

『これは戦闘狂ですわ~』


ディアナ:アンタたち! 何者なの!?


仮面:あの方のために貴様を倒す!


 仮面の生徒のそのセリフと共に戦闘に入った。5対1という圧倒的不利な状況での戦闘。普通のか弱い女子なら間違いなく悲惨な結末を迎えるであろう状況ではあったものの……ディアナは普通ではなかった。


「この人たち弱いですね……」


 ショコラの適当な操作でも、駆け引きが必要ないレベルで筋肉で圧倒的にねじ伏せる。力こそパワーを体現したその一撃は確実に各個撃破していき、結果は圧勝。


 戦闘終了後のイベントが流れ始める。


ディアナ:なんで私を狙ったの? 答えて?


仮面:言えるわけが……


ディアナ:今ここで理由を言うのと、理由を言えなくなる体になるの。どっちが良い?


仮面:ぐっ……わかった。話すから胸倉掴むのやめてくれ。


 ディアナの物理的な脅しに屈した仮面の生徒は観念したのか理由を話し始める。


仮面:全てはあのお方の差し金だ。モニカ嬢。彼女がディアナをボコボコにして拉致して来いって……


ディアナ:モニカが? それは本当なの?


仮面:う……これ以上は勘弁してくれ。あんたは確かに強いけど、モニカ嬢も強いし権力もある。俺たちみたいな没落貴族の出では逆らえないんだ。


「結局、モニカって悪役令嬢が全部悪いんですね。こんな人を操って数の暴力で女性を襲う下衆なのは、ボコボコにして学院から追放してやるのがいいんですよ」


 解決方法が筋肉に染まって来たところで、イベントは終了した。そして、そのまま、ゲーム内時間が流れて……ついに最後のイベントが発生した。


 熊が出そうな森を背景にして、対峙するディアナとモニカ。2人は真剣に睨みあっている。


モニカ:ディアナ。わたくしたち、ここで決着をつけませんこと?


ディアナ:どうして、私がモニカと戦わなくてはならないの?


モニカ:理由なんて単純なことですわね。貴女が邪魔だから……貴女さえいなければ……この世代の首席はわたくしになる予定だった。学長はディアナ! 貴女を高く評価していたの! だから、貴女さえこの学院からいなくなれば……!


ディアナ:そう……なら、単純な話だね。私とあなた。戦って負けた方が学院を去る。それで文句はない?


モニカ:ええ。構いませんわ。わたくしが負けるなんてありえないこと。わざわざ、自分から学院を去る宣言をしてくださってどうもありがとうございます。


ディアナ:モニカ……最後の決着をつけよう


モニカ:ええ。泣いても笑ってもこれで最後。筋肉の赴くままに戦いましょう。


ディアナ:漢女に二言は必要ない。漢女らしく正々堂々と戦おう


モニカ:ええ。言い訳なんて小娘マドモアゼルのすること。まあ、私の筋肉が貴女の弱音すらも封殺しますわ!


 そして、戦闘が始まった。


「ついに決着がつく時が来たんですかね。それにしてもモニカ様の動機は……なんとも言えませんね。なんか正々堂々戦うみたいな雰囲気出してますけど、この人は闇討ちしたんですよね? 正規の方法で見返してやればいいのにと思います」


『それをやらないから悪役令嬢なんだよ』

『結局、そういう部分で悪の心が出るんだねえ』


 ディアナとモニカの戦闘が始まった。このモニカはラストバトルに相応しく今までよりもステータスが数段高くなっている。と言うのも、通常プレイならばこの時点で攻略対象の漢キャラのルートを制覇している頃である。その状態で、この戦闘を迎えるとそのキャラと2対1でモニカと戦うことになる。つまり、それを基準に戦闘バランスを取っているわけだから、ディアナ1人で戦うのはハッキリ言って無謀。ゲーマー的に言えば縛りプレイの域である。実際、ここまで誰とも結ばれなかったせいで詰んだという声も良く聞くほどである。


 しかし、そんな戦闘バランスも鍛え抜かれた筋肉の前では無意味。恋人を作ることで攻略する以外にもう1つの正攻法。それが筋肉! 鍛え抜かれたマッスルパワーは恋人を得ることで身に付けられる愛の力を容易く超える。むしろ、他ルートでどうしても勝てないならこのルートで挑め。そう言われる程、最も難易度が低いとプレイヤーから評されているのだ。


 モニカが攻撃を仕掛ける。しかし、マッチョパワーにより、ディアナがカウンターを食らわせる。モニカがフェイントを仕掛ける。しかし、鍛え抜かれた筋肉に小細工は通用しない。戦闘こそまともに行われてはいるものの、その実力差は象とハムスター。どちらが勝つかは戦う前から明白である。


「これで終わりです!」


 ショコラの掛け声と共にディアナが最後の一撃を叩きこみ、モニカを粉砕した。こうして、長きに渡るディアナとモニカの因縁は終わりを迎えたのであった。


 RPGのお約束として、ラスボスは第2形態、第3形態が出るものというものがあるが……流石にモンスターでもなんでもない。単なる人間が変身などしない。筋肉がメインの本作でも、登場キャラは力をパーセント刻みで解放する妖怪ではないのだ。


モニカ:がは……ま、参った……わたくしの負けですわ


ディアナ:モニカ……あなたはここまで強くなれた時点で才能はあったはず。なのにどうして、こんなくだらない真似を……


モニカ:その言葉……他の人に言われるんでしたら、とても光栄なことですわ。しかし、わたくしよりも遥かに才能がある貴女が言ったところで嫌味にしか聞こえませんわ。努力でどうにでもならないさいのう。その本人が言っても何の慰みにもなりませんの!


 モニカの言葉に思うところがあった琥珀。彼もまた自分の才能の限界を感じたことがあり、夢を諦めた経験を持っている。打ちのめされても努力すれば良い。それを第三者が言うのは簡単である。しかし、実際に才能があると信じて努力をした人間だからこそ、つまづいた時の痛みがわかるというもの。その痛みを知っている琥珀はモニカを完全に批判することはできなかった。


 琥珀は周りの人間のお陰で別の道を模索できて再起できたところはあった。もし、そうした軌道修正をしてくれる人がいなかったのなら、琥珀もモニカのように暗黒面に落ちていた。そういう未来があったのかもしれない……と彼は自戒の念を覚えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る