温泉サル軍団
モニカとの舞踏会を制したディアナはショコラの育成により、更に強さに磨きをかけていく。毎週筋トレに励み、疲労が蓄積したら温泉に入る。それを繰り返す。最早、乙女ゲームとはなんだったのか。ひたすらに己を鍛錬する漢女ゲームを漫喫しているショコラなのだった。
「温泉かー。最近行ってないですね。やっぱり、パソコンの作業ばかりしていると肩が凝りますからね。デスクワークも実は肉体的に辛いんですよね」
『わかる』
『座りっぱなしも体に悪いからねえ』
『筋肉は適度に動かした方が良い。そう、ディアナのように!』
「あはは。ディアナ様は筋肉つけすぎですよ。私も体を鍛えてマッチョになりましょうかね」
『やめて』
『今のままのキミが好きだよ』
ゲーム画面がほとんど変化しない中、雑談で場を繋ぐショコラ。Vtuberとしてゲーム実況者として、場を繋ぐためのトークスキルがきっちり身についているのだ。
いつものように温泉に入ろうとするが、ここで突如いつもと違うイベントが発生する。
ディアナ:(今日も温泉入ろう。すっかりここの温泉の常連になったなあ)
場面が切り替わり、数匹のサルが温泉に入っているスチルが表示された。そのサルは疲れた人間のオッサン並に寛いでいて、なんとも言えない表情をしている。
ディアナ:きゃ、な、なにこれ!
「なんかサルが温泉に入るイベントが始まりましたね。温泉と言えばサルという風潮もありましたが、最近ではすっかりその立ち位置もカピバラに取られてしまいましたね」
『カピバラと温泉の組み合わせことが至高』
『温泉「ごめんなさいサルさん……私、カピバラさんと一緒になります」』
『温泉の猿は好きです。でも、カピバラはもっと好きです』
『サル派の俺の形見が狭すぎる』
サルA:キー! ウキッキー!
サルB:ウキャキャー!
サルC:ウホッ! ウホホホーイ! ウッホ!
ディアナ:(サルが襲い掛かってきた!)
ディアナ:やるしかないようね!
「おっと自然な流れで戦闘に突入しましたね」
『どう見ても強引なドリブルでシュートしに行ってる感しかしないんですけど』
戦闘画面に突入すると、敵側にはサルが3匹。こちら側にはタオルを巻いているマッチョスキンのディアナがいる。
「あれ? これ、敵が複数の場合もあるんですか?」
『コマンド入力したら攻撃対象に向かって攻撃をする。防御する場合は対象の指定はなく勝手にガードしてくれる。でも、ガード成功直後はガード成功率が下がるから、複数を相手にする時はなるべく集中攻撃をして頭数を減らした方が良い』
「なるほど。そうやって戦えばいいんですね」
相手が複数ならば頭数を減らした方が敵の攻撃が緩くなって結果的に有利になる。RPGでは正に基本的な考え方であり、現実の戦いでも戦略として有効である。それだけ集団が連携した時の力は強力なのである。
「2匹のサルが防御状態……お、最初の1匹目のサルが攻撃を仕掛けてきました。これをガードして攻撃直後はガードが緩む。その隙に出が早いタックルで様子見をします!」
このゲームは防御状態という概念があるため脳死で敵の攻撃すればいいというものではない。敵全員が同じだけの能力だと仮定するならば、最初に攻撃すべきは攻撃対象の初期位置として設定されている敵ではなく……最初に攻撃してきたせっかちな間抜けなのだ。ゲームに慣れているわけでもないショコラでも、多くのゲーム実況をしてきたことで、地味に上手くなってきているのだ。
マッチョのタックルによる一撃でサルが吹っ飛ぶ。様子見の一撃であったが、マッチョ補正によりサルがダウン。数の不利を確実に詰めていく。
攻撃直後でガードが薄くなったディアナに対して、攻撃の準備をしていたサルが突撃してきた。流石に攻撃直後は隙が生まれるというゲームの絶対的仕様まではマッチョでも無視することはできない。
サルの一撃がヒットするディアナ。サルは人間よりも小さいが戦闘に特化したフォルムをしているのかまともにやれば勝てない相手だ。そのサルに攻撃されたら人間に勝ち目はない。流石にマッチョも人間だから痛覚はある。かなりのダメージを受けた……が、続いて3匹目のサルが攻撃を仕掛けてきたが、ディアナはそれにカウンターを決めて倒した。
『強すぎて草』
『サルをしばき倒す乙女とは一体……』
『3匹がかりでようやく一矢報いた。それほどまでにマッチョは強い』
『一矢報いても2匹が犠牲になってるんだよなあ……』
既に2匹のサルを倒しているディアナ。残り1匹のサルが相手になるはずもなく順当に攻撃をして乙女に襲い掛かるサルを始末した。
「ふう。倒せましたね。これマッチョだから楽に勝てましたけど、普通の状態だったら苦戦する相手ですよね?」
『このイベントは疲労度の総回復量が一定に達した後に確率で発生するイベント。温泉による回復に頼り切ったプレイヤーに対する罠みたいなもの。確率で発生だからセーブ&ロードを繰り返せばスルーできるのが救い』
「へー。そんなイベントがあったんですね。先に行ってくれれば良かったのに」
『初見殺しにあうショコラちゃんが見たくて黙ってました』
「マッチョに初見殺しは通用しないんですよ」
謎理論ではあるが、マッチョは物凄い力を秘めているので説得力がある。
ディアナ:ふう……なんとか撃破できた。全く温泉に入ろうとしたら急に襲ってくるなんて……そんなことよりお風呂に入ろう
ディアナ:……温泉にサルの毛が浮いている。なんか汚いから入りたくないなあ……
ディアナ:(私は温泉に入らずにその場を後にした。後日きちんと清掃してもらってから入ろう)
そして温泉のサルイベントは終了した。そう、ディアナは温泉に入ることができなかった。
「あれ? 疲労度が回復してません……え? ちょ、待ってください」
このイベントが発生したのは週の中頃である。その後もスケジュールをこなしていくディアナ。当然疲労は蓄積してぶっ倒れてしまった。マッチョも疲労には勝てない。筋肉に適切な休息を与えるのも必要なことだから。
ディアナ:あれ? なんか体がダルいなあ
システムメッセージ:ディアナは過度なトレーニングにより、倒れてしまった。筋力がダウン。敏捷性がダウン。魅力がダウン。
バタっとディアナが倒れて、そのペナルティとしてディアナの鍛え上げた能力が下がった。ただし、マッチョ度は下がりようがないステータスなので現状維持である。
『サルと戦うメリットはないし、イベントが発生するのは完全にデメリット。勝っても負けても損するからね』
「ぐぬぬ。こんな隙の生じぬ2段構えの罠があったなんて……」
『草』
『サルの罠に引っかかるサキュバス』
『サルと混浴は実際嫌だ。サルの後の温泉にも入りたくない』
制作者の罠に完全に嵌められてしまったショコラ。過度な筋トレは体を壊すことをゲームを通して学ぶことができた。
そろそろ配信時間も長くなり、ショコラが酷い目に遭うというオチもついたし、切るタイミングとしては丁度いいのかもしれない。そう判断したショコラは配信のシメに入ろうとする。
「そろそろ一旦配信を終わりましょうかね。ここまでご視聴して頂きありがとうございます。この後はスパチャ読みの時間ですね」
『お疲れー』
『楽しかった』
『次回配信も待ってる』
『モニカとの決着に期待』
漢女ゲームの配信は一時中断した。ストーリー的にも後少しで1年目が終わるというところまで来ている。悪役令嬢モニカとの決着は次回配信でつきそうだと有識者の方は予想をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます