普通怒られるわ(´・ω・`)
図書室の行動を終えて、残りの自由行動の回数は2回。琥珀は次の行動を取ることにした。
「次は校庭に行きましょうか」
校庭と言えば、多くの運動部がいるところだ。帰宅部の琥珀にはあんまり縁がない。小学生時代の琥珀は、昼休みに校庭で遊んだりはしたけれど、中学生からはそういう機会は段々減った。高校生にもなると休み時間に外で遊ぶ習慣を持つ人は殆どいないはずだ。
ディアナ:(校庭は校舎から少し離れたところにあるから、行くのにも一苦労だね……ん? あそこに誰かいる)
目が適当に描かれていて、出っ歯のキャラが画面に現れた。どことなく不良の手下感じがあるキャラだ。こいつは絶対に攻略対象であってほしくないと琥珀は願った。
「なんですかねえ。この明らかなモブキャラは。この人の語尾は絶対ヤンスですよ。明日のセサミのドッグフード代を賭けてもいいです」
???:ん? なんだねチミは?
「あー……チミタイプでしたか」
世の中には、なぜか「キミ」のことを「チミ」と呼ぶ人間が存在する。実在するのかどうかは知らないけど、少なくともフィクションの世界には存在している。そして、それは大抵変人キャラである。ロクでもない気配を感じつつも琥珀はメッセージを送った。
ディアナ:えっと……私はディアナです
ハル:僕の名前はハル。よろしく
『語尾がヤンスじゃないので、セサミのドッグフードは没収』
『セサミのドッグフード代の補填 \500』
賭けに負けたはずなのに、なぜか投げ銭が飛んできた。セサミの名前を出すだけでこれである。これがショコラの紅茶代を賭けていたら、投げ銭は飛んでこなかった。世の中はそういうものである。可愛いものが勝つ。そして、お犬様の可愛さにはサキュバス程度では勝てないのだ。
ディアナ:(ハルは私にも目もくれずに、いきなり校庭の隅の地面に向かって拳を叩きつけている)
ドカッドカッというSEが鳴る。
ディアナ:なにしているの?
ハル:温泉を掘っているんだよ
ディアナ:温泉……?
ハル:僕はこの辺の地質を研究していてね。僕の研究によるとこの校庭には温泉が埋まってる
ディアナ:(そんなバカな……)
ハル:だから、僕の鍛え抜かれた拳で土を掘っているのだ
「意味が分かりませんね。やっぱり、チミとか言い出す奴にはロクな人間がいません。素手で温泉が掘れるわけないでしょ」
ショコラ(琥珀)の真っ当なツッコミが入る。そして、そのツッコミをした時に琥珀はとんでもない事実に気づいてしまった。
「え? ちょっと待って下さい。この人の名前、“ハル”ですけど……ハルは英語にすると“spring”。そして、温泉は“hot spring”。え? もしかして、このキャラの名前ってそこから来ているんですけ? 怖っ」
確かに、制作者が温泉と関連するという理由で適当に決めた名前である。しかし、制作者の名前が“賀藤”だから、“ショコラ”と名付けられたサキュバスにだけは言う権利はない。
『そこに気づくとは……天才じゃったか!!』
『だったら、バネでいいじゃん』
ディアナ:やれやれ。そんな素手で惚れるわけがないでしょ
「そうですよ。もっと言ってやってくださいよディアナ」
ディアナ:どいて。パンチとはこうやって打つんだよ!
ディアナが地面に向かってパンチを放つスチルが表示された。このスチルもマッチョ仕様になっている芸の細かさである。地面にはそこそこの大きさのクレーターができている。実は、このクレーターの大きさもマッチョ度の大小によって変化するという無駄な芸の細かさである。制作者は明らかに力を入れるところが間違っている。
「ええ……なんですか。この脳筋展開」
システムメッセージとして、【ディアナは“大地砕き”を覚えた】と出た。
「おお、新必殺技を覚えましたよ。新しい必殺技を覚えるイベントだったんですね」
ハル:おお、流石だねチミ。そのパワーを見込んでお願いがあるんだけどいいかな? 僕は定期的にここで温泉を掘っているから、手伝ってくれると嬉しいな。手が空いた時でいいからさ
ディアナ:そうだね。気が向いた時に来るよ
【温泉掘りイベントが解禁されました。校庭に行く度にハルの手伝いをすることができます。進捗度が100%になったら、“温泉施設”が解放されます(現在25/100%)】というシステムメッセージが表示された。
「ええ……温泉施設を解放したいなら、まだ校庭に行かなきゃいけないんですか?」
校庭でのイベントが終わり、残りの自由行動の回数は1回。仮にも乙女ゲームだから、語尾がヤンスっぽい顔のモブと戯れているよりかは攻略対象のキャラを画面に映したい欲がある琥珀。しかし、新しい施設の解放というワクワクするような要素を目の前にしたら、それを目指さないわけにはいかない。琥珀は迷うことなく、校庭を選んだ。
ハル:でやあ!
ディアナ:ソイヤソイヤ! ハッハ!
【温泉掘りが進んだ。(現在50/100%)】というメッセージを見て、琥珀はホっとした。
「良かった。ちゃんと25パーセントずつ動いていますね。ということは、後2回訪れれば温泉施設は解放されますね」
『温泉施設ということはサービスシーンがあるんですかね?』
「あー。サービスシーンはどうなんでしょうかね。あるんですかね?」
『騙されるな。このゲームはギャルゲーじゃない。乙女ゲームだ。つまり、サービスシーンがあるとしたら、漢たちの入浴シーン……ヨシ!』
なにを見て「ヨシ!」と言ったのかわからない。ちなみにこのコメントをした主は20代男性である。
「大丈夫ですか? サイトの規約的にBANされないですかね? もし、そういうシーンが出てきそうな雰囲気があったら、一旦配信画面を真っ暗にして私だけ確認しましょうか?」
『BANを恐れるサキュバス』
『これだけ炎上してても、BANされてないから平気平気』
少し不安になりながらも、来週のスケジュールを立てるパートになった。ショコラは先程と同じようなスケジュールを実行して、自由行動には校庭に向かうことにした。
2回の行動を犠牲にして、ついに温泉が湧き出る瞬間が……
ディアナ:とりゃーーーー!!
ディアナ:(私の力、心が高まる。温泉だけじゃない。私の中の新しい何かが湧いてくる!)
【ディアナの“大地砕き”は“大地砕き・改”に進化した】
「ええ……1度も技を使ってないのに、勝手に進化した」
ゲームあるある。新武器、新技の入手からの、その強化が早すぎて、強化前の状態を使える期間が短すぎる。
ディアナのパンチによって、温泉が勢いよく噴き出た。その異様な光景に生徒たちが集まってきた。
男子生徒:なんだなんだ?
女子生徒:校庭に温泉が湧いてる?
男子生徒:甘いな。俺の家の庭からは石油が出てるぜ
「わー。石油王の息子いいなー。お屋敷の庭にも石油が出ませんかねえ」
『ショコラちゃんに油田与えたら秒で炎上しそう』
『炎上不可避』
『お屋敷はよく燃えますね』
炎上芸を理解し尽くしているショコラブ勢。油田が発見されたらというIFの話でさえ、オチを完璧を読むのは流石に訓練されすぎである。
先生:なんだこの騒ぎは……! これは温泉か! ふむ……早速、温泉施設を作るか
【温泉施設が完成した! 1週間に1度入ることが可能】
「そうはならんやろ」
『なっとるやろがい!』
「お、自由行動で行けるところに温泉施設が増えてますね。ちょっと試しに行ってみましょうか」
【ディアナは温泉に入った。疲労度が最大まで回復した】というメッセージと共に本当にディアナの疲労度が回復した。休憩ですら完全に回復しないのに。
「おお、疲労が最大まで回復するのはありがたいですね。わざわざ休憩コマンドを挟まなくても、自由行動を挟めば疲労度を回復できますし……あれ? これって休憩いらなくなったってことですか?」
『お気づきになられましたか』
『週1の制約を差し引いても強くないですかね』
このゲームには死にステがなかった。しかし、死にコマンドはあったようである。
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