漢女ゲーム

💪('ω'💪)マッチョルート冒頭

漢女ゲームの有識者

 漢女ゲームの配信が地味に好評だったので、琥珀はまた漢女ゲームの配信をすることにした。


「あー……あー。みな様おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです」


『ショコラちゃんおはよう』

『妙だな。ショコラちゃんがマッチョじゃない』

『サキュバスがマッチョになるわけないんだよな』

『マッチョスキンの実装まだ?』


 配信するゲームタイトルが乙女がムキムキマッチョの漢女になるゲームだけに、マッチョを期待する声が多かった。というより、コンペの影響でマッチョの魅力に取りつかれた層もいるのだ。恐るべしマッチョ沼。


「私はマッチョになりませんよ。マッチョスキンは筋肉量を変えなきゃいけないから実装は難しいですね。実装したところで、どうせみな様買わないんでしょ?」


 ショコラブ七不思議の1つ。投げ銭に対する財布の紐は緩いのに、頑なにショコラの3Dモデルをダウンロード購入しないファンが存在すること。投げ銭の合計額で3Dモデルを10体ほど買える人もいるのだ。


『別衣装なら買うかもしれないけど、マッチョを買う勇気はないかな』


 希少なショコラの3Dモデルを買ってくれる層も流石にマッチョの層と被ってはいなかった。


「それでは、漢女ゲームの続きをしていきますよ。前回はフェイントを覚えたモニカを倒したところですね。では、続きをやっていきましょう」


 マッチョを避けるために、戦闘能力を重点的に鍛えられたディアナだったが、それが裏目に出て結局マッチョ化の道を歩むことになってしまったのだ。ディアナはこれ以上マッチョ度を上げられてしまうのか。それは、今後の琥珀のゲーマーとしての腕にかかっている。


「訓練メニューを変えましょうかね。知力を上げるために勉強をまざなきゃいけないし……これって生命力(HP)と防御力ってどうやって上げればいいんですかね? メインで上げられる訓練ありませんよ?」


『このゲームはディアナの耐久力上げる方法は少ない。筋トレで防御力が微増。走り込みで生命力が微増。訓練で上がるのはこれだけ』


「え? 耐久力上げる方法少ないんですか? 耐久力なんて大体どのゲームでも重要ステータスじゃないですか」


 大体のゲームは敵から攻撃を受けるデザインになっている。つまり、敵の攻撃を何発受けても耐えられるキャラはそれだけで強いということになる。特にHPの値は重要で、この数値が1だと俗に言うオワタ式と呼ばれる状態になる。砂嵐が吹いたり、天気が霰になっただけで死ぬモンスターも世の中には存在するらしい。


『耐久力を上げる方法は実戦が一番効率が良いけど、実戦だとマッチョ度以外のステータスが万遍なく上がるから、結局相対的にディアナは紙装甲になるように設計されている』


「ええ……なんですかそれ。だとすると、このゲームは後半になると1発の攻撃が致命傷になるということじゃないですか」


『このゲームは攻撃を受けないことが重要だから、択ゲーを制するしかない。そして、択ゲーを制するには知力を上げた方がいい』


「結構、上振れや下振れで勝敗がたゆたってそうですね。運が良ければ格上にも勝てるけど、運が悪ければ鍛え上げたキャラでも負ける可能性があるんですか……」


 このゲームをデザインした人物に文句を言いたくなるショコラ。開発者としては、人間は筋肉をつけて攻撃力を上げることは容易だけど、防御力を固くするのは難しい。だから、防御や回避行動が重要だというリアリティを追求したつもりなのだ。


 だが、どんなゲームにも救済措置というものが存在している。このゲームの有識者ショコラブはあえて助言しなかったが、これさえ取得してしまえばゲームクリアは確実だというチートスキルが存在するのだ。


 このゲームは攻略対象のキャラを上げることで得られるスキルがある。攻略対象の1人であるダリオ。彼の好感度を一定以上上げると、皮膚を硬化させて防御力を大幅に上昇させるスキルを会得できるのだ。これにより、打撃攻撃はほぼほぼ完封できる恐ろしいスキルである。


 ダリオは典型的なツンデレの俺様キャラで、好感度を上げるのは他の攻略対象のキャラに比べて難しい。その分、得られるスキルが強く設定されているというバランス調整なのだけれど……スキルが強すぎるが故に、このゲームのファンの間では『制作者の贔屓』『ダリオはプロデューサーと寝た』とすら言われているのだ。


 このスキルの強さを知っている者は真っ先にダリオの好感度を上げる。攻略wikiにも大々的に書かれているレベルだ。そのため、知っているが故にプレイの幅を制限されてしまう危険性がある。有識者ショコラブは、ショコラに純粋にスキルの有用性抜きに攻略対象とのイベントを楽しんで欲しいという想いから、あえて黙っていたのだ。


「まあ、とりあえず自由行動をしてみましょうか。仮にも乙女ゲームですから、イケメンとデートできるんですよね?」


 一週間の予定の中に自由行動を組み込んで。ショコラはスケジュールを実行させた。自由行動にぶち当たった時に、このゲーム最初の自由行動が開始された。丁寧に自由行動の解説が画面に表示される。


・自由行動について

 自由行動は、指定した場所に向かうことができます。向かった先でイベントが発生するかもしれません。またイベントを起こすことで新たに解放されるイベントや施設もあります。

 1度の自由行動で移動できる回数は3回までです。

 また、攻略対象キャラの好感度を上げると、そのキャラの居場所が表示されやすくなります。


「ふむ。なるほど。狙っているキャラを更に狙いやすくなるシステムが搭載されているんですね。さて、どこに行きましょうかね。中庭、校庭、教室、購買部、屋上、音楽室、美術室……色々ありますね。女子トイレ……? 自由行動でわざわざ行く場所なんですかね?」


『女子トイレはモブ女子の噂話が聞ける場所。割と有能な施設』


「へー。そうなんですか。でも、折角の乙女ゲームですし、モブの女子生徒と構っているのもアレですね。攻略対象のキャラを探しましょう。まずは図書室に行きましょうか」


 ディアナは図書室に向かった。しかし、そこには攻略対象のキャラはいなくて、お目当てのイベントは発生しなかった。


 しかし、行動自体は無駄になったわけではなく、図書室での限定イベントが発生した。


ディアナ:何の本を読もうかな


 ここで選択肢が表示された。


 【ファッション誌】

 【脳を鍛える本】

 【よくわかる筋トレ】

 【お爺ちゃんでもできるランニング法】

 【奥義書】


「5択ですか……私としては、奥義書が気になるところですね。これ読んだら、新しい技を覚えるんじゃないんですか?」


『どの本も有用だから、好きな本読んでいいよ』


「ありがとうございます。有識者様。それでは、気になっている奥義書を読みましょうか」


 【ディアナは奥義書を読んだ。技の威力が上がった。】


「技の威力……? どういうことですか? 単純に強くなったってことでいいんですか?」


『悪質タックルとかが強くなったってことだよ。通常攻撃の威力は変わらない。今覚えている技だけじゃなくて、今後覚える技にも影響する』


「なるほど。そういう仕様ですか。それなら早い段階で読んでも大丈夫ですね」


 ゲームの中には取り返しのつかない要素というものが存在する。ステータスを上げるドーピングアイテムをスタメン落ちするような弱いキャラや永久離脱するキャラに与えてしまったり……この技の威力を上げる本が今覚えている技のみを対象にしていたら、そういう悲劇が起こっていた可能性は十分あるのだ。そういう点では、ユーザーに優しい設計にはなっていた。

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