水平思考クイズ

『水平思考クイズ』【守れてえらい】①

 リドルトライアルのサブチャンネルの方で投稿されることになった佐治の第2問。第1問は佐治が下ネタに入ったがためにお蔵入り確定となったので、佐治の2段構えの攻撃が炸裂することになる。


「それでは、佐治行きます。タイトルは【守れてえらい】」


「J-POPの歌詞、君を守りすぎ問題」


「はい、そこ獅子王君。水を差すんじゃない。獅子王君は自分の翼でも広げてなさい」


 タイトルに茶々をいれてくる獅子王に佐治はJ-POPあるある返しをした。


『男と女は同じ時間に同じものを見ていた。

 男はその“もの”の全てを見れたが、女は全てを見ることができなかった。

 なぜだろう?』


「はい、男は女の目の前にいるか?」


「いいえ」


 先陣を切ったのはコクマー。男と女の位置関係を突き止めようとするが、いいえと返ってきた。コクマーは一旦、男と女の位置関係が特に重要ではないと判断して、次の詰め方を思考することにした。


「男と女は知り合いか?」


「ノー……いや、関係ないで返すか。想定ではノーだけど、イエスでも成り立つからな。獅子王君」


「なるほど……」


「質問いいですか? 全てを見れない……というのは、物体の一部が隠れていたということですか?」


「いや、ノーだね。ショコラちゃん。いい質問だ」


 物体の一部は隠れていなかった。けれど、女はその“もの”の全て見ることができなかった。そこに妙な引っ掛かりを覚えるショコラ。ショコラの考えでは、物が隠れているからこそ、女は全部を見ることが出来なかったと解釈していた。しかし、物体が隠れていないのなら、なぜ見えなかったのかという問題が浮上する。


「えっと……女は視力に問題はありましたか?」


「いいえ、ないよビナーちゃん」


「じゃあ、視力以外に体の不調はあったかい?」


「ないぞ。アウル君」


 女の視力や身体的機能に特に問題はない。それでも女はその全てを見ることができなかったのだ。


「ふむ……なるほど。ものは時間と共に変化していくものか?」


「おお。イエスだね。いい質問だコクマー君」


 時間と共に変化していくもの。それで1つの謎が解けたという顔をするコクマー。他のメンバーもどういう状況か気づいたようだ。


「女はそのモノの変化を最後まで見れなかったということか?」


「はい。そう捉えてもらっても構わない」


 コクマーの追撃の質問で、1つの真実が明らかになった。ものの全てを見ることが出来なかったということは、物理的に1部分が見えなかったわけではない。時間経過と共に変化していくものを女だけが最後まで見れなかったということだ。


「なるほど。ちょっと解答言ってもいいかな?」


「どうぞ獅子王君」


「男と女は夫婦だった。彼らの間には子供がいた。男と女は同じ時間を共有していたので子供の成長を同時に見ていたけれど、女に不幸が訪れて遠くの世界へ旅立ってしまった。男は子供の成長を最後まで見ることはできたけど、女はそれを見ることが叶わなかった」


「全然ちゃうよ獅子王君。そんな悲しいお話じゃないから」


「え? でもちょっと掠ったところはあるんじゃない?」


「ない」


 しつこく食い下がる獅子王に無慈悲な一言を言う佐治。


「同じ時間を夫婦で共有している時間だと解釈したのはロマンティックだと思わない」


「ない」


「佐治ちゃんのバーカ!」


 出題者として正当な回答をしているのにも関わらず理不尽な罵倒された佐治。仮にも高学歴の佐治に思いきりバカと言えるのは、同じく高学歴の獅子王くらいなものだ。


「いや待てよ……佐治。質問だ。男と女は同じ場所にいるかな?」


「いいえ。男と女は違う場所にいます」


 ここで明かされるもう1つの真実。男と女は同じ場所、空間にはいないのだ。それでも同じ時間に同じものを見ていた。この奇妙な状況を解決しなければ、この問題は解くことはできない。


「おお、ナイス! アウルちゃん! 愛してる!」


「やめて気持ち悪い。さっきの獅子王の夫婦の時間共有の誤答でピンときた。問題文には同じ時間と書かれていたのに、同じ場所とまでは書かれていなかった。同じ時間を共有していたことを書いていたのに、場所がどうであるのか書かないのは不自然だからね」


「なるほど……これは盲点だったかな。男が女の目の前にいない時点で位置関係は重要ではないと判断したのは失策だったか」


 コクマーは自身の凝り固まった思考を猛省した。もう少し位置関係を深掘りすれば、もっと早くこの事実に辿り着いていたのかもしれないと思うと悔しい気持ちになる。流石に涙が止まらないほどではないけれど。


「あのー。男と女が見ていたのは映像ですか?」


 ビナーが恐る恐る尋ねる。


「イエス! いい質問だ! 正に男と女は映像を見ていた」


 ビナーの特定にその場が「おお」っと盛り上がった。かなり重要な要素が出て、いよいよ大詰めの段階に入った空気が出た。


「映像はテレビで放送されているものですか?」


「いいえ」


 獅子王の質問をいいえで返す佐治。違う場所にいる人物が同時に映像を見る方法や媒体は意外と多くない。それらを1つ1つ潰していけば必ず真実に辿り着く。


「映像は映画かい?」


「いいえ」


 コクマーの質問も違う。違う映画館でも同じ時刻で同じ映画が放映されることも有りえたかもしれない。その可能性が潰れたとなると……


「映像はネット配信されているものですか?」


「はい。ショコラちゃんナイスゥ!」


 映像の正体まで特定された。普通に考えれば、かなり佐治を追いつめている状態である。ちなみに作者がこの問題を過去に出した時は、ここまで特定するのにもそれなりに時間がかかったし、ここから先も沼って中々真相に辿り着けなかった。それが水平思考クイズの怖いところなんですよ。


「あ、わかりました。解答言っていいですか?」


「どうぞ」


 ビナーが積極的に動く。ショコラは後方腕組母親面をしてビナーを見守る。


「男は動画投稿者です。女はそのリスナーで、男が投稿していた動画を見ていたんです。でも、その動画の映像はカット編集されていたもので、男は編集前の全体を見ることはできたけれど、女は編集された動画しか見ることができなかった」


「なるほど。ビナーちゃん良い線行ってるね。さっきの獅子王君の解答より1正倍近い」


「おい! そこはせめて、百倍にせんかい!」


「おいこら、僕の問題を弄るな!」


 先程のアウルの問題を弄る佐治と獅子王。忘れている人のために言うと、福下アウツは一正という名前がとんでもなく多い数だとする旨の問題を出したのだ。


「だめですか?」


 ビナーがか弱い声を佐治に送った。その可愛らしさに免じて佐治はあるアドバイスをしようとする。


「ビナーちゃんの解答で不十分な点は、男と女は違う場所にいたけど、“同時に”映像を見ているということだ。好きな時間に再生できる投稿動画を投稿者と同時再生するなんて偶然は滅多に起こらないよ。それに男が無編集動画をチェックしたタイミングと女が編集済みをチェックしたタイミングは必ずズレるからね」


「あ、そうですね。そこの前提が抜けてました。すみません」


「いや、別に謝ることじゃないよ。そうした前提条件を忘れるなんてことは、やり慣れている人でも起こりえるからね。ビナーちゃんは初心者だし仕方ない」


 経験者の余裕を見せて優しい世界を創り出す佐治。ちなみに、獅子王が同じような答えを言っていたら、「前提条件忘れてんじゃねえよ」とボロクソにこき下ろしていた。同じ失敗でも、関係性によって許される人と許されない人がいる。世の中とは理不尽なものである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る