CLOSED PANDEMIC編 第16話 ハゲやるやん!

 ゲームを再開させる琥珀。今度はニコラス探す選択肢を取る。(ニコラスは俺の命を助けてくれたこともあった。あいつを見捨てて帰ることはできない)と決まっている顔を画面に見せつける主人公。しかし、プレイヤーは知っている。この主人公は、いざという時は相棒を見捨てるやつだということを。


 そして、開始される突然開始される【ミッション;ニコラスを探せ】。なお、主人公を操作可能になっても、ニコラスの場所に関しては一切ノーヒントである。最近のゲームにしては、珍しく不親切な仕様だ。


「まあ、多分降りられなくなった地下室にいるんじゃないかな」


「ああ、私もそう思う」


 師弟は揃って同じことを思っていたようで、システム上行けなくなっていた地下へと向かう主人公。今度は、用はないとか言い出さずに普通に地下室へと降りて行った。なら、さっきも降りろと突っ込みたくなる状況ではあるが、仕方ない。状況が変わったのだ。あの時は、ヒルダを捕まえるという目的もあった。閉じられていた地下室には、絶対にヒルダはいないので、主人公の判断は正しいと言える。


 地下室に入れるようになってはいる……が、そこには生きている熊の姿もニコラスの姿もなかった。別個体の死んでいる熊は相変わらずそこにある。


 主人公が熊の死体を調べる。その時にしゃがむ動作をした。【K-UMAの死体だ】という何の変哲もないシステムメッセージが流れた……その後に、【近くに隙間風が吹いているようだ】というメッセージが表示された。


「お!」


 琥珀は思わず声をあげた。次のエリアへと進める重要なヒントのようだと判断して、熊の死体の近くを調べた。周囲にあったのは、匍匐前進ほふくぜんしんなら通れるであろう程度の位置と高さの隠し通路であった。主人公の懐中電灯の光をその中心付近に持っていくとイベントムービーが始まった。


 「こんなところに道があるなんてな」と主人公がしゃがむ。床には熊のものと思われる毛が落ちていて、主人公がそれを拾った。(ニコラスがここから逃げて、熊がそれを追ったのかもしれない)と主人公は考察して、匍匐前進で隠し通路を進んでいった。


 30メートルほど進めば、開けた地下道へと出る。二足歩行で立っても問題ない高さなので主人公は立ち上がる。地下道の電気はなぜか生きていた。主人公が道なりに進むと、現実世界で存在するかどうかわからない怪物が出てきた。


「ひい! なにアレ!」


 異形の怪物を見て、ビックリする夏帆。


「アレはチュパカブラだな。UMAの一種だ。家畜や人間を襲い、血を吸うとされている」


 操が冷静に解説をした。クリエイター業界に携わっているお陰なのか、そういう創作に役立ちそうな知識はあるのだ。


 チュパカブラは主人公を見つけると襲い掛かってきた。


「ひい! なんで襲ってくるのこいつ。主人公は、マクシミリアンの血で襲われないんじゃなかったの?」


「それは、感染者と熊だけ……チュパカブラは感染者じゃないから、普通に襲ってくるんだ」


 夏帆の疑問に答える琥珀。絶対に敵に襲われなくなったプレイヤーに対して、不意打ちで対抗する存在。感染者と熊以外の敵がいることは、森で戦った蜘蛛から既に示唆されていたので、突拍子もないことはない。しっかりと、まだ脅威は去っていないことを想像させるだけの伏線は張られていたのだ。


 琥珀は主人公を操作して、チュパカブラに2発の弾丸を打ち込んだ。最初の一発は胴体に、そして、ダメージを受けて鈍くなったチュパカブラに止めの1発を頭部に撃ち込み、ヘッドショットを狙った。流石のUMAチュパカブラもヘッドショットには耐えられずにそのまま血を流して倒れた。


「ふう……やっぱりいきなりヘッドショット狙うのは苦手だな」


 草原活動以来、ちょくちょくとFPSを練習していた琥珀。現在ではバトロワ系統でも順位1桁を安定して取れるようになっている程、上達はしている。しかし、ヘッドショットのコントロールはあまり上手くないのだ。


 勇海さんなら、1発で倒せていたんだろうなと思う琥珀。そのままチュパカブラの死体を放置して先に進んだ。


 道中で数匹のチュパカブラと出会い、それらも倒していく主人公。珍しいUMAだとろうとお構いなく倒すその様は完全に正義サイドの人間ではない。


 「うわああ」と叫び声がする。ニコラスの声だ。主人公が大急ぎて駆けだす。道の行き止まりで熊に追い詰められているニコラスの姿がそこにあった。主人公は咄嗟に熊を銃で撃った。熊は銃弾を受けるが、ほぼほぼ無傷。銃を撃たれたことで、熊は主人公の存在に気づいた。そして、大きな口を開けて襲い掛かってきた。


「なにこれ! 感染者は襲わないんじゃなかったの!」


 熊の凶暴な顔を見て、操に抱き着いた夏帆。それほどまでにこの熊の顔は狂暴だった。


「攻撃を加えたなら、感染してようとしてないと関係ないってことなのかな」


 こうして、主人公と熊の最終決戦がついに始まった。(このまま逃げることはできない。匍匐前進しなきゃこの場所からは逃げられないし、体勢を変えている間に熊に追いつかれてしまう。戦うしかない!)と決意する主人公。なぜか、今まで逃げていた相手に逃げずに立ち向かう展開になる。一種のホラーゲームあるあるである。


 物凄い速さで距離を詰めてくる熊。琥珀はヘッドショットを試みるために、主人公の照準を頭に合わせる。1発、2発、3発と撃つ。その内の2発が頭に命中するが、それでも熊は少し怯んだ程度で倒せない。熊の歩みは止まらずに主人公に攻撃が届く距離まで来た。


 その時だった。銃声が聞こえて、熊の動きが一瞬止まった。熊の後方にいたニコラスが銃を構えていて主人公と視線が合うとニヤリと笑った。


「ナイス、ハゲ! 流石ハゲ!」


 ニコラスを称える夏帆。でも、名前では呼ばない。


 今度はニコラスに撃たれて頭に来た熊。再び、ニコラスの方に襲い掛かる。


 琥珀はその様子を見て、このゲームの攻略法を瞬時に理解した。これは、もうそういうゲームなのだ。ニコラスに向かっている間に銃をリロードしておく。そして、十分にニコラスが熊を引き付けて、射程距離に入った瞬間、琥珀は主人公に銃を撃たせた。


 熊もまたしても動きが止まり、攻撃した相手を睨む。そして、また咆哮をあげて、銃を撃った主人公の方向へと走っていった。


 これがこのゲームのラストバトルのギミック。このゲームのファンの間では、シャトルランと呼ばれている戦闘だ。主人公と相棒が絶対的強者を挟み撃ちにして、なんとかして倒す。ある種の協力プレイとも言うし、卑怯な戦い方とも言える。そして、熊がアホな戦いとも称されてもいる。


 主人公がまた熊に攻撃されそうになった時に、ニコラスが熊を撃ち抜いた。その時に熊の攻撃対象が近くの主人公ではなく、銃を撃ったニコラスに移る。これを繰り返していくと、やがて熊の動きが鈍化してくる。スタミナ切れか、ダメージが蓄積されたからそうなったのか、あるいはその両方が起こり、段々と弱体化していく熊。その熊を挟んでいる2人が同時に撃つ。


 無敵の熊も一連の攻撃に耐えきれずにバタっと倒れた。ピクピクと痙攣している熊。やがて、その痙攣も止まりグタっとして動かなくなる。ニコラスは熊の動きが完全に停止したのを確認して、熊の近くを横切り主人公の元へと駆け寄った。


 「助かったぜ! アンバー。やっぱり持つべきものは相棒だな!」とニコラスがアンバーの胸部を肘で軽く突いた。「俺がお前を見捨てるわけがないだろ。変異株持ち2人を捕まえた。さっさとこの村を出るぞ」と主人公。ニコラスはそれに頷いた。


 「あ、そうだ」と主人公が血液が入った注射器をニコラスに見せた。「この血を体にかけると熊に襲われなくなるらしいんだ。また別の個体の熊がいるかもしれない。念のためつけとけ」と主人公の言葉を受けたニコラスは「ああ、助かる」とヒルダの血を少量体につけた。

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