CLOSED PANDEMIC編

チャプター4

CLOSED PANDEMIC編 第12話 UMAを確認するのは不可能。なぜならば、確認した時点で未確認生物ではなくなるからだ

 また例によって、琥珀の部屋に夏帆と操が集まって、ゲームをする流れとなった。と言っても、プレイするのは琥珀だけで、夏帆と操は見ているだけのスタイル。夏帆は、自分では進められないゲームを楽しんで、操は琥珀と一緒にいる時間を楽しむ。そういう時間なのだ。


 ゲームを再開するとチャプター4になる。電気系統が死んでいる地下室で、主人公とニコラスは懐中電灯を点けた。


 「地下室はそんなに広くない。手分けして探すよりも、2人でじっくり探索した方がいいかもな」と提案するニコラスに、主人公は頷いた。暗闇の中、光源は自身の懐中電灯だけ。暗いところを恐る恐る探索するという趣旨のステージだ。


 ずかずかと前へ前へと進んでいく琥珀。それに対して、夏帆は少し怯えている。


「賀藤君。暗いのによくそんなにサクサク探索できるね」


「ホラーゲームに暗いステージはよくあることだし、逆に周りの景色が見えない方が俺はやりやすいかな。景色が見えるとついつい、クリエイター目線でグラフィックの出来をチェックしちゃうし」


 最早、暗闇という状況がハンデになっていない琥珀。むしろ、明るい時よりもサクサク進んでいる節はある。


 主人公が探索していると手記を見つけた。


――

『ベイカー医師が閉じ込められて何週間経ったのだろうか。流石に彼女はもう生きていないだろう。仮に、例のウイルスに感染していたところで不老になるだけで不死になるわけではない。彼女には悪いが、スケープゴートになってもらうしかない。全ての責任を彼女に押し付けて、他の研究員でウイルスの研究を続けるしかない。幸い、この地下室の存在は村人には知られていない。ここでなら、研究を続行できる。変異株さえできれば、政府はきっと我々を助けてくれるはずだ。それまでの辛抱だ』


『日に日に感染者は増えていく。感染者は感染してない我々は襲うのに、感染者同士では不思議と争うことはなかった。試しに同僚のアホ1匹が、感染者の真似して、「うーあー」とか言いながらゆっくり歩いていたら、バレて普通に食われていた。あいつはバカだ』


『ベイカー医師亡き今、いつまでもあの老人少女を生かしておく必要はない。あいつも実験台にしてやろう。奇病を患っている状態でウイルスに感染したらどうなるのか。興味が湧いてきた』


『やった! ベイカー医師の娘。ヒルダ・ベイカーが正気を保ったままの、若返りに成功した。まだ、確定ではないが恐らくウイルスが変異したのだろう。彼女の体からウイルスを抜き取り、研究をしよう』


『ヒルダと同年代の少年、マクシミリアンにヒルダから採取したウイルスを感染させた。彼はまだ若年だから若返りの効果は確認できない。だが、体内にウイルスが増殖しているはずなのに彼は正気を保っている。それに、マクシミリアンは他の感染者の前に出しても全く襲われない。実験は成功だ。次は私にウイルスを入れてやる』


『私は若返った。地下室の階段を往復するだけで息切れしていた老体が20代の頃の身体能力と遜色ないレベルまでになった。顔の皺や弛みも消えて、鏡を見ても好青年しか映っていない。だが、私の頭部はハゲているままだ。なぜだ! 変異前は髪を生やす作用があったはずなのに!』


『これで私の記録は最後になるかもしれない。変異株に髪を生やす効果がないと知った今、この変異株に期待するのは無駄だ。だから、私は変異する前のウイルスを自身の体内にいれることにする。大丈夫だ。変異株に感染しているヒルダとマクシミリアンは変異前のウイルスが蔓延している中で普通に生活できている。正気を失うことはないはずだ。だから、私は注射を打つ。髪が生えることを信じて……大丈夫。次の記録も残せるはずだ』


 手記はここで終わっている……


――


 この手記を読んで主人公は「ぷっ」と笑った。その視線は明らかにニコラスの頭に向いている。「残念だったなニコラス。変異株にはハゲを治す効果はないってよ」と主人公が煽る。ニコラスは「うるせえ!」と言いながら、主人公にヘッドロックを決める。バカな男子中学生のように「わーきゃー」言いながらじゃれ合う成人男性2人。


「悪人同士がじゃれ合っている……」


 夏帆がこの異様な光景を見て、唖然とした。


「実際、悪人の方が仲間同士でつるむと私は思うぞ。田舎に行けばわかる。夜のコンビニの前でじゃれ合っているヤンキーが生息しているってな」


 操は遠い目をしながらそう語った。資料集めで田舎の写真を撮りに旅行に行った時の夜。コンビニに行きたかったのに、ヤンキーが入口を占拠していて入れなかった過去を思い出す操。


「都会だと夜でも街が明るいから、ヤンキーもあちこちに分散されますからね。田舎は夜は暗いから、明るいコンビニに集まるしかないんでしょう」


 琥珀も操の発言に乗っかる。ホラーゲーム中なのに、なぜかヤンキーの生態について分析する流れになった。


 じゃれ合いイベントが終了後、再び操作が可能になる。まだ地下室は探索してない場所がある。琥珀は探索を続ける。


 ある地点に行くと急にムービーが流れた。主人公が前方を懐中電灯で照らすと、熊の怪物がそこにいた。「うわあ!」と叫んで腰を抜かすニコラス。主人公は懐中電灯を持っていない方の手で銃を構える。しかし、熊は全く反応を示さなかった。


 主人公は恐る恐る熊に近づく。ゆっくり、慎重に1歩1歩。そして、熊に触れた。次の瞬間、熊はボテっと力なく倒れて全く動かない。数発熊の頭に蹴りを入れる主人公。それでも熊は反応を示さない。熊の首元に手を当てて主人公は首を横に振った。


「残念ですが、この熊はお亡くなりになってます」とニコラスに向けて言う主人公。ニコラスはその言葉を聞いて安心した。「ケッ驚かせやがって」と言い、立ち上がて熊の後頭部にかかと落としを決めた。


「なんなのこの粗暴な連中は! いくら死んでるとはいえ、熊がかわいそうじゃない!」


 死者に対する冒涜ぼうとくを平然とする主人公とニコラスに夏帆も御立腹だ。


 「なにかあるぞ」と主人公が言い、熊の右腕を持ち上げる。熊の右手には端が破れた紙が握られていた。熊の手から紙を奪う主人公。そして、紙を見ると熊の写真と写真の下部に『未確認生物コードK。通称K-UMA』と書かれていた。


 主人公たちは特にそれにリアクションすることなく、ムービーは終了。再び操作を受け付けるようになった。


「うーむ」


 操が口元に手を持っていき、何やら考え込んでいる。


「この地下室は鍵がかかっていた。そして、この地下室はウイルスの研究施設だとさっきの手記で判明している。そんな場所にどうして熊がいたんだろうな」


「謎ですね。でも、それがこの熊の正体に繋がるのかもしれないですね」


 今のところ判明している答えは下記の通りだ。

【感染者は感染者(変異株を含む)を襲わない】

【熊も感染者(変異株を含む)を襲わない】

【熊の死骸がウイルスを研究している地下室から発見された】

【熊は未確認生物(UMA)であった】


 勘の良いものは、既に1つの真実に辿り着いているかもしれない。


 道なりに進むと、ニコラスが急にこけた。「いてて」と言うニコラス。彼の足元に、黄ばんだ紙が散乱していた。ニコラスは、それを踏んで滑って転んだのだ。「なんだこの紙は」と主人公がその紙を手にした瞬間、出入り口の方向から猛獣の唸り声が聞こえた。


 出入口の方向を照らす主人公。そこには、階段を降りてきた熊がいたのだ! 逃げ場が少ない狭い地下。正に絶体絶命の状況に、主人公とニコラスの表情が引きつった。

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