第3位 セサミ

『三傑会議』

「ゲースゲスゲスゲスゲス」


 お屋敷にある30平米程の犬小屋にて、セサミの真ん中の首が気味の悪い笑い声をあげていた。


「どうしたでヤンスか」


 セサミの右側の顔がゲスな首の奇行に触れた。真ん中のゲスは急に笑うのをやめて、真顔になる。


「急に冷静になるのやめて欲しいでヤンス」


「右側は知らないでゲスか? 人気投票でセサミが3位を取ったんでゲス」


「ほう。それはめでたいニャー」


 犬なのに語尾がニャーな左側が会話に参加してきた。セサミの3つの首はそれぞれ独立した自我を持っているのだ。


「なにがめでたいんでゲス!」


 真ん中は左の発言に対して、なぜか急に憤慨した。セサミの人気投票3位は十分すぎるほど高い。1位と2位がそれぞれ、ヒロインと主人公であることから3位は実質的に1位と言っても過言ではない。むしろ、主人公とデッドヒートを繰り広げたのは、キャラクターとして人気の証拠だ。しかし、ゲスの極みセサミはこの結果に満足してなかった。


「いいでゲスか! 3位と言ったら銅メダルでゲス!」


「いいじゃないですか。メダル貰えたんでヤンスから」


「それニャー。4位だったら、メダルすら貰えないニャー」


「甘い! 銅メダルと銀メダルって言うのは負けたやつが取るメダルでゲス! 金メダルだけが勝者の証でゲス!」


「またゲスいことを言うニャー。全世界の銀メダリストと銅メダリストに喧嘩を売ってるニャー」


「勝負の世界を舐めるな! オイラたちが3位になれたのは、1位を目指してがんばってきたからでゲス! 最初から3位狙いに甘んじているやつが3位をとれるわけがないでゲス! だから、オイラたちは次回の人気投票で1位を目指す気で読者に媚を売って行かないといけないでゲス!」


「媚を売るとか言い出したでヤンスよ。この犬……」


 右セサミが自身の後ろ右足を使って、耳の後ろを掻き始めた。


「あ、それ、オイラにもやって欲しいでゲス」


「おらおらぁ!」


 右セサミの足さばきがゲスセサミの右耳を掻く。


「違うでゲス。左耳を掻いて欲しいのでゲス」


「それを私に言われても知らんでヤンス。左に言って欲しいでヤンス」


「左頼むでゲス」


「全くしょうがないニャー」


 左セサミは嫌々ながらも真ん中セサミの左耳の後ろを足で掻いた。


「それで、話を戻すゲス。オイラたちは十分にあのサキュバスメイドに勝てるだけのポテンシャルはあるでゲス。全体的な売上では勝ってるんでゲスからな!」


「いや、勝てないでヤンスよ。あのサキュバスメイドには、中の人がいるでヤンスから」


「それゲス!」


「どれでヤンス」


「現実世界のセサミも魂を入れれば人気が出るはずでゲス!」


「それは確かに言えてるかもニャー。ゲスゲス言ってる犬が人気でるわけないニャー」


「は? ゲスセサミ可愛いんだが? 成人男性がペットにしたい犬ナンバーワンでゲスよ?(八城辰樹調べ)」


「まあ、ゲスのディスアドバンテージがある中で3位は健闘している方でヤンスなあ。セサミに美少女の魂を入れたら、きっと人気が出ると思うでヤンス」


「いや、美少女はダメでゲス。ここは成人女性を起用するでゲス」


「ほうその心はなんニャー」


「いいでゲスか? これは人気投票のルールの裏をついたとんでもない作戦でゲス」


「ほーほー。言ってみるニャー」


「まずは2位の賀藤 琥珀/ショコラ。これは、Vtuberと魂が合算されている計算でゲス。つまり、ショコラのファンと琥珀のファンの票が合わさった結果でゲス」


「ふむふむ。それはわかるでヤンス」


「つまり、セサミに魂が入れば、更にそのキャラの人気と合算されるということゲス。そうすれば1位を取ることなんて夢ではないゲス!」


「いや、無理ですニャー。4位以下の票数を見てみるニャー。この中でセサミの票と合算して1位になれるキャラはいないニャー」


 左セサミの発言に、ゲスセサミは「ゲースゲスゲス」と笑い始めた。


「だから、貴様はダメなんでゲス。いるじゃないでゲスか。合算することで確実に1位を取れるキャラが……」


「ま、まさか……そ、それは禁じ手でヤンスよ!」


「気づいたようでゲスな! そう、1位の里瀬 操。その魂を、セサミが取り込めば最大のライバルの票がセサミに流れて、確実に1位を取れるでゲス!」


「なんというゲスな発想ニャー。正にバーチャルの世界観だからこそできる最強のフュージョン! 普通の作品だったら、絶対にできない人気の取り方ニャー」


「流石ゲスセサミでヤンス! 発想がゲスすぎるでヤンス! まだVの体を持たない人間は、みんな魂を持たない3Dモデルに吸われる可能性があるでヤンス!」


「でも、師匠が快くオーケイしてくれるニャー? あの人忙しいからVtuberになってる暇はないニャー」


「Amber君」


「え?」


「Amber君が作った3Dモデルの演者ができる。そう説得すれば確実に行けるでゲス!」


「ゲ、ゲスすぎる! 正に最低の発想でヤンス! 流石ゲスセサミ! 俺たちにできないことを平然とやってのけるでヤンス。こうはなりたくないでヤンス」


「師匠の恋心を利用するのかニャー? 発想が畜生すぎるニャー」


「いいんでゲスよ。どうせ、オイラたちは畜生でゲスから」


 確かに、犬は畜生以外の何物でもない。そして、畜生ですら気付いた恋心に気づかない人間がいるらしい。


 完璧な作戦を思いついたセサミのように思えた。しかし、所詮はケルベロス。夢を通じて、現実世界と干渉ができるサキュバスと違って、現実世界にいる人物に干渉することができないのだ。


 よって、この目論見は不可能かのように思えた。しかし、セサミには切り札があった。


「ショコラお姉様。ちょっとお話があるでゲス」


「なんですか。その媚の売り方は。どうせ、ロクでもないお願いですよね? しょうもないお願いだったら、今日の食卓にポシンタンが並ぶことになりますよ?」


 ポシンタンとは、犬の肉を用いた朝鮮半島の料理である。つまり、そういうことである。


「そういうことは冗談でもやめて欲しいゲス。ちょっと、ショコラ様の力を使って。現実世界と干渉したいなと思ってるところでゲス」


「ダメです」


「そこをなんとか!」


「今日の分のおやつを抜きにしますよ?」


「それは困るでゲス」


「いつもは3本ある骨が2本になりますよ? 限られた2本の骨を3匹で醜く奪いあいたいのですか?」


「ひええ」


 セサミは青ざめる。おやつの骨が与えられないとなったら、最早生きていく意味がない。


「わかったゲス。諦めるでゲス」


 セサミはとぼとぼと自分の犬小屋に戻っていった。


「結局、ダメだったゲスね」


「師匠ならセサミの3Dモデル買ってるから行けると思ったニャー」


「世の中はそう甘くないでヤンス」


「いや、まだ秘策があるでゲス!」


「ほう、言ってみるでヤンス」


「最近はコメント欄で、政井 夏帆とビナーの人気がちょいちょい伸びてるでゲス」


「それはどうしてニャー?」


「それは……政井族の方は、番外編でパッパと絡んでいるでゲス。そして、ビナーの方も本編でショコラとコラボする機会が増えてショコビナてぇてぇで人気を博しているでゲス」


「つまりどういうことでヤンス?」


「今から、あのサキュバスと絡んでセットで人気を出していくでゲス!」


「それはいい考えですニャー!」


 というわけで、犬小屋を飛び出してセサミは野球ボールを持ってショコラの元へと駆けて行った。


「へっへっへ。遊んで欲しいでゲス。へっへっへ」


「お断りします」


「なんでゲス!」


「あなたと野球をしてもクソゲーにしかならないからですよ」


 ショコラのホームランダービーを観測したショコラ。その状態で、犬と野球で勝負する気も起きずセサミの作戦はまたもや失敗の終わるのであった。

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